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「お母様は悪役令嬢」  作者: 輝く泥だんご
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第3話 Jacomus

 刻限が来た。


 醉妖花は既に白痴となった朝廷軍八十億に神経細胞が発作により興奮死するほどの快楽を与え、結果、十秒後には八十億の死体が残った。


「すばらしい、すばらしい、すばらしい、なんと無慈悲で慈愛に満ち、そしてなにより、あなたさまは美しい」


 櫓の上で歓喜の表情を浮かべた馬頭目は続ける


「しかも、これで終わりではない。終わりではない。さらにもっと最悪があるというのだから、ああ、あなたさまは本当に美しい」


「そのようにかむなぎ様を寿いで頂けるとは、作戦を立案したものとして、正しく本懐ですなぁ」


 うむうむと場頭目の隣でいつの間にかいたノキは一人納得して頷いたのち


「しかし、馬頭目殿、これから四十九日ほどは陣を動かさず鹵獲に精を出さねば、何せ八十億の兵しかも周辺国への長期旅を含む、その物資や資金、こりゃあ臨時ボーナスも当てにしてもらってOKですよ」


 それにこの国にも周辺国にも現状を正しく認識してもらわなければなりませんしね。

 背中の凝りをほぐしながらノキは言う。一つ大きな仕事をやり終えた男の背中がそこにはあった。


 八十八重宇段大天幕、その三重宇段天幕の内にノキの声にならない音が響く。


 OGッ!GFッ!OFU!!


 「OGF。OGFU?、・・・!!御護符。そう、御護符ですな。流石わが友、クオーク星の中心構成物質を流し込まれながらも、かむなぎ様への祈りを捧げる。まさに称えるにふさわしいので華命玉様、そろそろお許しを頂けないでしょうか?」


 馬令は儀礼的に発言する。


 見目涼やか、所作涼やかな青年が柄の長い柄杓を振り、鉢から沸き立つ超流動クオークを掬い、涼やかにノキの口に流し込む。


 本来であれば、クオーク星中心構成物質の放つ熱、磁場、重力により馬令等は生きてはいられぬはずであるが、華命玉の練った香により天幕の中は極めて涼やかだ。

 

 「甘やかしては駄目だよ、頭目殿。この度逃した相手は、ノキ自身がノキ自身と断定した相手だからね。断定できるほどのノキの相手をできるのはノキの他には、暁鐘と私だけ。それに、ノキならノキを殺しきることができる。し止めなかったのはノキの作為にちがいないよ」


 涼やかな声で華命玉が回答する。


 「うーむ、うむうむ。かむなぎ様より己の謀を優先した?ことに対する懲罰であると華様はおっしゃられるわけですな。むむむ、困りましたな、それではそれで、これは寛大すぎる処置になってしまいますな」


 困ったかのように馬令は首を振る。ついでに天幕の内を見渡す。黒蝶女官長を始め女官たちはノキなど存在しないかのように通常業務に勤しんでいる。虹蜂近衛長ほか近衛の者も同様だ。月跡ですら同様、ただほたるのみが若干引いてるように見えなくもない。暁将軍は襲撃に備え天幕の外で警固にあたっている。

 暁将軍が抑えられている状況は確かに面白いとはいえないだろう。ならば、


「それでは、このような扱いとしてはいかがでしょうか?」


 八十八重宇段大天幕、その最奥、紫星城、醉妖花の臥し所に美しい少女がいる。黒の髪に金と朱の瞳を持つ骸薔薇である。

 

 「随分、楽しそうね。でも私は楽しくないの。どうしてかしら、ねえ?Jacomus」


 Jacomusと呼ばれたノキは既に両手を組み五体投地を行い、絨毯の長い長い毛足で呼吸困難となっている。


 低下してゆくノキの脳内血中酸素飽和濃度、ノキの薄れていくはずの意識であるかどうかはいったん保留の上、今後の検討課題にするとして、とりあえず、「ここで一つ小話を」


 ~小話開始~


  お腹の中でグルーオン超流動体☠がぐるぐるぐるぐるぐるんぐるん。


  グルーオン超流動体☠「俺は絶対零度でも止まらねえからよ。よい子のみんなも

             止まるんじゃねえぞ!」

 

  こうもん様「もう我慢できないお!こんなの絶対おかしいお!!」


  前頭葉「まて、まつんだじょー!!じょおー⤴!!!」

 

 ~小話終了~


 なんてことを意識が薄れているはずのノキは考えているかもしれないし、実際はもっと酷いことを考えているのかもしれないし、現実はもっともっと酷いことを考えているのだろう。


 ベキィと音をたて自らの頸椎を易々と砕いたノキは、体は五体投地をしたまま、首を限界まで長く伸ばし、顔を骸薔薇に向ける。これによって絨毯の毛足の海からノキの顔が浮上する。

 浮上にとどまらず、さらに首を伸ばす。必然的にノキの首は裂け、正しく肉と皮膚が頭部と体を繋ぐ紐となりその頭部は、骸薔薇の足元で静止し口を開く。


「いや、誠に心外でございます。醉妖花様の御健やかなる御成長こそ、『骸薔薇』様の御喜びそして醉妖花様のこれからの良き良き御成長こそが”骸薔薇”様の唯一の願い、その願いが叶うことこそ、『楽しみ』であると、私め、この『ノキ』は、確信しております。」


 骸薔薇は長椅子から立ち上がりパチリと七宝で飾られた扇、以前の骸薔薇なら、干し首、気に入った少女の顔から作った皮を幾つも張り合わせた扇であったに違いないだろう。その扇を閉じると


 「Lilium auratumは気にも留めないでしょう。でも、逃げたものは残らず、残さず、殺しつくさなければならないわ。それがLilium auratumのためだもの。でも大丈夫なのよ。『ノキ』という男が全てを滞りなく終わらせる。そうよね。Jacomus?」


「もちろんでございます。『お嬢様』私はいまだ、初めて呼ばれたときのお言葉に縛られています」


 骸薔薇は微笑みまさに薔薇の花のよう。そして男はその薔薇の影に触れることのないよう静かに溶けて沈み消える。

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