94.親友たちの楽しい乱闘
ヴィンセントの件が片付いて、周囲も落ち着いてきた。
ライラとは、学院の交換留学で会おうねと約束して、暫しのお別れをした。出立の日はキリッとしていたけれど、みんなに見送られたからか、ちょっと泣いていた。
…特に、アシュリー家の使用人さん達がライラのキラキラうちわを作って来た時は、腰を抜かしそうだった。
送り主が不明だった日本語の怪文書も、大体は目星がついた。
怪文書は、転移魔法で紛れ込ませられたみたいだ。それにしても、普通は気付かれるはずなので、相当転移魔法が上手いのだろうと言われていた。
そして、その肝心の差出人は、アシュフォード子爵家の令嬢だった。しかし、そう簡単にうちから子爵家へも出向けないので、アシュフォード嬢のことは一旦保留と相成った。
それと、ヴィンセントの計画?のことだが…。
とりあえず、失った信頼を一年で回復させるとのことだ。ちなみに、王位を諦める気はないらしく、あのあともずっと私に言い寄って来ていた。全く懲りないものである。
…とまあ、現状はこんな感じだった。
そして、そんな脳内整理を終えた私が、今何をしているのかというと。
ズバリ、木に隠れて親友たちを拝んでいた。
「「「……」」」
「……」
侍女三人の視線が痛い。
でもでも、こればっかりは仕方ないんだ。
だって、みんなが仲良く話してる…!今までちょっと距離があったみんなが…‼
そりゃあ、レオ、アレク、グレン、ヴィンセントの尊いじゃれ合いを見ていたくなるのも当然だろう。
「…いやほんと、仲良いね、あの四人!」
「どこを見ればそうなるんです…」
アンナががっくりと肩を落とす。
「そりゃ、どこをどう見ても仲いいでしょ」
私の目の前で、魔法や剣がぶつかり合う。
そして衝撃波がここまでやってきて、私の前髪はオールバックになった。
いそいそとリリーがそれを直してくれるが、その間も、ラピスやアンナの厳しい視線は続く。
「ちなみに、どこを見てそう言ってます?」
「あんなに全力でじゃれ合ってるんだよ。仲良くないわけないじゃん。しかもさっき、何かのことで意気投合していたし」
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
いっそのこと、見て見ぬふりをしているのではないかと思ってしまうほど白々しい主人に、侍女三人ははあーっと揃って溜息を吐く。
そして、三人が見聞きした大乱闘の原因が、脳内に溢れ出す。
三人が、リズを先導していたときのこと。たまたま、風に乗って、レオナードの声が聞こえてきた。
「あっ!これ姉様好きそう!」
見れば、レオナードは、ベリー入りのクッキーを指さしていた。
「これは姉様の分に取っておこう」と言うレオナードに、三人とも微笑ましい気持ちになる。
しかし、その後からが問題だったのだ。
「へえ。じゃあ、こっちで取り寄せて、プレゼントしようかな。ありがとう、レオナード君?」
…ヴィンセントがそう言うと、何かのスイッチが入ったのだろうレオナードが即座に反応した。




