91.ってことで、一緒に読もうよ
「ってことで、一緒に読もうよ」
「一体全体どういうことなんですか」
今日も今日とて、私ことリズは、ドアの前にいる殿下に呆れ顔を向けていた。
状況を説明すると、紙と本を手に、殿下が私の部屋へ突撃しに来た感じになる。
「…とにかく、陛下は、殿下が読むのが一番いいと殿下に託されたわけでしょう?ですから、内容もわからないのに私も見るのは……」
気だるげにそう言う私に、殿下は不敵な笑みを浮かべた。
そして言う。
「…共犯者」
「……」
「共犯者、でしょ?オレら。なら、君にも一緒に見る権利はあるはずだよ。エリザベス嬢?」
「………ですが」
「そ~れ~に。陛下から託されたのはオレなんだから、オレが君と一緒に見るって判断をとっても、何も言わないと思うけど?」
「うっ……そ…れは…」
すーっと目を泳がせるが、見事にそこに殿下が入ってくる。邪魔だ。
「…それに」
「それに?」
「君とだから、見れるんだ。…実は、これはね。オレの、母の日記なんだ」
真剣なトーンに、思わずぐっと言葉に詰まった。
その間に、にこにこと笑顔で理論を固められていく。
「だから、どうしても君と見ておきたいんだよ。それに、一人で見るなんて怖いでしょ?ほら、この本の中から手が出て来て、引きずり込まれるかもしれないし」
「えぇ……。っていうか、もしそうなったとしても私、なんにも出来ませんけど…?」
「だって、二人で引きずり込まれるんでしょ?なら、その空間の中で、一生君を独占出来るってことだから。オレは別に、それでもいいよ」
「…………少し見ないうちに、ヤンデレ属性…入りました?」
「やん…、何?」
困惑顔の殿下。
だが、こちとら殿下よりもっと困惑しているのだ。お騒がせな、黒髪赤目な誰かさんのせいで。
全く……と、一つ溜息を吐く。
そして、「失礼します」と一声かけてから、殿下の近くに椅子を移動させ座る。
「いいの?」
きょとんとする殿下。
あんなにしつこく誘ったのは殿下なのに、どうして素直に受け入れるとこんなにも驚くのか…。
もう一度溜息を吐きたい気持ちを抑え、「早くして下さい」と急かした。
そして私達はまず、紙の方から先に見た。
「こっちは、何でも屋が吐いた情報だね」
「箇条書きにされていて見易いですね。ではさっそ、く…」
私と殿下は、紙を見た途端、絶句した。
『・依頼人:元側室メイベル』
「「……」」
無言で続きを見る。
『・動機は聞かされていない
・メイベルは幽閉されていたため牢屋番に扮していた黒赤の客に接触
・依頼内容は、自身と息子を殺害すること
・息子に関しては襲わせてから 』
「「……」」
言葉が無かった。
しかし、私は先に復活したので、ちょいちょいと遠慮がちに殿下の袖を引っ張った。
「…殿下」
「…はは、やだなあ。オレ、君にそんな顔をさせるほど、酷い顔してた?」
何も言えない私に、殿下は軽い調子で言う。
「大丈夫だよ。実の母だとは思えないくらいの仲だったしね。…じゃあ、今度はこっちを見よっか?怖かったら、もっとオレにくっついても――」
「そうですね、もうすっかり大丈夫みたいで何よりです。じゃ、ぱっぱと読みましょうか!」
「…一度もそういう雰囲気にならないのが、凄いよねぇ…」
虚ろな瞳の殿下を無視し、私は、本をひと思いに開け放った。