104.春は『乙女ゲーム』と『学園開始』の季節です
…春。
故郷のように、学園への道を桜並木が彩っている。春特有の瑞々しい香りが、ふわりと鼻腔を擽った。ほどなくして、敷地内の馬車止めに、私とレオを乗せた馬車がガラガラといいながら停止する。
なぜか私とレオと一緒に来ている両親が先に降り、その次に、レオのエスコートで私も下ろして貰う。
レオは、十五歳になり、背もぐんと伸びた。悔しいが、私が少し見上げる形になるほどだ。それに、顔立ちからも幼さが抜けてきて、一緒に歩いていると、老若男女問わず「きゃーッ!」と言われてしまうほどの美男子にも成長した。
しかし、私より少し薄めの金髪や、今にも蕩けそうな蜂蜜の瞳、そして小悪魔のような笑顔は、いつになっても変わらない。
…あと、お姉ちゃん子なのも変わらない。
だって、「姉様と学園に入学する。そうじゃないと変な虫が寄って来ちゃうから」と父と母に直談判した挙句、本当に優秀な成績を収めて、飛び級のような形で同級生になったのだから。嬉しいけど。そりゃもうめちゃめちゃ嬉しいけど。
「ありがとう、レオ」
エスコートに他の諸々を含めて言うと、レオは人懐っこい笑みで「どういたしまして、姉様」と言ってくれた。
「姉様、やっぱり今日も可愛いね」
「それはレオもだよ。今日も天使…可愛すぎて他の誰にも見せたくない」
「姉様のバカ。そういう時は格好いいって言うんだよ?」
「ふふ、格好いいし可愛い。若干可愛いが勝つけどね」
「も~…」
「エリザベス、レオナード。はしゃぐのはいいけれど、もう少しで入学式が始まるわよ」
「ああ。遅れることのないようにな」
お父様もお母様も、少し目を細めてそう言ってくれた。
寡黙で落ち着いた雰囲気は変わらないけれど、転生時よりももっと、この人達をより大切な家族だと思うようになっていた。
「わかりました、お父様、お母様。では、行ってきます!」
「行ってきます」
「行ってらっしゃい、二人共」
「気を付けなさい。不届き者がいれば逐一報告するように」
「直ちに始末しますからね」
今日も過保護ぶりが健在な二人に見送られ、私とレオは、手を取り合って校舎を目指した。
「それはそうと、流石に校舎も大きいね~!桜もすごく綺麗だし」
「この木、確か四季樹って言って、春夏秋冬で色々な花をつけるんでしょ?だから姉様、絶対ボクと見に来ようね?間違っても、アレクシス様とかグレン様とか、特に王族兄弟とは一緒に見ちゃダメだよ‼」
「あははっ。まあ、一緒に見ることもあるかもだけど、レオとはいつも一緒に登校するんだし、一番最初はレオとになるよ?」
「それはそうだけど……。…姉様、強さは育っても警戒心だけは育たないよね…」
「えー?そう?まあ、何かあっても返り討ちに出来るからなあ」
「もー、そういうのがダメなの!いい?姉様。学園に入ってから、ほぼ確実に姉様を狙う不届き者共が増えるんだから、そういうのは自分でもブロックしなきゃダメなんだからね?」
「不届き者?わからないけど、レオや私、ひいては家族に逆らう奴は、レオの視界に入る前に片付けるから大丈夫だよ!」
「嬉しいけど自分も気を付けて。あと、絶対不届き者の意味わかってないでしょ」
「わかってるよ?レオ君の害虫=不届き者だし」
「……まあ、ギリギリ伝わってるか。姉様に欲情する人間=ボクの害虫なわけだし…。…うん!やっぱりそれなら問題ないかも!」
「そう?ならよかった~」
いつも通り、『和やかな』会話をしつつ校舎に入る。
校舎は、日本の学校をベースにしているようだが、高級感が違い過ぎた。やはり、貴族の子女が通う学び舎らしく、お金はこれでもかというほど投入されているのだろう。
(まあ、一国の王子も通うんだし、当然といえば当然か)
そうして、レオのエスコートで更に奥へと進んでいく。
「…ああ、そういえばこの学園って、普通の学校とはクラス分けのやり方が違うんだよね。確か、X、S、A、B、C、D、E、Fの八クラスがあって、直前のテストの成績で逐一振り分けられるって」
「それに、学年の区切りがないんだよね!」
そう、それが一番、日本の学校とは異なるところだろう。
前世でいえば、海外の飛び級制度のようなものだ。貴族は家庭教師が付けられている場合がほとんどで、進度もまちまちなので、こういう体制が取られるようになったらしい。
まあつまり、今の私達の状況はというと、高一の段階で高三~大学一年ぐらいのレベルをこなせているため、そこまでひとっとびしてしまった、飛び級にとても近いものなのだ。
とはいえ、上級生ばかりがクラスを占めているというわけでもない。
本当に進度が個人によるという感じなので、私達と同じ年齢の子もいれば、結構上な人もいる。私達より三個上というような先輩が下級クラスで卒業する、というのもままある話。
……と、いうことで。
ガラガラガラガラ…と、『X』との表記がある自教室の扉を開けると、親友達の顔がすぐに目に飛び込んできた。
自由席なのか、一か所に固まっている。大学の教室のような造りになっているため、一番座高が高く、そして一番後ろの席。
一机に三席あるため、左上にアレク、上にフレデリック、右上にヴィンセント、そして右下にグレンがいて、下と左下が空いている状態だ。きっと、爵位的なもので少し気を遣った結果なのだろう。
「おはよ!」
自然に席を開け待っていてくれた(と思われる)のが嬉しくて、思わずふにゃけた笑顔で挨拶をする。ふにゃけたというか、もうほぼ満面の笑みだったと思うが。
それでもそれぞれが本当に嬉しそうな笑顔で応えてくれるものだから、私も一層嬉しくなって破顔した。そして、促されるままセンターに座るのだった。
…そして、絵面的になんかやばい感じになると、帰宅後に気付くのだが、今の私はそんなことも知らず、呑気にニコニコとしていた…。




