93.熱烈なプロポーズ(?)と終結
心臓が、どくどくと言っていた。
元側妃メイベルが、こんな体験をしていたなんて、思ってもみなかった。あまりの衝撃に、頭痛に似た痛みが頭を襲っていた。
(でも…。ヴァンパイアのところはきっと…隔世遺伝、だよね)
メイベルの家は、ヴァンパイアと何度か婚姻したことのある家系だ。
きっと、それが出てしまったのだろう。
(元側妃、メイベル……。こんな方、だったんだ)
私は、きゅっと口を引き結んだ。
事件の全貌が、やっと明らかになったのだと知った。
その時、突然殿下から声がかかった。
「ねぇ」
「!…はい、どうしましたか、殿下」
心なしか、殿下の声は固いように聞こえた。
表情も、よく見えない。
「…ねぇ、エリザベス嬢」
「はい」
「オレって…もしかして、生まれただけで人を殺してた?」
「…っ‼」
やっと顔を上げた殿下は、そう自嘲気味に笑っていた。
「う…生まれただけで人をなんて…あり得ませんから‼」
「でも……オレは、間接的には…殺したんだ」
「このころの殿下は何も出来ない赤ちゃんだったんでしょう⁉なら何にも出来ないただの赤ちゃんでいいじゃないですか‼」
うっかり怒号のようになり、慌てて口を閉ざす。
そんな様子を見て、殿下は困ったように微笑んだ。
「…ゴメンね。君のやさしさに甘えちゃって」
「だから……」
(いつもはそんな風じゃないじゃないですか…)
こっちまで泣きそうになってくるから、やめて欲しい。
そう思いつつキッと睨むと、殿下はお手上げのポーズをとった。
「ごめんって。ただ、あんまりにも君の隣が落ち着くから」
「………」
殿下はたまに、狡い顔をする。
それはきっと、恋愛的な意味というより。
切なげ過ぎて、助けないとと思うのに気安く触れたら壊れてしまいそうな、そんな脆さを感じているから。
私はそこまで考えると、ベッドに腰かけながら打ちひしがれている殿下の視界に無理やり入るように、片膝をつく。私が顔を覗き込んでいるような状態だ。
そうして、有無を言わさず両手を両手で握った。
「‼‼」
「殿下」
真っすぐ、殿下と目と目が合う。
「頼って下さい」
「…は?」
「言い換えます。甘えて下さい」
「言い換…、えっ…?それ、どういう…」
「そのままの意味ですよ、殿下」
私は、揺れる殿下の瞳を捕まえながら語りかける。
「私は、心理に詳しいわけじゃないので、的確に殿下のお悩みを消していくことは出来そうにありません。重い話になると猶更です。……でも」
ぎゅっと、もう少し強く手を握る。
「殿下は危なっかしいので、放っておきたくありません。…いえ、もう、放っておきません」
私は、返事を待たずに「ですから」と静かに言い聞かせる。
「…ですから。私に沢山、甘えて頼っていいんです。寧ろ、そうしないと怒ります」
「……なんで、そんなにオレのことで……」
やっと回復した殿下の一言目がそれだったので、思いっきり怖い顔で言ってやる。
「そんなの、もう殿下が私の大事な人になっちゃったからじゃないですか‼‼‼」
「……え…?」
殿下は、こぼれんばかりに目を見開いた。
「オレが…大事な、人?」
「そうです。散々付き合わされたおかげでね!責任取って、私と親友になって下さい‼」
「…」
殿下は、しぱしぱと目を瞬いたあと、うるっと涙目になった。
それを急いで袖で拭うと、まだ若干涙目で、頬も紅潮していて、いつもの殿下らしくはないけれど、最高に殿下らしい笑顔を浮かべていた。
「…ふふっ。随分と…熱烈な、プロポーズだね」
「これくらいしないと、靡いてもらえないでしょうから」
そして、差し出した私の手を、とても優しく握り返される。
「……これから、オレ達は、共犯者で親友。…だったら、これもいいよね?リズ?」
「…ふふっ。勿論いいよ?ヴィンセントっ」
嬉しくて、私はつい破顔した。
「~~~~~~っ……やっぱり…君の方が、ちょっと狡いよ」
そのあとで呟かれた声は、届かなかった。
しかし、何故か異常なほど顔全体が真っ赤になった殿下の顔は、しっかりと目撃できたのだった。
こうして、ヴィンセントの事件は幕を閉じた。
よし…ついに…ついに!
ヴィンセント編、これにて完結です‼
長く、シリアスな描写も多々あったと思いますが、走り切れたことに自分でも感動しています。
最後までお付き合い下さり、本当にありがとうございました‼




