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98.聞き逃しましてピンチです(自業自得)


 私は、ガチガチのガチガチのガチガチにドレスで固められ、かぽかぽと馬車に揺られていた。


(…いくら王城とはいえ、過去イチだった…)


 コルセットは、思わず胃がひゅっと引き締まるほどキツくしめられた。

 お化粧は、いつもは私の要望でナチュラルメイクにしてくれているのだが、今日は何というか…、清楚系整形的な完成度を誇っていた。


 お風呂も容赦なく、じゃなかった、念入りにされ、肌はもっちもちのツルスベへと生まれ変わった。赤ちゃん肌とはまさにこのことなのだろう。


 そして、ドレスや装飾品も、凄い気合の入りようで…。

 紺の生地が、グラデーションになるように重ねられており、まるで名画の中の夜空のようだった。その中に、金色の装飾が煌めいている。金色で多く縁どられたドレスは、腰下はふんわり、腰上はピッタリしていて、曲線美が光っていた。


 ネックレスも一つ、金色のものをつけている。イヤリングは、金色の枠組みに、ドレスの色と合わせた宝石を雫型で嵌め込んでいる、とてもオシャレなものだった。


 ……まあ、つまり、何を言いたいのかというと。

 どこに行くの?戦場ですか???と聞きたくなるほど、私が武装している状態であり、動きづらいことこの上ないということだった。


(はぁ~~~~~~~~~…)


 見送りに出てくれた使用人達、特に侍女達の顔を思い出す。

 …久しぶりに好きに出来て、楽しかったのだろう。私よりも、お肌がぷるぷるツヤツヤだった。くそう、私はビタミンCか何かなのか。


(あーーーヤダーーーーーーーーーーーー)


 目がもれなく死んだ。

 そして、そこまで考えたとき、ぱかぱかと進んでいた馬車が緩やかに停止した。



 ♦ ♦ ♦ ♦ ♦



「……。」



 形ばかりの微笑みを浮かべ、入場する。

 そこには、色とりどりの花が咲き誇っていた。

 

 王子の婚約者選定会は、所謂夜会だ。

 そのため、昼に着てくるドレスよりも、少し暗めの落ち着いたトーンが多いような気がした。


(…さてと。はー、ライラもいなくなっちゃったし、暇だなー。これからどうしよっかな)


 今日も今日とて、両親から課されたノルマを数十分で完遂すると、シャンパンを受け取りちびちびと飲み周囲の様子を窺っていた。

 すると、割と早い段階で、「第一王子のご入場」が叫ばれた。


 たくさんの拍手に迎えられ、道のど真ん中を歩いてくる第一王子殿下は、大層美しく成長しておられた。流れるような金髪と碧眼、そしてエルフの耳が爽やかさを増している。麗しい微笑を浮かべつつ辺りを見渡せば、目が合ったと錯覚する令嬢が「きゃあっ」と可愛らしい悲鳴をあげる。


 さらに、前回お会いしたときと比べ、色気が格段に増した。一つ一つの仕草は、気品がありながらどこか物憂げで、令嬢達を否応なく引き付ける。


(んー、イケメンはいいなー。あんなにご令嬢達に騒がれて。興味はないけどモテてはみたい)


 ぱちぱち、と周囲に合わせ拍手をしつつ、仏のような微笑みの裏で私はそう思っていた。


 それからは、「皆、今宵はよく集まってくれた…」とか、「選定会の形式だが、ひとまず今日は挨拶を…」とか、「次からは…」とか、社交辞令とシステムについて説明された。まあ、ほとんど聞き飛ばしていたのだけれど。


(だって、王子の婚約者決めの時は、大体同じような段取りだって教えてもらったから)


 というか、ここ数百年変わらない伝統らしい。

 なので、変えようもないわけで。つまり、私が集中して話を聞かずとも大丈夫ってわけ。


 だから、コルセットに締め付けられていながらも空腹を主張するお腹のため、私は並ぶ食べ物に狙いを定めていた。


(すぐに行ったら失礼過ぎて咎められるかもだけど、合間合間に抜け出すぐらいなら大丈夫だよね。…うわ、あのお肉…ジューシーで美味しそう~…!しかも夜会には滅多に出ないホカホカタイプ!いいな、食べたい…うん、お腹を鳴らさないためにも早く食べる、それが最低限のマナーだね!よし、やっぱりこれが終わったらすぐ行こうっと)


 ローストビーフにシチューなど、メインばかりを狙って見定める。

 デザートも好きだが、今はそれよりも、何と言っても肉やパンなのである。口がそう言っている。特に、濃いめの味付けのものを狙わせて貰いたい。


 そう考えていると、不意に、耳に入って来ていた声が鳴らなくなった。

 やっと終わったかと考えていると、何やら会場がシーンとなっている。それでも構わずに動き出そうとしたとき、王子だけが動き出した。


(え?えっ?こんなの予定になかったよね?)


 何事かとぎょっとして、慌てて辺りを見回す。

 すると、どの令嬢も、「ごくり…」とこちらまで聞こえてきそうなほど、決死な表情をしていた。


(い、今から何が始まるの…⁉というか…はて、何か第一王子殿下がこっちに向かってきてる気が…まずい、こんなの聞いてない!まずいまずいまずい、もし私が何かに選ばれるようなことがあれば…私、話を聞いてないから、何もわからない‼)


 冷や汗がつーっと頬を伝える。

 他の令嬢の真似をして、どうかやり過ごせますように!と祈る。

 ……が、その祈りも虚しく、王子は私の目の前で止まり、跪いた。



「どうか、――どうか、私の”今宵のパートナー”に、なって下さい」



 ところで、周囲には、物語の絵のような二人に見えていた。

 補正で、想い合う二人♡に見えている令嬢も少なくない。

 が、当の本人はというと、


(そこまで言うなら、『何をするか』も補足しろ!そしてわざわざ私を選ぶな‼このキラキラ王子めが‼)


 …と、怒りに任せ、心の中では罵詈雑言で王子を突き刺していたのだった。

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