心を重ねたその先に
透の剣とギルバートの魔導がぶつかり合った瞬間、地下空間はまるで別の世界のような光景へと変貌した。
重力が歪み、時間がねじれ、空間が震える。
「……これが、世界の境界か」
ギルバートが笑った。
彼の身体はもう人の姿を保っていない。魔導陣と融合し、巨大な術式の核と化していた。
「君の力が必要なんだ、透。特異点としてではなく、完全なる媒介として!」
「ふざけるな……! 俺は……そんなもののためにここに来たんじゃない!」
透は踏み込む。
剣が意思を帯び、輝きが増していく。
「セシリアの世界を壊させない……この場所を、俺は――守る!!」
一方、セシリアとカイは、魔導塔の中層へと急いでいた。
結界が崩れかけ、空間が裂け始めている中、カイは黙ってセシリアの前を歩く。
「あなたは聞きたいんでしょう、私の気持ちを」
その言葉に、カイの足が止まる。
「透を愛しています……前世のことなんて、思い出せなくても、彼の手を取りたいって、心が叫ぶの」
「……知っていた」
静かに、だがはっきりとカイは応えた。
「それでも……私の願いは変わらない。姫が誰を選ぼうと、私は姫を守る。それが、私の役目だ」
「カイ……あなたには、感謝してもしきれない。だから、どうか……」
「いいえ、それ以上は言わないでください」
カイは振り返り、微笑んだ。
「もし、前世で私があの戦いを止められていたら。もし、姫が透ではなく私を選んでいたら――そう思うこともあります。でも、今の私は今のあなたが好きなんです」
セシリアの瞳に、涙が浮かぶ。
言葉にならない想いが、彼女の胸を締めつけた。
「さあ、行きましょう。あなたの想い人が、あなたの未来のために戦っている」
その頃、透の剣はギルバートの術式の核心へと迫っていた。
だが、ギルバートの魔力は異常だった。
「君はまだ気づいていないようだ。君がこの世界にいる限り、崩壊は止まらない。存在そのものが、因果を乱しているんだ!」
「……じゃあ、俺が消えればいいって言うのか?」
「そうだ。だが、君が自らそれを望むことはない。だから私が導く。理のもとに!」
ギルバートが魔導を解き放つ。
全てを消し去る光が、透に迫る――
その瞬間。
間に割って入ったのは、セシリアだった。
「やめて!!」
彼女の詠唱が、空間を覆う。
「私が鍵なら、私がそれを閉じる……あなたは、彼を奪わせない!」
セシリアの魔力と、透の剣が共鳴する。
二人の想いが、術式の核心に突き刺さった。
崩壊の魔力が、断ち切られる。
ギルバートの絶叫が響く。
「なぜだ……なぜ、また選ばなかった……ッ!!」
「これは、お前の再現じゃない! 俺たちの未来だ!!」
最後の一閃が、ギルバートの姿を完全に断ち切った。
光が静かに収束し、地下空間に静寂が戻る。
透とセシリアは、互いの手を強く握り合っていた。
「ありがとう、透……あなたがいてくれて、よかった」
「俺こそ……俺をこの世界に選んでくれて、ありがとう」
だが、その背後で、カイは静かに目を閉じた。
剣を収め、一言も告げずに、彼はその場を後にした。
終焉は、静かに回避された。
だが、それぞれの心に残った傷と想いは、消えることはない。