福岡の怖い噂といえば②鳥飼の首無し男
現在、JR筑肥線は姪浜駅で福岡市営地下鉄空港線と相互乗り入れになっていますが、地下鉄線が出来る前は直接博多駅まで繋がっていました。
地上を走っていたんですね。
ルートも現空港線よりも、もっと南寄りで六本松・別府橋近辺を通っておりました。
蒸気機関車の運行は(ディーゼル機関車との併用コミだと)1968年まで続いており、首無し男のウワサがあったのはSL時代のことのようです。
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それで首無し男のウワサなのですが、内容そのものは
『六本松から鳥飼駅の間あたりで鉄道事故(自殺とも)があり、轢死体の頭部だけが見つからなかった。
轢死した男は首無しの幽霊となり、いつまでも自分の首を探し回っている』
という鉄道怪談アルアルの他愛もない内容。
怖がれ、という方が無理。
これでは話にならん、と判断した怪談好きが居たものか、内容をバージョンUPした改訂版がありまして
『首無し男と出くわすと、猛スピードで追いかけられる』
が追加されました。
更に『首無し男に捕まると、首を獲られる』とも。
そして『新しい首を得た首無し男は成仏し、首を獲られた犠牲者が新たな首無し男として徘徊し、次の犠牲者を求めて彷徨うことになる』のだとか。
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この改訂新版なんですが、失敗だと思うんですよ。
たぶん「犠牲者が新しい加害者になる」という七人ミサキ路線を狙ったんでしょうが、『新しい首を得た首無し男』はどういう存在になるのかが非常に不安定に思えるんです!
あーつまりですね、元の首無し男をAとし首を獲られた犠牲者をBとした場合、「頭B+胴体A」の成仏体は自分が「完全体のA」だと認識できるんでしょうか?
むしろ「何でか分からんけど、なんか俺、急に体形変わってないか?」と頭B主体で考え、困ってしまうんじゃないでしょうか。
心は脳ミソではなく心臓に宿るんだよ! という立場のヒトだったら何の問題も無いのかも知れませんが……。
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さて、筑肥線が運行ルートを大きく変えてしまった「現在」の首無し男の都市伝説ですが、完全に風化してしまっておるようであります。
まあ仕方がないですかね。
昔はこのあたりにSLが走っていたんだよ、という事すら知らない新住民が多くなってしまったのですからね。
別府橋・六本松にほど近い場所に「塩屋橋」という何の変哲も無いコンクリート橋があるのですが、この塩屋という場所、昔は塩屋の松と呼ばれた松原で、実は元寇の時に竹崎季長という武将が『てつはう』という手投げ弾で攻撃を受けた場所として有名です。
ほら、日本史の教科書(もしくは参考書)で、騎馬武者の足元で爆弾が破裂している絵を御覧になったことがありますでしょ。
ま、そんな場所なんですが今では松原はなく、塩屋橋も都市河川にかかっているそれほど大きくない橋です。
福岡には「馬の足」と呼ばれる怪異が伝わっていて、塩屋の松もその一つだと聞いたことがあります。
馬の足の内容は
「大木から馬の足だけが下がってきて、不用意にその下を通ると頭を蹴とばされる」
という、どこが怖いんだか分からないシュールな妖。
けれど「鳥飼の首無し男」と「塩屋の松の馬の足」、下半身(胴体)から頭部が攻撃を受けるという点で似通ったところが感じられなくもない。
(場所も近いですし)
なので『妖怪馬の足がアップデートして首無し男にモデルチェンジしたのではないか?』と、ふと考えたりするわけです。
けれど馬の足も首無し男のどちらとも、今では語るヒトもおりません。
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ただし六本松といえば、移転した九州大学教養部跡地に、福岡市科学館という施設が建っております。
福岡市科学館といえば、サイエンスによる『どきどきワクワク』なセンス・オブ・ワンダーを体験する場所。
これは、もしや……
もしかすると『馬の足』→『首無し男』→『科学館』と、怪異が更に進化を遂げたのかも知れませんね!
おしまい