第60話 『ハイパーレバレッジ』
「生き延びた、そして禿げた。ただそれだけのことなのです。特に秘密の世界征服計画とか大反乱計画とかはないんです。なのにどうして我ら『(略)友の会』は誤解されやすいのでしょうか。我らが友ドミニエフニキ彡 ⌒ ミ」
「『懸念には実績で応えよ』ですぞ。我らが受けた命は、『帝都直通高速転移陣』つまりその真意は『全てが直通』ですぞ。まずは塔道築教の主教大聖都に、いや、主教大聖都が帝都に直通ですぞ。そしてゆくゆくは全ての異世界を含む主教大聖都が帝都に直通するのですぞ!彡 ⌒ ミ✨」
迷える友に常に進むべき道を示すドミニエフ、故に友の会の友人達からただ一人『ニキ』の尊称で呼ばれている。
「流石です。ドミニエフニキ、その目的の前に迷いの無い意思と行動、普通、帝都に異界の『深き茂み』を召喚するなんて反逆罪で処刑ですよ」
当然のようにいるノキ首席補佐官、その発言はギラリと光る刃を連想させるものであったが、ドミニエフは平然としたものである。
「私は凡人ですからな。己が分を超えたことをなすためにはリスクを取らざるを得ない。そして結局リスクをとるなら極大のリスクと極大のリターンを求めるのは当然のことですな!彡 ⌒ ミ✨」
「まあ、なんだかんだ勢いで流しちゃった私が云うことではありませんが、一応、私にも職務上、どうしても許容できないラインというものがありますので、ニキには全プッシュしてるので、リスクマネジメントホントによろしくお願いいしますよ」
いやあーこれは参ったねという表情でドミニエフにお願いするノキ首席補佐官。
「これでノキ首席補佐官も我ら『(略)友の会』会員ですな。これが会則をまとめたTEXTですぞ彡 ⌒ ミ✨」
ワハハと笑いながらTEXTをノキ首席補佐官に渡すドミニエフ。
「それで塔道築教にはどのような手で転移陣を設置するのでしょうか。よろしければお伺いしたいのですが」
「塔道築教はその名の通りインフラ整備教ですぞ。それこそ宇宙戦艦から生活倫理まで社会を構築するものすべてに宗教的意義を見出す宗教ですぞ。天花教が新たな社会基盤を構築する新資源そのものであると云わずとも分かることは自明ですぞ彡 ⌒ ミ✨」
「新資源ですか」
「そうですぞ。インフラのインフラは『人』、祈りをささげることで『人』が『人を超えるものとなる』天花教は文字や数学の発見、宗教の発見を超えるものとなりますぞ。戦争ゲームでひたすら内政をやる塔道築教徒には逆らい難い魅力があるでしょうな彡 ⌒ ミ✨」
「具体的なプランとしてはどのようなものを?」
「侵略戦争です彡 ⌒ ミ✨」
「詳細な戦争のプランもドミニエフニキが既に立案済みですぞ彡 ⌒ ミ」
「後は発令するのみですぞ彡 ⌒ ミ」
「帝都直通高速転移陣、出力120%、エネルギー充填MAXOVER!彡 ⌒ ミ」
どかりと司令官の椅子に座るドミニエフ
「目標、塔道築教本星主聖都転移陣!!彡 ⌒ ミ✨」
「あのーもしもし?」
「帝都直通高速転移陣、展開!!!彡 ⌒ ミ✨」
帝都直通高速転移陣が塔道築教の幾重にも張られた結界を貫通していく、複数の世界を貫くことができる帝都直通高速転移陣にとっては容易いこと、さらに、今の転移陣は『(略)友の会』の資金と資源でさらに強化されている。しかもそれだけではない
「皆のレバレッジを一つに彡 ⌒ ミ✨✨✨」
「いいですとも!彡 ⌒ ミ✨彡 ⌒ ミ✨彡 ⌒ ミ✨彡 ⌒ ミ✨彡 ⌒ ミ✨彡 ⌒ ミ✨(略)」
会の会員のみが、逆を言えば会の会員となれば必ず持つ本質『ハイパーレバレッジ』,
例え僅かな力であっても軽く何百兆倍を超える倍率をかけて莫大な力にする、リスクをとればリスクをとっただけ倍率を跳ね上げることができる本質である。
結果、濡れた薄紙のように塔道築教の結界を容易く破り、主聖都転移陣を書き換え、管理者権限を奪い取る。
「勝戦ですぞノキ首席補佐官殿、トイレの便座の温度から魔導力炉の出力それに秘密のフォルダまで我らの制御下になりましたぞ彡 ⌒ ミ✨」
ドミニエフがノキ首席補佐官になんでもないように報告する。
「いや〜世界って広いもんですね。私も少し気合を入れなければなりませんね」
頷きながらも少々険しい表情をするノキ=シッソである。
「占領統治のプランもばっちりですぞ彡 ⌒ ミ」
「まあプランといってもお金を貸すだけですぞ彡 ⌒ ミ」
「別に悪いこととか考えていませんぞ彡 ⌒ ミ」
「なのになぜか悪者にされてしまうのは、泣いちゃうですぞー!彡 ⌒ ミ」
思わず泣きだすロドニー、(略)友の会の会員はMoneyという刃で数多の命を切り裂いてきた。それ故、一個人としてはできうる限りではあるが、善き道を選んできたのだ。
「カフェイン増し増しの練乳入りミルクコーヒーです。どうか心安らかに」
ノキ=シッソが元素置換で創り出した一杯の珈琲をロドニーに手渡す。
「謝意をノキ首席補佐官殿彡 ⌒ ミ✨」
ドミニエフがロドニーの代わりに礼を云う
「構いません。さて、今後のことです。塔道築教へは非公式に通知を出すだけで終わりますかな?『我が友ドミニエフ』」
「馬令上人に一度は公的に塔道築教の本星主聖都へ向かってもらわなければなりません。そこで融資の代わりに国交を開き、その象徴としてお互いの首都への直通の転移陣の設置をする。ということでよろしいでしょうぞ『我らが友ノキ』彡 ⌒ ミ✨」
「天花教の上人が特使として会いに来る。確かに無下にはできませんよね。まあ私もGoldenRaspberry教に対して使った手ですがね」
「塔道築教の信仰対象はこちらの制御下にありますからな。内心がどうあろうと、歓待間違いなし、外交も恙無くですぞ彡 ⌒ ミ✨」
「あとはCrimsonSand教をどうするかですね」
「あの暴れ野郎共がどうかしたかのですぞ彡 ⌒ ミ」
リチェードが不思議そうにノキ首席補佐官に尋ねる。
「いえ、醉妖花様とその伴侶たる御方がComsonsand教の聖都星ルビークロスにおられるのですよ」
「なんですと!あの『あんばれやろう共』の星に!しかもルビークロスとは!ComsonSand教本星主聖都の直下ではありませんか!?彡 ⌒ ミ」
ざわざわと声が上がる友の会会員達、さすがにドミニエフもノキ首席補佐官に問いただす。
「『敵の金は血に等しい』それが我々、GoldenRaspberry教の軍事思想だとすれば、彼らComsonSand教の軍事思想は『敵の血は領土に等しい』ですぞ彡 ⌒ ミ✨」
「それに、あんばれやろう共、めっちゃ強いですぞ。それにしっっつこいし。根に持つし。連中と事を構える傭兵なんていませんぞ彡 ⌒ ミ」
うむうむと頷くノキの阿保、その阿保曰く
「醉妖花様は張り切っておられるのですよ。運命だから結ばれるのではない。ローラ殿にもそう思ってほしいと切に願われておられるのです」
「故に!」
「5大宗教が4大宗教になっても構わない!そう皆さんも思われるでしょう」
「確かに、あの、あんばれやろう共がいなくなっても別に泣いたりはしませんが、それなら死体大好きの亡霊鏡教にしてほしかったですぞ彡 ⌒ ミ」
「亡霊花ヶがやばすぎるのでパスです。今の私でも普通に勝ち目がないので、無視一択ですよ」
「残るはArcane Genesis教ですが、こちらは普通に軍事技術超大国なのでというか最大勢力なので後回しです」
「無視と後回しを除けばComsonSand教が残る云う訳ですなというか残り3宗教やばすぎますな彡 ⌒ ミ」
「そんな彼ら相手に商いをすれば金も貸すGoldenRaspberry教も大したものですよ」
「まあ、ComsonSand教の対応は醉妖花様と御伴侶様にお任せするとして、私どもにできることを粛々と進めていかなければなりませんね」
ノキ首席補佐官は窓辺に立ち、空を眺める。
「ただいま占領しました塔道築教の主聖都ですが、この転移陣の管理をどうするかですぞ彡 ⌒ ミ」
「それはもう、『(略)友の会』に任せます。私には別の仕事がありますから」
ノキはそう云うと、爽やかな笑みを浮かべた。
「また例の笑顔ですな。きっと厄介なことを企んでいるに違いありませぬぞ彡 ⌒ ミ」
ロドニーがニヤリと笑う。
「まあ、我らにはそれぞれの役目、目的がありますからな。私ら(略)友の会はマネーゲームを、ノキ殿は御自身の役目を、そして醉妖花様は御身自身の幸せを探されると云うことで彡 ⌒ ミ✨」
夜が更けてゆく。帝都の空に浮かぶ転移陣が不気味な輝きを放つ中、新たな物語の幕が静かに上がろうとしていた。




