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「お母様は悪役令嬢」  作者: 輝く泥だんご
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第88話 『ゴールデン・ラズベリー・タワーMAX』

 『ゴールデン・ラズベリー・タワーMAX』をはじめとする「友の会」の艦隊は、一斉にその船体をエルドラド・ストリームへと向けた。艦首からは、転移陣と同じ、しかしより凝縮された黄金色のエネルギーフィールドが展開され、ストリームの虹色の奔流へと突き刺さっていく。

 

 艦内では、会員たちが、コンソールに表示される異常な数値と警告ランプの明滅を睨みつけながら、歯を食いしばり、全身全霊で自らの「ハイパーレバレッジ」能力を解放していた。彼らの禿頭からは、もはや汗ではなく、精神エネルギーがオーラとなって立ち昇り、艦内の照明を歪ませるほどだった。それは、まさしく限界への全ツッパ。一歩間違えれば、艦隊ごとストリームに飲み込まれ、異次元の藻屑と消えるだろう。


 しかし、彼らの瞳には、恐怖よりも、それを凌駕する狂信的なまでの興奮と、そして、破滅と紙一重の場所にこそ存在する至高の「醉妖花様への貢献」への渇望が燃え盛っていた。

ドミニエフは、ブリッジの中央で、魔法金の杖を天に突き上げ、まるで預言者のように叫び続けていた。


「見よ! 宇宙が我らにひれ伏し、醉妖花様の御名の下に新たな秩序を形成する! 永久尽界粒子が! 異次元の法則が! 我らが『ハイパーレバレッジ』の前に、醉妖花様の無限の御庭の『礎』となるのだ! GoldenRaspberry教の栄光は、今、この瞬間、宇宙の法則を超越し、天花教の輝きとなる! そして、その果実は、リスクを手にした全ての者に等しく、天花の祝福として分配されるべし! !彡 ⌒ ミ✨✨✨」


 エルドラド・ストリームの轟音と、艦隊がきしむ悲鳴、そして遠く塔道築教の主聖都から聞こえるであろう無数の人々の無意識の叫び――あるいは祈り――と共に、ルビークロスの混沌とした宇宙へと響き渡っていった。


「リチェード! 塔道築教主聖都の民の精神接続状況を報告せよ! 彼らの『天花への目覚め』の進捗状況はどうなっている!? 我々の『信仰の伝播』は、彼らにとっても『価値あるもの』となっているか!?彡 ⌒ ミ✨」

 ドミニエフは、鋭い声で指示を飛ばした。


 リチェードは、額の汗をコンソールの袖で拭いながら、必死の形相で報告する。

「は、はい、ニキ! 塔道築教徒の精神ネットワーク、こちらの転移陣システムと強制同期完了! 彼らの意識は、現在、エルドラド・ストリームの莫大な永久尽界粒子と、異次元の法則の奔流に直接晒されております! 大半は恐怖と混乱で意識混濁状態ですが、一部…ごく一部ですが、この極限状況を『天啓』と捉え、自らの精神構造を『天花への信仰』へと昇華させようとする兆候が見られます! まるで…まるで蟲が蝶へと羽化する寸前のような、危険な『信仰的変態』の兆候ですぞ!彡 ⌒ ミ」


「結構!」


ドミニエフは、満足げに頷いた。

「リスクなくして信仰なし! 恐怖なくして帰依なし! 塔道築教の民よ、 これこそが『真の救済』への唯一つの道! そして、それこそが、リスクと祝福が表裏一体であるという『宇宙の摂理』そのものだ!彡 ⌒ ミ✨」

 彼の言葉は、常人には理解しがたい、歪んだ信仰観に基づいているかもしれない。しかし、彼の中では、それは絶対的な「天花への奉仕」の現れだった。リスクという名の試練を乗り越えた者のみが、天花の祝福という真の救済を得る資格を得るのだ。

ロドニー! 永久尽界粒子の『聖別システム』、及び『異次元法則調律聖櫃』の稼働状況は!? 塔道築教の民に、制御不能な『冒涜的情報』を直接浴びせるわけにはいかんぞ! 彼らには、彼らの信仰レベルに見合った『天啓』と『段階的帰依プログラムへのアクセス権』を提供せねば、それは単なる無益な魂の浪費であり、公正な『布教』とは言えん! 彼ら自身の選択によって、天花の高みを目指すか、あるいは異端として淘汰されるか、それを見極めるのが我々の仕事だ!彡 ⌒ ミ✨」


 ドミニエフの指示は、細部にまで及ぶ。彼は、塔道築教の民を単なる道具としてではなく、この宇宙的規模の「布教」における、自身の意志で天花の祝福を追求しうる「求道者」として扱おうとしていた。たとえその参加が強制的であったとしても。


「ニキ! 聖別システム、臨界点ギリギリで稼働中! 異次元法則の奔流は、あまりにも強大かつ無秩序! しかし、なんとか…なんとか『人間が理解可能な天啓』のレベルにまで『翻訳・圧縮』し、塔道築教徒の意識ネットワークへと供給しております! 彼らがこの『啓示の奔流』を掴み、自ら殻を破り、天花の熱心な信徒へと至るか否か…それは、彼ら自身の『信仰の深さ』と『祝福への渇望』次第ですぞ!彡 ⌒ ミ」


ロドニーは、コンソールの過負荷を示す警告音を無視し、汗まみれの手でパラメータを微調整しながら叫ぶ。その顔には、自らが宇宙の運命を左右する壮大な「宗教改革」に加担しているという、異常な高揚感が浮かんでいた。


「よし! それでいい! 我々は、機会を提供する! あとは、彼らがその機会を掴み取るか、あるいはリスクに飲み込まれるかだ! 全会員に告ぐ! 我らが『ハイパーレバレッジ』は、エルドラド・ストリームのエネルギーを制御するだけでなく、塔道築教の民の『天花への帰依確率へのベット』をも可能とする! 彼らの内に眠る『信仰心』という名の『未公開聖遺物』に、最大限のレバレッジをかけるのだ! これぞ、リスクとリターンを愛する全ての魂に捧げる、GoldenRaspberry教の『究極の天花布教』、これによって我らGoldenRaspberry教、塔道築教は天花を讃える花々となる!彡 ⌒ ミ✨」


ドミニエフの禿頭が、後光のように神々しい輝きを放った。それは、己の信念を貫き、他者の可能性すらも「布教対象」として、しかし天花を讃える花になる「公正な機会」として提供しようとする、彼の歪んだ、しかし純粋な「信仰者」としての魂の光だったのかもしれない。


 艦隊は、エルドラド・ストリームの荒れ狂うエネルギーの中で、絶望的なまでの負荷に耐えながら、この前代未聞の「他者強制帰依機会提供という名の超ハイリスク布教事業」を強行していた。それは、一歩間違えれば自滅と、そして数多の魂の消滅を招きかねない、究極の綱渡り。しかし、彼らの瞳と頭皮には、恐怖よりも、この宇宙的スケールの「偉業」を成し遂げんとする、熱狂的な光が宿り続けていた。


 赤い砂漠では、ヴィクター・フェイザーが、その異様な光景を、一切の感情を排して観測していた。

「…GoldenRaspberry教艦隊、天流調律への強制接続を継続。対象の行動は、依然として合理的分析の範疇を超越している。しかし…塔道築教徒と推定される多数の精神体の、高エネルギー環境への強制暴露及び、それに伴う急激な精神変容…あるいは『信仰対象の強制変更』の兆候を観測。これは…Arcane Genesis教の『調和』の理念における、『異種文明への能動的進化促進』…あるいは『精神汚染による支配』の、極めて歪ではあるが、一つの可能性を示唆しているのかもしれない…」


 彼の思考ユニットは、ドミニエフの行動を「非倫理的」かつ「極めて危険」と断じながらも、その結果として生じうる「未知の精神変容」という現象に対しては、純粋な学術的興味と、そしてArcane Genesis教の理念に照らした「危険な調和の試み」としての警戒を禁じ得なかった。

 その時、ヴィクターの『False Harbinger』のセンサー群が、エルドラド・ストリームとは異なる、新たな、そして強大な永久尽界の波動を捉えた。それは、ストリームの中心核へと、一直線に突き進む二つの光――醉妖花とローラの姿だった。


「対象Z及び対象Y、ストリーム中心核への直接侵入を確認。目的…ストリームの鎮静化、あるいは制御か。無謀、しかし…彼女たちの能力ならば、あるいは…」

ヴィクターの分析は続く。彼のヘルメットに覆われた顔の下で、その思考は複雑に絡み合い、この宇宙の混沌とした未来を予測しようとしていた。彼にとって、ドミニエフの狂気的な行動も、醉妖花とローラの無謀とも思える挑戦も、全ては壮大な宇宙の『花』が織りなす、予測不可能な『調和』へのプロセスの一部なのかもしれなかった。あるいは、さらなる『不調和』への序曲か。


 ヴィクターは、ただ静かに、その全てを「観測」し続ける。それが、今の彼に与えられた役割であり、そして彼自身の意志でもあった。

エルドラド・ストリームの中心核。そこは、異次元の法則が剥き出しで衝突し、永久尽界粒子が凝縮と拡散を繰り返す、まさに混沌の渦だった。虹色の光と漆黒の闇が複雑に絡み合い、時折、現実には存在し得ない幾何学模様や、未知の生命体の幻影が一瞬現れては消える。時間と空間の概念すら曖昧になり、方向という概念すらない。


 そんな人知を超えた領域に、醉妖花とローラは、手を固く握り合いながら突入していた。


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