表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「お母様は悪役令嬢」  作者: 輝く泥だんご
93/113

第90話 無限の『不動産資産』

 その頃、旗艦『ゴールデン・ラズベリー・タワーMAX』のブリッジは、熱狂的な歓喜に包まれていた。


「ニキィィィィィィ!!! エルドラド・ストリーム、完全なる安定状態に移行! しかも、我らが転移陣システムとの親和性、計測不能レベルで最適化! これは…これはもはや『市場』ではない! 我らが魂の『ハイパーレバレッジ』が生み出した、無限の『不動産資産』ですぞおおお!彡 ⌒ ミ✨✨✨」

 リチェードが、コンソールに突っ伏しながら、滂沱の涙と共に絶叫する。彼の禿頭は、歓喜のオーラで神々しく輝いていた。


 ドミニエフは、魔法金の杖を振り上げ、勝利の雄叫びを上げた。彼にとって、この結果は、醉妖花とローラの神威に対し、自分たちの魂をも賭した狂信的なまでの『全ツッパ』が見事に当たり、宇宙の法則すら書き換えるほどの『共鳴』を生み出した、輝かしき証左であった。


「ニキ! 塔道築教徒の精神ネットワークより、多数の『覚醒者』を確認! 彼らは、この奇跡を『天花の祝福』と認識し、自発的にGoldenRaspberry教及び天花教への『帰依』を表明しております! 我々の『布教事業』、大成功ですぞ!彡 ⌒ ミ」

ロドニーからの報告に、ブリッジの興奮は最高潮に達した。


「よし! 全艦、この『天花の河』から得られるエネルギーを最大限に活用し、塔道築教徒への『祝福の分配』を開始せよ! そして、この偉業を全宇宙に喧伝するのだ! GoldenRaspberry教、いや、新たなる『天花教・黄金果実派』の時代の幕開けであるぞ!彡 ⌒ ミ✨」

ドミニエフの歪んだ、しかし純粋な信仰が生み出した奇跡は、五大宗教の勢力図を根底から揺るがす、新たな波乱の幕開けを告げていた。


 穏やかな光の河となったエルドラド・ストリームから、醉妖花とローラは静かに帰還した。彼女たちを迎えたのは、ミント率いる帝都艦隊と、歓喜に沸く「友の会」の黄金艦隊、そして、赤い砂漠に静かに佇む『False Harbinger』だった。


「醉妖花様! ローラ様! ご無事でしたか!」

ミントが、真っ先に二人の元へ駆け寄る。


「ええ、ミント。見ての通りよ」

醉妖花は穏やかに微笑んだ。


そこへ、ドミニエフが、感極まった表情で飛んできた。

「おお、おお、醉妖花様! そして、その御伴侶様! 我らが『信仰』と『ハイパーレバレッジ』が、ついにこの宇宙的奇跡を呼び起こしましたぞ! どうか、この『天花の河』を、我らが『友の会』に管理運営させていただきたく…!」


その熱狂的な申し出に、ローラやミントは少し眉をひそめたが、醉妖花は違った。彼女は、ドミニエフの狂信的な輝きを放つ瞳と、その背後で歓喜に打ち震える「友の会」の面々を、まるで珍しい花を鑑賞するかのように、楽しげに見つめていた。

「ふふ、見事な狂い咲きだよ、ドミニエフ」


醉妖花の唇から、鈴が鳴るような、しかしどこか底知れない響きを持つ声が紡がれる。

「あなたのその、破滅すら厭わぬ狂気の輝き、私の庭を彩るにふさわしい、実に奇妙な花だ」

 賞賛とも侮蔑ともつかぬ、しかしドミニエフにとっては至上の言葉だった。彼の全身が、歓喜のあまりわなわなと震え始める。

「その『天花の河』、あなたがたが咲かせた奇跡の一部でもあるのでしょう? ならば、その管理も、あなたがたが望むままにしてみるといいわ。どのような『面白い結果』を、次に私に見せてくれるのか、楽しみにしているから」


「おお…おおおっ! 我らが真意、醉妖花様にはお見通しであったか!彡 ⌒ ミ✨」

ドミニエフは感涙にむせび、その場に崩れ落ちんばかりに頭を垂れた。


醉妖花は、満足そうに頷くと、付け加えた。

「ただし、実務的な手続きは、私の庭師であるノキを通しなさい」


その時、赤い砂漠に佇んでいた『False Harbinger』が、静かにその姿をヴィクター・フェイザーへと変え、彼らの前に現れた。

「…観測を終了する」

ヴィクターは、醉妖花とローラを一瞥すると、短く告げた。

「対象Z、対象Y、貴殿らの行動は、Arcane Genesis教のデータベースに、最重要特異事象『エルドラド・レゾナンス』として記録された。評議会は、当面の間、貴殿らへの直接干渉を『保留』するとの判断を下した」


「そう。それは好都合だわ」

醉妖花は、ヴィクターを真っ直ぐに見つめ返した。


月跡とほたるも、聖域から駆けつけ、全員がこの場に集結する。

各勢力の思惑が交錯する中、ルビークロスの空は、穏やかな「天花の河」の光に照らされ、静かに夜が明けようとしていた。

「さて、皆」

醉妖花は、集まった仲間たちを見渡し、静かに、しかし力強く宣言した。

「この星の危機は、ひとまず去ったわ。でも、私たちの戦いはまだ終わらない。次なる目標は、亡霊花ヶの本体、そして、その力の源泉である『大いなる虚無』の謎を解き明かすことよ」


彼女の言葉に、全員が頷く。混沌とした戦いを経て、彼らの結束はより強固なものとなっていた。


 ルビークロスの夜明けは、新たな冒険の始まりを告げる、希望の光に満ちていた。


 ルビークロスの空が、醉妖花とローラの奇跡によって生み出された「天花の河」の穏やかな光に照らされる頃。

 遥か彼方、数多の世界を隔てた場所に存在する、塔道築教の主聖都「理天楼りてんろう」は、未曾有の、しかし技術者にとっては至上の興奮を伴う『観測不能な事象』に直面していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ