95.恋は戦争 ~侍女たちの実況を添えて~
「へえ。じゃあ、こっちで取り寄せて、プレゼントしようかな。ありがとう、レオナード君?」
にこりと、そう挑発的に微笑むヴィンセントに、レオナードは無邪気な笑顔を返す。
「ええ?でも姉様、ボクから貰った方が嬉しいと思うよ?だって姉様、ボクのこと、だ~い好きだから」
「……ふふ。もしかして、レオナード君は…夜会でのことを覚えてないのかな?あんなにリズが、オレとダンスをしたとき、顔を真っ赤にしていたのに」
「あ!それ、ボクもだったよ!姉様って、余裕そうに見えるのに案外初心で、可愛いよねっ」
「可愛いだけじゃなくて、思いやりもあるお姫様だよ。前なんて、オレのために大がかりな魔道具まで作って来てくれたし…。ああ、そうそう、ウサギ型にりんごを切ってくれたりなんかもしたなあ」
「ふぅん。でも、姉様の手料理ってなんでもおいしいから……って、殿下は食べたことなかったよね」
「いいや?これから食べさせてもらうから心配ないよ」
バチバチッと火花が散り、その様子を、アレクシスとグレン、そして侍女三人は、遠い目で見守っていた。そして、いつしか侍女間では、アイコンタクトでの会話が始まった。
(こ、これがリズ様取り合いの現場…‼世の恋人たちは、こんなにも熾烈な戦いを潜り抜けてきたんですね‼)
(…リリー、真に受けないで…。少なくとも、こんなにわかりやすく火花を散らしている光景はなかなかないわ)
(本当に。これを基準にしてはダメ。あと、これがエスカレートしていくと、ヤンデレ化を引き起こす場合もあるのよ…。最悪の場合、ナイフで後ろからザクっ…そしてそのまま二人でご臨終なんてエンドも…)
(ナイフでザクっ⁉ご臨終⁉⁉)
(ちょっとラピス、言葉が強いわ)
(少し怖いくらいが丁度いいわよ。そうじゃないと…、リリーに悪影響が出る)
(…。確かにそれはよくないわ。よし、ラピスの方針で行きましょう)
密かに、末っ子ポジションのリリーを守る決断をする、ラピスとアンナなのだった。
そしてその間にも、激しく火花は散り続ける。
「え~?手料理なんて、本当に食べさせてもらえるかなあ」
「リズは元々優しいし、それに…オレにはちょっと甘いから」
「確かに姉様は優しいから、大切な親友を強く突っぱねたりは出来なさそう!」
ニコニコと微笑み合っていた二人だが、「…そういえば」と言いつつ、アレクシスとグレンの二人にヴィンセントが視線をやった。
「二人は、リズの親友なんだよね?」
…ピキッ。
…と、空間が割れる音がした。
それと同時に、遠巻きに見ていた二人が近付きつつ口を開いた。
「ああ、そうだな。少なくとも今は親友だ」
そして、悪戯っぽく、グレンはニヤリと口角を上げる。
そうして――侍女達に、衝撃が走った。
(((えっ⁉グレン様もだったんですか⁉⁉⁉)))
…そう。
実は、グレンの恋心は知られていなかったのである。
しかも…
侍女達は、ごくりと生唾をのみ込み、視線を交わし合う。
(((何か凄く好戦的‼‼‼)))
(グレン様は遠くから眺めてらっしゃったから、穏やかな方なのかと思っていたけれど…)
(いざ蓋を開けてみれば、殺る気満々なあの表情!)
(それに、兄貴肌で紳士的な方だから注目されずらいけれど、『結婚したい男性ランキング』では堂々の一位‼スパダリ疑惑も出ていて、実は裏で圧倒的な人気を誇る、そんな方までリズ様を…)
(((…つまり、また大変なことになっている――‼‼‼)))
…そして、段々楽しくなってきてしまった侍女三人の表情筋も、大変なことになっていた。
さらに、そんな彼女達に追い打ちをかけるように、サラリと銀髪を揺らした少年が歩み出る。
「……ねぇ、僕も忘れないで欲しいんだけど?」
(((…エッ⁉もう自覚したんですか⁉⁉⁉)))
そう。あのアレクシスが――なかなか恋心を自覚せず、温かく使用人達に見守られていた彼が――、ようやく恋心を自覚したことが判明した。しかも、怜悧で、思わずゾクゾクしてしまうような、魅惑の笑みを浮かべながら。
…作品ジャンル、忘るべからず。
そう、これは逆ハーレム‼
日々の疲れを糖分で癒す作者の大好きなジャンルなので、ぜひ糖分補給に使って下さい。
ところで、あなたの推しは決まりましたか?
作者の推しは、現在進行形で迷子です!




