105.『アシュフォード』
アレクシスは、さらりとした銀髪と、長く縁どられた睫毛が、より一層彼を美青年にしていた。グレンは長い髪を後ろで一括りにし、前に流しているが、さっぱりとしていてアレクにも引けを取らない顔面だからか、無自覚に女子たちに色気を振りまいている。
ヴィンセントとフレデリックは、狙っていくらか愛想よくしているみたいだが。それにしても、黒髪赤目と金髪碧眼なのに超お似合いなのだが、ここだけは仲が悪い。まあ、敵同士?といえばそうなのだから仕方がないが…。
そう考えていると、先生が教室に入って来て、入学式のため体育館のようなところへ通された。
席に座ると、私の左側にみんなが座るような形になり、右側にぽつんと一つ空き席が出来た。
それでも何も気にせずにみんなと会話をしていると、ふと右側に気配を感じてちらりと目をやる。
……するとそこには、緊張でガチガチなのか動きがおかしい、水色髪ストレートの女子生徒がいた。
(おお、ここに座るなんて勇気あるな。それにしても、見かけない子だけど…)
あまり夜会では見かけたことがない顔に、むむっと眉を寄せる。
だが、親友達のことではないためすぐに冷めた私は、(……まあいいか。式が終わるまでだし)とその生徒を放置することに決めた。
そう、確かに放置するつもりだった。
「こ、ここが『こーらぶ』…ってもしかして隣にいるのって悪役令嬢様⁉」
…な~んていう、お気楽な声が聞こえてこなければ。
(あ、この人、転生者だ。しかも多分プレイ済みの)
流石にここまで言われればわかった。というか、同じ転生者がいるとか、万が一私がエリザベスのままだった場合に「悪役令嬢」なんてワードが耳に入らないのかとか、色々気を付けることはあったと思うのだが…。ううん……心配。
(……でもまあ、探す手間は省けたかな)
私は、こっそりと右隣のお気楽水色髪に話しかけた。
「…あの、すみません」
「は!…はい…」
(おお、かなり大声が出た……。あんまり目立ちたくなかったんだけどな…、ほら、もうみんなからも『え?誰その女?』みたいな空気感じるし…‼しょうがない、もう一度出直そう)
「…いえ、緊張していたようだったので。驚かせてしまってすみません」
「い、いえいえ…!こちらこそお心遣いを無駄にしてしまって、申し訳ありません!」
なぜかとても耳に馴染むテンポ感や声音に、少し不思議になりながら、私達の会話をそこで終わらせた。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
入学生代表の挨拶はフレデリックが務め、盛大な拍手が巻き起こった。
あとは学園長のお話などだったので、先ほどの水色髪ストレートの子のことを考える時間に当てさせてもらった。
そうして入学式が終わった後は、教室に戻り、日本でもおなじみの自己紹介タイムに入った。
教室の右上の生徒から順に自己紹介をしていく。名前や家名、特技を言って終わる生徒が殆どで、私達は結構最後の方だ。
そういうことで暇をしていると、例の水色髪ストレートの自己紹介が始まった。
やけに私の周りの空気がピリッとしたけれど、そんなことより、(何か失敗しそう)というダメな直感の元、私はハラハラしながらその子を見ていた。
そして…、遂にその子が、口を開いた。
「…初めまして。アシュフォード子爵家の娘、ビアンカ・アシュフォードです!その、特技は勉強です。よろしくお願いします!」
…アシュフォード?
初々し過ぎる挨拶という点でもそうだが、うん?と私は固まった。
(………あ。そうだ、忘れてたけど、この子が怪文書を送り付けた犯人なんだった)
この後、たっぷり話し込む必要がありそうだと、腹の中で私は算段を立てるのだった。




