107.親愛なる親友へ、狂気と狂喜の再会を。
金瀬翼。
それは、私にとって、大切過ぎるほど大切な人物の名前。
そして、十九回転ぶという偉業は前世の彼女らしくはないものの、日本人的な低姿勢に、至近距離で私(美少女)と目が合った時やお姫様抱っこをされた時の初心な反応、それに、普段からちょけて言っていそうなアニメ格言の数々…。
それらと照らし合わせると、目の前にいる少女は、”金瀬翼”で間違いないのだろうと思わされる。
と、いうことは……。
「…え、ええええええっ⁉ツバサ⁉あの金瀬翼⁉⁉⁉」
「そう!金瀬翼‼」
本物の金瀬翼ということである(二度目)。
「美南~!久しぶり!まさかこんな金髪碧眼美少女に転生してるとは思わなかったぞっ!このこの~!」
やいやいと肘で小突かれる。
しかし、ある意味普段通りなその反応に、あはははと柔らかく笑った。
さっきの緊張感はどこへやら、この場はただの再会の場と化していた。
「あははっ。へぇ、じゃあさっき、私に照れたことになるんだね~。へぇ~?」
「あれは仕方ないよ。だって美少女がそこに居るんだもん。うん真理」
「真顔で言うな…」
やけにキリッとした真顔で言い切られ、呆れの言葉が口を吐くが、顔に浮かぶ嬉しさは隠しきれない。
「それにナイスバディになってるし?もにゅもにゅした感触とふわっとした良い香りと、おまけにぷるぷる唇に迫られたら、誰だって滾るよなあ?」
「そこは頼むから滾るなよ…」
「ま、てことで、涙の再会だねぇ!うわああああん!美南、わたし寂しかったよぉぉおおお」
「よ、よしよーし……」
翼と居ると、何故か最終的には私の方が気圧される。
これだけで、どれだけ翼のキャラが強いかが察せられるだろう…。
半ば諦観を持ちつつナデナデしていると、「あ」と翼が声を出した。
「ねえねえ、そういえば美南ー」
「んー?」
「あのイケメン達って、全員攻略対象だよね?もしかして攻略したの?」
「え?してないよ。てか攻略対象だったんだ。初めて知った」
「えー……。うん、流石魔性の人誑しと噂になっただけのことはある」
勝手に納得された。
というか、魔性の人誑しとはなんだ。不名誉なのか名誉なのかわからんな。
「……というか、さ」
「ん?」
若干口をもごもごさせる翼。
ハキハキしててユニーク(悪口ではない)な翼にしては珍しいと、不思議に思いつつ先を促す。
すると、ほんのり頬を染めて、チラチラとこちらを伺ってきた。
「…その、誰かと…。そういう関係だったりするの?」
「な訳ないでしょ」
ビシィッとチョップを決めると、「いったあ!」と情けない声があがる。ほんと、勘違いも大概にして欲しい。
「そもそも。私が”親友”相手に、そんな不埒なことを考える人間だとでも?」
「そんないいじゃん。というか、”親友”を聖職者か何かみたいに言うの、美南ぐらいだと思うけど…」
「そ・れ・で・も!わかるでしょ?私がどれだけこの言葉にこだわってるか!翼なら!」
「ま、まあ……」
渋々といった様子で頷く翼に、私も段々ハイになってくる。
「”親友”は、護る存在、神聖不可侵。ただ幸福を祈り、邪魔者は原則即刻排除。でも表面上は誰よりも近くで気軽に言葉を交わし合い、信頼関係を築き合う、そんな存在…!」
「うん。相変わらずそこは狂ってるんだ」
私は「知ってる」と返す。知っているから、この世界ではこれを、バレるまで隠し通そうと決めたのだ。それが例え、”親友”相手だとしても。
「――そして!この世界には、愛しの義弟が居るの」
「…ああ、レオ…レオナード・レイナー君か」
「そう!莉音のような目に遭わせないためにも、私はギラギラ目を光らせて、脅威が到達する前に殺処分にするの!」
「おお、何度聞いても怖い夢…」
「もう、他人事じゃないんだから。翼も親友なんだからね?」
「……はーい」
「何その明らかに不満ですみたいな返事」
「えー?いーやー?何もー。はーあ、私も彼らもか~わいそ~」
「はあ?何が可哀想なの?」
強い語気で言い返すと、「べっつに~?」と拗ねたように返される。
「美南のこと好きなのに、全員可哀想だと思って」
「私も好きだよ?みんなのこと」
「…まあ、今は良いけどね。はぐらかされても」
はあ……と重く吐かれる溜息には、どこか切なさが混じっていた。




