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送られてきたFAX

 僕はエックスやインスタ、ラインのようなSNSはやってない。

 これは「みなみのうお」名義だけではなく、本名でも同様。


 それに、小説家になろうに投稿していることは友人・家族にも秘密にしているから、投稿作品についての感想や苦情は、投稿小説の感想欄もしくはメッセージ機能からしか来ることが無い。


 そんな具合に実生活から距離を置いている理由は、作品投稿から実生活側が侵食されるのを防ぐためだ。

 趣味は趣味。

 いざ面倒となったら、即座にリアルな生活側から趣味部分を切り捨ててしまえるように。


 それと言うのも、投稿を行なっているのが現在離れて暮らしている姉貴や妹なんぞにバレてしまおうものなら、感想欄なぞをメチャクチャに荒らされてしまいそうだからね。

(二人ともなろうに登録してはいないと思うが、知ろうものならわざわざアカウントを作って変な書き込みをしてきそうな雰囲気が満々なんだよ……。悪人ではないんだがイタズラは好物だから)



 けれど注意深く作品投稿から私生活は距離を取ってきたにも関わらず

『件送りの事を書いた小説、あれは削除していただきたい』

という苦情が送付されてきた。


 それも、ほぼ休眠状態の自宅FAXに。



 近頃は通話するにしろメールを使うにしろ、スマホかノートパソコンばかりで卓上電話を使うことが無くなってしまった。

 ことにFAX機能は、FAX用紙にしても以前いつ補充したのか思い出せなくなってしまっているくらい。


 固定電話の方には、たまに掛かって来る通話にしても

「不用品はありませんか」

とか

箪笥たんすに眠ったままのお着物はございませんか」

みたいな不要不急の”御勧誘”ばかり。


 通話無制限オプションさえ付けておけば、固定電話や公衆電話を使うより、携帯・スマホの方が安上がり。

 だから固定電話は解約してしまっても良いかな、とズッと思ってはいたのだが、携帯基地局が落雷やられてしまったり大規模災害でパンクしてしまった場合などには、『ワンチャン』固定電話が生きていることに感謝することがあるかも、と解約は先延ばしにしていたのだ。



――クダン送りの話って、夏ホラー2024のEp.1のことだよな……。


 届いているFAXを手にして、僕は途方に暮れてしまった。


 だってクダン送りなんて儀式は、全くの創作だったから。


 参考というか着想の元になった民話ならある。

「火事だぞー」とか「津波が来るぞー」とか警告してくれる存在がいた、という話なら。


 けれどもそれは多くの場合、村の鎮守の土地神さまだったり、村の辻のお地蔵様だったりで、後から村人が感謝を述べて「目出度めでたし目出度し」で終わる。


 また虫送りや実盛さねもり送りのように、村にあだなすモノを、村境の外まで送り出す儀式も存在する。


 創作したクダン送りの儀式は、上記二系統の異なる民話のエッセンスのフュージョンなのだ。


 だから創作したというか夏ホラー用に『でっち上げた』クダン送りは、実際には行われていない架空の儀式なんである。


 実在する祭りや儀式であれば「エンタメの題材としてオモシロオカシク取り扱うのは如何なものか」と立腹するヒトがいないとも限らない。

 仮に「作中の儀式や登場人物は架空の存在であり、実在の人物・団体とは一切関係がありません」みたいな注意書きを添付していたとしても。


 近頃は「除夜の鐘の音がウルサイ」とか「小学校で子供が休み時間に大声を出すのがウルサイ」とか、何にでもクレームを入れないと気が済まないノイジー・マイノリティが跋扈しているくらいだから、ま、いろいろと気を遣っての舞台づくり。


 それですらクレームを言って来るヤツがいるのか、とウンザリしたが……


 ネットでなろうホラーを読んでいるであろう人物の中に、僕の固定電話の電話番号を知っている者が居るはずがない、という事に思い当たった。


 当然、なろうに登録する時にメールアドレスなどは記入しているけれど、固定電話の番号は書かなかった。

 また中学・高校の古い友人たちは、僕のスマホの電話番号なら知っているけれど、固定電話の番号は知らない。彼らが知っている固定電話の番号は、スマホのもの以外には実家の電話番号のみなのだ。

(付け加えておくと、古い友人たちにも小説を書いているなどと明かしたことはない)


 だから論理的に考えれば、FAXを送ってきたのは実家の誰か、としか考えられないのだが……



 実家の固定電話にかけてみたが、電話は繋がらない。


 なので妹のスマホに電話を入れてみると

『どしたん? ヒロにい

と難無く妹が出た。


「あのさ、今、家電に電話したんだけど、繋がらんのだけど」

と言うと

『ああ。それはさ』

と妹は応じてきた。

『この前、オレオレ詐欺の電話がかかってきたんよねぇ』


「はぁ?! オレオレ詐欺?」


『ん。それでノリねえが面白がっちゃって』


「姉貴、闇バイトを罠にかけようとでもしたんか?」


『ん。だからお父さんが、危ないから、って家電のコード抜いちゃったんよ。警察にはちゃんと通報はしとったけど』


――それで実家の固定電話は回線が死んでたのか。


『それよりヒロ兄、唐突に何の用よ? まさかカノジョが出来て、家族に紹介とか?』


「違う違う。盆に帰るとき、土産は何がいいのか訊こうと思って」


『しょーもない用事。ま、我が兄貴ながらヒロ兄には、そんな甲斐性は無かろうと思ったけど』と妹は鼻で嗤って

『神戸牛の冷凍ステーキ肉……と言いたいトコだけど、ヒロ兄も懐は苦しいだろうからね。新神戸の駅で神戸プリンを買ってきたら良いと思うよ。ノリ姉もプリンだったら文句言わないと思うし』

と要求を出してきた。

(ただしプリン好きなのは、姉貴よりも妹自身の方だ)


「そうか。京都の駅地下で貴腐ワインのゼリーっていう感動的に旨いデザート見つけたけど、神戸まで出てプリン買うわ」


『わ! なにそれ?! めちゃくちゃ美味しそう。プリンとゼリー、両方買ってきて!!』



 妹の反応からみて、FAXの送り主が実家関係ではないという事は、ほぼ確定だろう。

(厳密に言えば、姉貴が妹に黙って実行した、という可能性が無いコトも無いが。ただし姉貴の性格上、イタズラをする時に『一人っきりでコッソリ楽しむ』というのを非常に苦手としているので、可能性は低い)


 するとFAXの送り主の見当が全く付かなくなる。



 僕はFAXを送ってきた番号に

『訂正を要する部分があれば、直ぐに書き直しますから、該当箇所を御指示お願い申し上げます』

と、久々に――あるいは機械購入直後以来初めて――FAXを送った。


 家の機材を使うのは初めてだが、FAX自体は会社で使いなれている。


 けれど送信エラーが出るばかりで、僕の送信したFAXが相手に届くことはなかった。

 いったい、どうなっているんだ?!

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