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「お母様は悪役令嬢」  作者: 輝く泥だんご
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第52話 ガッツポーズ

交易都市アラビリス、娼館ネリウムの一室。

 瑚沼崎は、ローラの前に座り、静かに両手を重ねていた。ローラの顔色は悪く、額には冷や汗が滲んでいる。瑚沼崎のLP操作は、ローラの深層意識に眠る「探し人」の意識を呼び覚まそうとしていた。

「少し気分が悪いかもしれません。無理せず、リラックスしてください」

 瑚沼崎は、穏やかな声でローラに語りかけた。

「はい...」

 ローラは、かすれた声で答える。彼女の意識は、深い霧の中にいるようだった。過去の記憶、現在の自分、そして、未知の力。全てが曖昧に混ざり合い、彼女の心を揺さぶっていた。

 瑚沼崎は、ゆっくりと両手をローラの頭部へと近づける。指先から、かすかに光が放たれ、ローラの髪を揺らす。それは、瑚沼崎の本質「人喰い」の力であり、生命力を操る力だった。しかし、今回は、生命力を奪うのではなく、生命力そのものに干渉し、ローラの内に眠る「探し人」を起こそうとしている。

 ローラの意識は、さらに深い闇へと沈んでいく。その闇の中で、彼女は、かつて見たことのない光景を目にする。

 それは、果てしなく広がる星空だった。無数の星々が煌めき、銀河が渦を巻いている。その光景は、恐ろしくも美しく、ローラの心を掴んで離さない。

「あれは...」

ローラは、かすれた声で呟く。

「それが、『探し人』、貴方と共に生きてきた人です」

瑚沼崎は、ローラの言葉に優しく答える。

 ローラの意識は、さらに深く、星空へと引き込まれていく。そして、彼女は、星々の間を漂う、一つの光に気づく。その光は、他の星々とは異なり、柔らかく、温かい光を放っていた。

 ローラは、光に手を伸ばす。

「それは、醉妖花様。あなたを待っているわ」

 月跡の声が、ローラの心に響く。

 月跡は、ローラの隣に座り、その肩に手を置く。

 その時、娼館全体が激しく揺れ動いた。轟音が鳴り響き、壁に亀裂が走る。

「敵襲!」

ほたるが叫ぶ。

「『深き茂み』ね。予定より早いわ」

月跡は、冷静にそう告げると、立ち上がり、窓の外を見た。

外では、無数の黒い蔦が、まるで生き物のように娼館を包囲していた。蔦の先端には、鋭い棘が生えており、娼館の壁を突き破ろうとしていた。

「よし、ぶっ潰してやる!」

 ほたるは、Ⅲ両刃双の大鎌を手に、窓から飛び出していく。

「私も行くなお」

ミントも、ほたるに続いて飛び出していく。

「瑚沼崎、ローラはあなたに任せるわ」

月跡は、瑚沼崎にそう告げると、漆黒のドレスを翻し、空中に浮かび上がった。

「かしこまりました」

瑚沼崎は、ローラの手を取り、娼館の奥へと移動する。


 月跡は、銀色の光を放ちながら、黒い蔦へと飛び込んでいく。その姿は、まるで夜の闇に咲く一輪の花のようだった


 黒い蔦は、月跡の光を阻もうと、さらに激しくうごめき、彼女を呑み込もうとする。蔦の先端からは、鋭い棘が伸び、月跡の身体を切り裂こうとするが、月跡の周囲を包む銀色の光は、まるで鉄壁のように、蔦の攻撃を防いでいた。

「無駄な抵抗よ」

 月跡は、静かにそう告げると、銀色の光をさらに強めた。光は、蔦を焼き尽くし、道を切り開いていく。

 月跡だけでなくミントやほたるも優位に戦いを進めていく。奇襲されたとはいえ、ベルギア=シッソを失った忌み枝達「深き茂み」には超越した個体は最早存在せず、月跡たちの脅威にはならなかった。

「あんの変態がアンタらの親玉喰ってpower upしたから眷属のミントちゃんも自動でpower upしたんだなお、悔しいかなお、オイ返事しろなお、なおー!!」


「やばい、ミントの性格が変わっている。鎌の柄で叩いたら元に戻るかな?何か怖いし」

と云いながらもサクサク忌み枝たちを切断・吸収していくほたる。正に草刈り場と云えるだろう。

「めぼしいのはあらかた始末したし、後はネリウムの子たちに任せていいんじゃないかな」

10分ほど戦闘を続けた後、ほたるが月跡に提案する。


「そうね、この場は任せてもいいでしょう」


「この場は?というと?」


「名詞にあったでしょう、深き茂みの本拠地よ。ベルギアもシッソの名を持つ輩、何を残しているか分かったものではないわ」


「あーなるほどな。無視するには危険すぎるな。んじゃ、二人で行って、根こそぎ焼いてくるか」


「ええ、ミントと瑚沼崎にはローラの護衛を続けてもらいましょう。ミント、何時までもはしゃいでないでしっかり仕事をしなさい」


「あーついに人生のボーナスステージが終わってしまったなお。宮仕え人生に戻るときが来たんだなお」


「はぁ仕方のない、ミントが有休をとれるよう私から醉妖花様に話を通しておくわ。それでいいわね」


 ガッツポーズをとるミント、そのポーズも由緒正しき流派に沿ったものである


「さて、あとは、この名刺が機能すれば、まだ何かあるつーことかな」

ほたるが名詞の住所を指でなぞりながら発音する。


 すると、ほたるの姿が透明になっていき、発音が終わると「パシン」と音を立てて完全にミントの目前から消えた。


「1時間で戻ってくるわ。戻らなかったらミントが指揮をとって対応しなさい」

 同じく月跡も透明になり最後に「パシン」と音を立ててミントの目前から消える


「一時間かー。少し心配なんだなお。まずは益尾のおいちゃんと合流してローラちゃんくんを守り通すなお」

 ミントは娼館ネリウムにいる瑚沼崎とローラのもとへ向かった。

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