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102.君の言うことを一生聞くよ


「…見透かして欲しい、というと?」

「……私は、私を見抜いてくれる人が好きだよ。そしていつか君に、私の全てを見透かして欲しいんだ」



 そこまで聞いて、私は、深刻な表情で考えた。


(……もしかして、特殊な趣味をお持ちの御方なのだろうか)


 そんな失礼なことを考えているとも露知らず(いや見抜いているかもしれないが)、殿下は、視線を私の旋毛あたりに落としつつ、しっとりと呟いた。



「でもどうせ、君は、協力してと言っても逃げるだろう?」

「当然ですね。逆に、今逃げずにいつ逃げるんです?」

「だからだよ。…大切な親友のために、そして私のために、これからたっぷり時間をかけて、私のことを見抜いて欲しい。ほら、君は、私が王位継承についてどう思ってるかとか、私の弱点とか、色々と知りたいことが山積みだろう?だから、丁度いいかと思ってね」

「う、うっわあ……」



 明らかに顔を顰め始めた私に、「わかってはいたけど、そんなにあからさまにドン引きするんだね」と楽しそうに殿下が言った。誰のせいだと思ったが、そもそも「見抜いてほしい」というお願いの形であり、更に目に見えないものなので、命令ではないと解釈した。

 それなら私がどうしようと勝手だろうと思い、次の句を告げた。



「……まあ、精々勝手にしておきます」

「うん、わかった、待ってるよ」



 …はい、まあそう簡単にいくとは思ってませんでしたがね。



「あああ、話が、話が全く通じない…っ」



 あまりのストレスに、遂に言葉が崩れ始める。しかし殿下は少しも気にする様子はなく、「ああそうだ、どうせなら親友とでも言っておいた方がいいんじゃないかな」なんて呑気に言い出した。



「婚約者だとまで勘繰られたくはないだろう?」

「まあ、それはそうですが。なら、お友達ということで」

「それでもいいよ。まあ、私は親友と報告するけれど」

「……も、もうこの人ほんとヤだ‼ああ、今から憂鬱だ…令嬢達からの嫉妬の視線に面倒な王族の方々とのアレコレがぁ……うっ、うぅぅぅ…っ」



 うわーっと思わず頭を抱えたくなって、そういえばダンス中だったと、殿下に添えた手を思い出した。



「ふふ、ようやく観念してくれた?」

「……はい。逃げ道がことごとく封鎖されたので」

「ははっ。じゃあ決まり」



 殿下はそう言うと、傍から見れば、甘く蕩けそうな笑みを浮かべた。

 殿下の顔面崩壊に、「いひゃああああああっ‼」という声が上がる。殿下を奪われたからこその「いやああああ!」という絶叫と、「きゃああああああ!」という興奮が混ざった声は、何と言うか、逆に私を落ち着かせてくれた。



「…と、いうことで、話はまとまったね」

「はい。つまり、私は殿下の傍で殿下を探ることができ、私は一方的に殿下に脅される形で『知れるように頑張ること』と何故か応援されているということですね」

「あはは。まあ、そうだけれど…。モチベーションが低そうだね?なんならご褒美とも言える提案なのに」



 殿下に指摘され、最早ぎくりとすることもなく、若干諦めながら私は応える。



「ですから、私としては殿下の傍に居たくないんです。確かに傍で、しかも大胆に探れるのは強みですけど」

「うーん…。じゃあ、こうしよう」



 殿下とくるりと一緒に回ると、殿下の金髪が魅惑的に揺らめき、穏やかな瞳はミステリアスに細められた。



「君がある二つの条件を達成したら、その時は…。報酬として、君の言うことを一生聞くよ」



「……え?」



「だから、君の言うことを、一生、聞くよ?」



 …いやいや、『聞くよ?』と小首を傾げられても。



「ダメです。信用なりません」

「魔法契約でもしようか?」

「罠かもしれませんので遠慮します」

「どうしたら信用してくれるのかなあ…」



 グイグイ来て勝手にこちらを困らせるだけ困らせて、警戒されたら楽しそうに「どうしよう」と言う姿は、本当に、誰かさんにとても似ている。



「…まあ、条件を聞くだけ聞いておきましょう。どのような条件ですか?」



 一挙一動をつぶさに観察しつつ、問いかける。

 そうすると、殿下は、待ってましたというように無邪気な笑顔をぱあっと浮かべた。



「まず一つ目は、君が、寸分の狂いなく、私が王位継承についてどう思っているか、そしてどうしようと思っているのかを当てること」



(…寸分の狂い無く?わざわざ強調するってことは…もしも私が、見誤ったら――)


 にこり、と音もなく微笑み返された。

 ぞわぞわぞわっ、と、言いようのない恐怖が背中から這い上がってくる。


(この人やっぱりめちゃめちゃ怖い‼…でも、ここで尻込みなんてしてられない)



「…なるほど。それで、二つ目は?」

「…二つ目は、『―――――』こと」



 私は、再び硬直した。



「……え?それが、条件…?一国の第一王子殿下に、一生、何でも言うことを聞かせることのできる条件???」

「うん。ああ、大丈夫だよ、これに関しては騙し討ちのようなことは考えていないから」



 もう、爽やかに笑う殿下が、まるごと怪しく見えてきた。

 だって、そんな話、普通に考えればこちら側ばかりが旨すぎる話だ。


 殿下も殿下で、見透かされたいという気持ちはあるはずだが、まさか自分の一生を賭けてまで…、そこまでして、何としてでも見抜かせたいわけではないはずだ。いや、知らないが。


 流石に訝し気にしていたからか、殿下が真っすぐに私を見つめ、こう言った。



「この先、私がどのような状況に置かれていようとも、その契約は有効だし、私の最優先事項にするよ。…約束する」



 真摯に言質を取らせてくれた殿下を前に、考える。


 これは、私やレオ、家に、親や友達の未来までもを左右することになるかもしれない、重要な話だ。甘すぎる蜜が逆に怖いが、既にハイリターンなのだから、ハイリスクを取っても、ただただ損をするということはないだろう。


 そして今、レオの周りが何やらきな臭いことになっている。例の隣国の件や、結界のような魔法の件などなど、我が家はこれから様々な危険に見舞われることだろう。


 この先私は強くなる。そして、大切な人達も勿論守る。だが、その戦力は決して十分とは言えない。筆頭公爵家と言わしめる我が家でも、レオの未来を確約出来ない。


 …でも、もし殿下の力を借りられたなら。

 レオを、ほぼ確実に守り抜ける。それだけじゃない、これから出てくる問題や、親友達が危機に晒された時、殿下に助けを求めることだって出来るかもしれない。それに、ヴィンセントの王位継承のこともある。


(…仮に、罠だったとしても――私は、やる。やってやる)


 くっと上を向き、一際優美な笑顔を浮かべる。

 覚悟を決め、取られている手をぎゅっと握り返して言った。そして、音楽が止まった瞬間にそっと囁く。



「――それ、乗ります」



 その瞬間、私と殿下は、強い契約で結ばれた。





 その夜、眠りに落ちる直前、二つ目の条件が微睡の中で蘇った。


――『そして二つ目。…私が君をどう思っているかを当てること』


 それは無意識のうちに、私の胸を締め付けていた。

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