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人でなしのヴァンパイア  作者: 梨味の林檎
1章 リンディア王国
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魔の森.6

 僕は木の陰から体を出す。

 想像通りの体格をした尾行者が目の前にいる。

 彼は突然現れた僕に唖然とした表情で立ちすくんだ。


「なっ……!?」


 おそらく、人。30歳前後の男。

 彼は、目の前に僕が現れたことに驚き。

 そして……剣に手を伸ばした。


「そう。じゃあ。話を聞いてもらうしかないか。」


 彼の手が剣の柄を掴むよりも早く、僕がそれ()を奪い。抜剣する。


「は、早っ……!!」


 お前が遅いんだよ。

 格闘技も剣道も習ったことがない。

 僕にあるのはアニメやドラマで見た知識とも言えないものだけ。

 そこで見た動きのイメージを真似るように動くだけ。

 けど、能力向上した肉体はそのイメージに答えてくれる。

 まぁそれでも。これを爺さんが見れば鼻で笑うんだろうな。

 自分で動いて感じるほどに、無駄の多い動きなんだよ。


 剣を奪って彼に蹴りを入れる。

 バランスを崩そうと思って入れた蹴りは彼の体を3mほど飛ばし、

 尻もちをついて倒れこんだ。

 予想外の結果にはなったものの、これはこれでいい。

 倒れている彼の。その喉元に剣を突き立てる。


「話を聞いてくれないかな。」


 こっちは話をしに来ただけなんだから。

 そっちが剣を抜くから、抵抗できない状態にする必要があっただけなんだから。


 彼は自身の首に突き立てられた剣を見て、小さく何度も首を縦に振った。


「まず。あなたは何者で。なんのために尾行していた。」


 彼は金魚のように口をパクパクさせ、喉から空気だけを発している。


 あ、今更ながら言語は通じるんだろうか。

 もしかしてこの「フー。フー。」って空気を吐く音が言語?


 彼は喉仏を上下に動かして、ようやくちゃんとした言葉を発し始めた。


「お、俺は…冒険者ギルドの。職員の。る、ルバート…です。」


 お、言語問題はなさそう。

 まぁそれはそれで謎だけど。今はいい。宇宙人が関わってる可能性まであるし。


「ルバートさん。それで?冒険者ギルドの人がなぜ尾行なんてしていた。」


 異世界なんだからあるだろう、冒険者ギルド。

 ファンタジー世界の定番の職業。基本的には魔物狩りなどを生業とした仕事。

 冒険者と言ってるくせに世界を開拓するパターンはあまりない。


 例に漏れず、魔物狩りを仕事としていたらいいな。

 思わず笑みが零れてしまう。

 だって、都合がいい。

 クラスの目的である、人の街の場所も。

 吸血鬼の立場についても。

 知ってる可能性が高いんだから。


 まぁまず、尾行していた理由を聞かないと始まらない。

 敵対するなら口を割らせて聞きだす必要があるし、

 友好的ならこんな(武力的な)聞き方をする必要はなくなるんだから。


「き、今日は俺が見回りの当番だったんだ。

 そしたら……君たちを見つけた。

 出門した冒険者はいないはずだし、服装的にも冒険者とは思えなかった。

 疑問に思った俺は、尾行することにした…しました。」


「尾行して?それからどうするつもりだったの。」


「……わ、分からない。迷いこんだだけだと分かれば声をかけた。

 でも迷ってる様子もなく、まっすぐ()()に向かって進んでる。

 武装もせず、若い人だけの集団で。

 このまま深部に入るなら、声をかけず

 ギルドへと報告に帰っていた、と思う。」


 ルバートさんが言うには僕らの素性が分からず様子を見てた、と。

 それにしても。深部?


「先に言っておくと、僕らは迷いこんだだけ。

 ここがどこかさえ分かってない。だから適当を方向を決めて進んでただけ。

 深部に入るとまずいのか?そもそもここはどんな場所だ。」


「ま、まずい。それなら、まずい!

 あと10分も進めば深部に入ってしまう!

 こ、交渉の余地があるなら引き返してくれ、お願いだ!」


 だから深部ってなんなんですかね。


 ルバートさんに嘘を言っている様子はない。

 首に剣を突き立てられて、焦りが表情にまで出て。震えてさえいる。

 これが嘘でした。なら、僕はお手上げだわ。


「分かった。歩きながら教えてほしい。

 ここはどこで。どんな場所なんだ。」


 剣を下げて、クラスメイトの元に足を向ける。

 この人の実力はさっきので分かった。

 不意打ちではあったけど、不意打ちじゃなくても対処できる。


 それよりも深部とやらの方が危険性が高そう。

 怯えながら答えられるより、スムーズにこちらの質問に答えてほしい。


 ルバートさんもわたわたと立ち上がって僕に追従する。


「こ、ここはリンディア王国の魔の森。聞いたことは?」


「ない。説明してほしい」


「わ、分かった。

 魔の森は魔族の住む森なんだ。ここはまだ安全地域。

 魔族が済んでいるのは深部のどこかで、どこかは分からない。

 深部に入ってすぐに魔族に遭遇して生息地の調査が進まないんだ。」


「魔族と意思の疎通はできないのか?」


「で、出来る。出来るが調査に協力してくれない。

 魔族は深部に人が入ることを嫌うんだ。」


 好戦的なのか?魔族は。まぁ僕も魔族なんだけどね。


「武力で強行調査することは?」


「や、やったことはある。

 けど、そのどれもが失敗。

 高ランクの冒険者だとしても数体の魔族を倒すのが限界。

 もし彼らが王国に攻めてきたら…とてもじゃないが、太刀打ちできない。

 触らぬ神に祟りなし。ってことで深部に入るのは基本的に禁止されている。」


 いや。やったことあるって。

 攻めてこられても文句いえないでしょ。


「今まで魔族に攻められたことは?」


「な、ない。彼らは魔の森から出てこないんだ。」


 うーん。気にしないようにしてたけどさ。

 ルバートさんの話初めのどもりは癖なの?

 なんか怯えられてるみたいで嫌なんだけど…。


 それにしても、魔族は魔の森から出れないのか。出る気がないのか。

 …多分だけど、出る気がないんじゃないかな。

 僕、吸血鬼だし。種族能力に魔の森から出られないなんてないし。


「で。ルバートさんは今日、そんな魔の森の見回り当番だったと。

 見回りって?魔族が出てきてないかの確認でもするの?」


「そ、それもある。

 仕事内容は3つ。魔族が出てきていないかの確認。

 魔の森に立ち入る人がいないかの確認。

 王国に近いから魔獣の討伐。」


「魔獣の討伐?そんな薄い装備で?」


 だってルバートさんの服は布製だよ?

 ルバートさんの能力が高いなら別として、正気か?と思ってしまう。


 てか、魔獣いるんだ。

 僕らも遭遇する可能性があったわけか。


「ま、魔の森に現れる魔獣は弱いんだ。だから剣1本あれば事足りる。」


 へー。聞いておいてあれだけど。どうでもいいな。

 それよりも魔族について聞いておきたいな。

 クラスメイトのいないうちに。

 人のいる場所はクラスメイトと合流してからでいい。


「魔の森には、何の魔族がいるんですか?」


「ま、魔の森にいる魔族は3種類。

 狐のしっぽをもった妖狐(ようこ)

 巨大な体と牙をもつ鬼。

 そして、()()()()の吸血鬼。」

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