第48話 ベルギア=シッソ
ほたるの云う通りレストランの受付のものは笑顔で出迎え
「いらっしゃいませ。お席のご用意がございますので、こちらへどうぞ」
給仕の案内で個室に入るとまだ給仕がいるのにも係わらずミントは云った
「やっぱり、従業員も客も全員忌み枝なお。でも純度は低いから、普通の人間と変わらないなお」
もちろん給仕はスマイルだ。
「ええ。でも今は食事を楽しみましょう。」
「おお!ここの名物料理は"森の恵み"っていうコース料理らしいぞ。これにしようぜ」
メニューを見たほたるが云う
「確かに美味しそうですね。ただ、"森の恵み"という名前は少々嫌味ですね」
「まあ、それくらいはいいでしょう。私には赤水晶水を付けてもらおうかしら」
「"森の恵み"コースを5人分と、赤水晶水を1つお願いします」
瑚沼崎が給仕に注文すると、給仕は丁寧に頭を下げて退室した。
「これってどういう事だと思う?」
「思うなお?」
「初めて会ったときはオレらを殺しにきたじゃんかー。そのあとも殺し合いして、魔薬の生産拠点やら何やら潰したのにさー。急に対応変わりすぎじゃね?」
「それはなお、色々こじつけられるけど、選択肢増やしたんだなお」
「選択肢?」
「『基本方針はミントたちの殲滅、ただし取り込む事が可能ならそれに越したことはない』かな」
「オレたちが醉妖花様を裏切るってあり得る?あり得なくね?」
「それ程自分たちの大儀に自信があるのでしょう。しらないけど、なお」
「『あり得ない』と断言できるほど、この世界は単純ではないわ。まして醉妖花様の伴侶となるべき人物がこの世界にいる以上ね。それに、そもそも醉妖花様は、あのド変態を放置しているのよ」
月跡たちの会話が続く中、注文した料理が運ばれてきた。
「お待たせいたしました。こちらが"森の恵み"コースでございます」
給仕が丁寧に料理を並べていく。前菜から始まり、スープ、メイン料理、デザートと続く豪華なコースだ。
「うまい!これ、なんだ?」
ほたるは、前菜を口に運びながら驚きの声を上げる。
「きのこのテリーヌですね。ドゥスクロディア連邦王国特産の希少なきのこを使用しているようです」
ローラが解説する。
「そうなのですか。確かに"森の恵み"らしい料理ですね」
瑚沼崎も頷きながら言う。
食事が進むにつれ、会話も弾んでいく。しかし、誰も警戒を解いていない。
「赤水晶水も美味しいわね」
月跡は赤水晶水だけしか口にしない。月跡のコース料理はほたるが全部食べている。
「月跡はホント水しか口にしないんだなー。おかげでオレは二人分食えるけど」
「あら、お酒も飲めるわよ。めったに飲まないけど」
「笊だからなお、水で充分だなお,、お酒がもったいないなお」
ミントの言葉に月跡は小さく笑う。その笑顔は、周囲の緊張感を和らげる不思議な魅力を持っていた。
「では、この世界のお酒が、私を酔わせることができるのか、試してみましょうか」
月跡はそう言うと、給仕にワインリストを持ってくるように頼んだ。
給仕がワインリストを持ってきた。月跡はリストに目を通し、じっくりと選んでいる。
「このセレクションはなかなか興味深いわね。地元のワインも多いようだけど...」
月跡は一瞬考えてから決めた。
「このドゥスクロディア産の赤ワインをいただこうかしら。20年物の"森の夕暮れ"というのを」
給仕は丁寧に頷き、ワインを取りに行った。
「この世界の味を楽しむのも悪くないでしょう」
ワインが運ばれてきて、グラスに注がれる。月跡はグラスを手に取り、香りを楽しんでから一口飲んだ。
「ふむ...なかなか複雑な味わいね。森の香りがするわ」
「どうだ?酔えそうか?」
とほたるが興味深そうに尋ねる。
月跡は微笑んで答えた。
「さあ、どうかしら。でも、この程度では難しいでしょうね」
食事と会話が進む中、月跡は少しずつワインを飲み続けた。その様子を見ながら、瑚沼崎は静かに周囲を観察し続けていた。忌み枝に囲まれた状況で、いつ何が起こるかわからない。しかし、今のところ特に変わった様子はない。
「さて、食事も終わったことだし、そろそろ宿を探すなお」
とミントが提案した。
「ま、明日からが本番だからな」と同意する。
一行は会計を済ませ、レストランを後にした。街の中を歩きながら、彼らは周囲の様子を注意深く観察し続けた。この街全体が忌み枝の巣窟であることを考えると、油断はできない。
しかし、表面上は平和な観光都市の夜の風景が広がっているだけだった。
「あそこの宿が良さそうだな」
ほたるが、大通りに面した立派な宿を指さす。
「そうですね。ここなら十分な警戒もできそうです」
瑚沼崎も同意する。
宿に入ると、フロントの従業員が笑顔で出迎えた。
「いらっしゃいませ。ご宿泊でしょうか?」
「ええ、そうです。5人分の部屋をお願いします」
月跡が答える。
「かしこまりました。お部屋のご用意をさせていただきます」
従業員は丁寧に応対し、一行を部屋まで案内した。
部屋に入ると、ミントが呟いた。
「やっぱり、この宿の従業員も客も全員忌み枝なお」
「それは想定内よ。恐怖心を持ったら負けよ」
月跡が言う。
「そうだな。探し人を見つけて、早くこの世界から出ようぜ」
ほたるが言った。
「そうですね。でも、慎重に行動しましょう。相手はベルギア=シッソですから」
瑚沼崎が注意を促す。
「いやー気恥ずかしいですね。そんなに話題にしていただけるとは」




