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「お母様は悪役令嬢」  作者: 輝く泥だんご
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第82話 『星幽次元懲罰砲 (アストラルパニッシャー)』

 ルビークロス上空は、多種多様なエネルギーが乱れ飛ぶ、まさに混沌の坩堝と化していた。

 亡霊鏡教の鹵獲ステルス艦隊は、その数を頼りに波状攻撃を仕掛け、帝都艦隊とネリウムの娘たちは、個々の技量と連携でこれを迎え撃つ。そして、その戦火をものともせずに、ドミニエフ率いる「ハイパーレバレッジ全ツッパ友の会」の黄金艦隊が、最大の利を得んと敵陣ど真ん中を突破していた。


 この複雑怪奇な戦場を、赤い砂漠の一角から冷徹に観測していたヴィクター・フェイザーのヘルメット内のセンサーが、許容できないレベルの「ノイズ」を検知した。

「…戦術的複雑性の増大、予測閾値を超過。これ以上の戦場の無秩序な拡大は、Arcane Genesis(アーケインジェネシス)教の宇宙的『調和』の理念に反する。加えて…」


 ヴィクターの思考ユニットが、ドミニエフ艦隊の予測不能な行動パターンと、それによるArcane Genesis教の機密技術流出リスクを瞬時に算出する。


「…GoldenRaspberry(ゴールデンラズベリー)教と推定される艦隊の行動、放置すれば将来的に我が教団のに重大な支障をきたす可能性、98.7%。これより、戦場の『再調律』を開始する」

「『False Harbinger(フォールスハービンジャー)』、戦闘フェーズ・リミットブレイクへ移行。永久尽界シンクロ率、最大。全兵装及び魔導回路、オーバーブースト起動」


 ヴィクターの合成音声が、コックピット内に静かに、しかし絶対的な意志を持って響く。

次の瞬間、赤い砂漠から漆黒の凶星が天を衝き、戦場全体を見下ろす宙域に君臨した。『False Harbinger』の姿は、先ほどまでとは比較にならないほど変貌していた。

 

 機体表面の装甲は流体金属のように蠢き、無数の鋭角的な刃と魔導レンズを展開。八本の副腕は、それぞれが独立した永久尽界兵器プラットフォームと化し、その先端には、宇宙の法則そのものを書き換えるかのような、禍々しくも美しい魔術紋様が複雑に明滅していた。機体全体から放たれるプレッシャーは、時空そのものを震わせ、戦場にいる全ての存在の精神を直接圧迫する。


「な、なんだアレは!? さっきまでの鉄クズとは、次元が違うぞ! あれが本物の『Arcane Genesis教』の力か! 素晴らしい! これぞ究極の『信用創造』!彡 ⌒ ミ✨」


 ドミニエフは、魔法金の杖を握りしめ、その瞳を爛々と輝かせた。彼の「リスクセンサー」は振り切れるほどの危険を感知していたが、それ以上に、その圧倒的な力への畏敬と、それを分析し、自らのものとしたいという強欲な探求心が勝っていた。彼の乗る旗艦『ゴールデン・ラズベリー・タワーMAX』の出力表示が、彼の興奮に呼応するように、異常な数値を叩き出し始める。


「『False Harbinger』…これが、Arcane Genesis教が持つ、真の『個』の力…!」

ミントもまた、その絶大な存在感に、一瞬、言葉を失う。

 

 ヴィクターは、もはや警告すら発しない。彼にとって、これからの行動は「調律」であり、それは絶対的な「調和」の実現に向けた、必然のプロセスに過ぎなかった。


『False Harbinger』の機体各所から、無数の自律式永久尽界プローブが射出される。それらは、瞬く間にルビークロス星系全体へと拡散し、亡霊鏡教の戦力配置、エネルギー供給源、そして…彼らが出撃してきたであろう、遥か彼方の超巨大聖都星の位置情報までもを、多次元的にスキャンし始めた。


「情報収集完了。脅威度再評価、及び最適殲滅プロトコル、最終承認」


 まず、『False Harbinger』の八本の副腕が、それぞれ異なる属性の超高密度魔力を凝縮し始める。炎、氷、雷、重力、虚無、聖光、時間、空間。八つの根源力が、彼の永久尽界によって編み上げられ、それぞれが小規模な宇宙創成にも匹敵するエネルギーを内包した魔術球と化す。


「目標、ルビークロス星系内に存在する、全ての亡霊鏡教所属艦及び地上戦力。八卦封魔滅殺陣、展開」


 次の瞬間、八つの魔術球は、ルビークロスを包み込むように配置され、それぞれが共鳴し合い、巨大な多次元封鎖結界を形成した。結界内部では、物理法則が歪み、亡霊鏡教の艦船は次々と制御不能に陥り、同士討ちを始めるか、あるいは自壊していく。永久尽界を持たない兵士たちは、その精神が直接破壊され、魂ごと消滅していく。


「なっ…何という広範囲制圧能力! 我が艦隊のマップ攻撃範囲を遥かに超える規模での『市場独占』だと!?彡 ⌒ ミ」

ドミニエフは、自慢の旗艦『ゴールデン・ラズベリー・タワーMAX』の攻撃範囲を遥かに超える規模での一方的な殲滅戦に、驚嘆しつつも、その後の「市場」の再編に思考を巡らせていた。


 さらに、『False Harbinger』の中央兵装コアが、高次元エネルギーをチャージし始める。そのターゲットは、先ほどプローブが特定した、亡霊鏡教が出撃してきた超巨大聖都星。それは、数多の星々を飲み込み、それ自体が一つの小宇宙とも言えるほどの規模を誇る、彼らの本拠地の一つだった。


「目標、敵性聖都星。『星幽次元懲罰砲 (アストラルパニッシャー)』、最大出力、チャージ開始」


 ヴィクターの永久尽界が、異次元の法則をこの宇宙に顕現させ、対象の存在構造そのものを根源から破壊する禁断の魔導砲のチャージを開始する。それは、世界の理を書き換える、恐るべき力であった。

 

「…ふむ。あの攻撃、確かに亡霊鏡教の聖都星ごと『潜在的顧客』を消滅させる可能性は高いですな。しかし…」

 

 ドミニエフは、魔法金の杖で自らの禿頭を軽く叩きながら、冷静に損益を計算する。

「あの聖都星は、既に亡霊鏡教という『不良債権』の巣窟。下手に手を出せば、我らが『ポートフォリオ』を汚染しかねない。ここはArcane Genesis教に『損切り』していただくのが、最も合理的な判断。我らは、その後の『更地』に、新たな『ビジネスモデル』を構築すればよいのですぞ!彡 ⌒ ミ✨」

 彼の顔には、一抹の躊躇もなかった。目先の利益よりも、長期的な利益と、より大きなリターンを求める。それこそが、ドミニエフの真骨頂であった。


「…まさか…あの機体の搭乗者。奴もまた、『シッソ』の名に連なる者の一人?」


 ノキは、Arcane Genesis教の攻撃による聖都星の破壊そのものは許容しつつも、それ以上に、搭乗者の存在に対する興味と警戒を深めていた。

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