108.修羅場発生(涙目)
その後。
私は、愛しの翼に腕を組まれながら、ダラダラと冷や汗をかいていた。
「えーと、こちら、つば…、じゃなく。私の親友のビアンカ・アシュフォード様です。そしてこちらは、わが国の第一王子フレデリック殿下と、第二王子のヴィンセント殿下、そして魔導士団長子息のアレクシス・エヴァンス公爵令息と、騎士団長子息のグレン・デイヴィス侯爵令息」
「ふふふ。よろしくね。ところで、出会ったばかりで”親友”なんて、まるで御伽噺のようだね?」
「いやあ、運命的なものを感じますよね!」
私に続き、第一王子殿下と翼が続く。
二人共笑顔で、友好的なことを言っているのに、そう思えないのは何故だろう。
「あ!そうそう、私達、週末に貴族街をまわる予定を立てているんです。みなさんも良ければご一緒にどうでしょうか?」
つ、翼……?
私は、ぎょっとして翼を見やる。それもそのはず。普通、友達とはいえ、女子二人の貴族街散策に気軽に付いてくる男性など居ないからだ。つまり、これは素直な遊びの誘いと見せかけての挑発。
しかしそれに対し、フレデリック殿下は素敵な笑顔を浮かべた。
「貴族街を?楽しそうだね。ぜひ同行させて貰おうかな」
「……。ほ、本当ですか?嬉しいです、殿下とご一緒出来るだなんて!」
「ふふ。私もだよ、アシュフォード嬢」
…なんだろう。
会話だけ聞けば、王子と令嬢の両片思いにさえ聞こえるのに。
なんなんだろう、この政治みたいなやり取りは。
交渉は殿下達とだけで十分なのだが、と思っていると、不意に手を握られる。すると、穏やかに火花を散らす二人の視界から見えないところで、ヴィンセントが私を連れ出そうとしていた。
「……」
『きて』と口パクで言われる。ついでに「シーッ」と、人差し指を自らの唇に押し当てながら。
ヴィンセントとはもう付き合いも長く、無論本当に親友同士であるため、親友に限っては甘々は私としては答えに窮す。
そしてその時、背後から、しっかりと両肩を掴まれた。
何事⁉と思いサイレントで振り返ると……、そこには、私の左肩と右肩をそれぞれ仮拘束した、アレクとグレンが居た。
目で、「忘れてたよね?」「忘れてないよな?」と無言の圧をかけられる。
嬉しいけれど辛いような、でもやはり人間なのでちょっと優越感が湧いたりもしつつ、でもこれからどうしようこの状況、なんていう困惑もあり…。無事、感情という名の絵具がぐちゃぐちゃに混ざり合う。
(…よし!ま、まあ!初対面だからお互い緊張してるだけでしょ!つまり、翼とみんなをも友達…いや、最低限知り合い程度にすれば問題ナシ……そして、そのための作戦は…‼)
「…あ、あーっ、じゃあ翼、こんなのはどう?」
「こんなのって?」
「えー…。……みんなで…街に遊び行く…とか?」
戦々恐々とした引き攣った笑みを浮かべる。
そして、私はみんなの表情に、「ひぃっ」と小さな悲鳴をあげた。
…だって、もっとみんなの表情が怖くなったのだから。
王族兄弟はこれでもかと圧をマシマシしているし、翼はガッチリ私に抱き着き、裏のありそうな黒い笑顔を浮かべている。アレクやグレンも、肩や氷のように、肩や炎のように、空気が冷え切っていたり燃え盛っていたりする。
これを見て、私は天を仰いだ。
そして、悟る。
私の判断が、100%裏目に出たことを。
『ビアンカ』のビジュアル、作者の好みにより変更されました。
大変失礼致しました…!(土下座)
・透き通るような水色の髪
・キリッと整った目鼻
・天女のような白磁の肌
・瞳は思慮深さを表す藍の色
・総合的に圧倒的女神
(全てリズ談)




