第47話 むしろ忌み枝らしい
ドゥスクロディア連邦王国国境検問所は、重厚な石造りの門と高い鉄柵で厳重に守られていた。検問所には、多数の兵士が配置され、物々しい雰囲気が漂っていた。
月跡達の馬車が検問所前に到着すると、兵士たちが一斉に武器を構え、馬車を包囲した。
「止まれ! 何者だ!」
兵士隊長と思しき男が、馬車に向かって大声で叫んだ。
「新アラビリス帝国より参りました。月跡と申します」
月跡は、静かにそう告げると、幌馬車から降り立った。その姿は、周囲の兵士たちを圧倒するほどの存在感を放っていた。
「新アラビリス帝国!これは失礼致しました。おい、お前ら持ち場に戻れ」
兵士隊長は、新アラビリス帝国の名を聞くと兵士たちに云った
「申し訳ございません。これも仕事ですので、ドゥスクロディア連邦王国へのご用件は?」
兵士隊長は、にっこりと微笑みながら尋ねた。
「観光です」
月跡は、まだ警戒を解かずに答えた。
「観光ですか。ドゥスクロディア連邦王国には有名な観光地こそありませんが、自慢できる場所ばかりですよ」
兵士隊長は、月跡の言葉に調子を合わせて答え、冒険者証を確認する。
「月跡様… Lv8、 ほたる様…Lv42158、ミント様…Lv567432、瑚沼崎様…Lv637414、ローラ様…Lv28951」
「ええ、確かに確認させていただきました。ようこそドゥスクロディア連邦王国へ!」
Lv500もあれば大陸有数の実力者である。月跡達のLvは神話でも登場しない異常なLvにも関わらず、兵士隊長は相変わらず微笑みを崩さずドゥスクロディア連邦王国へ月跡たちを通した。
「なあ、さっきのアレどう思うよ」
「どうもこうもないなお。あの兵士隊長以下全員忌み枝だったなお。純度は低かったけどなお。だからいろんな顔してるなお」
苦笑しながらミントがほたるの疑問に解答する。
「うげっじゃあマジでドゥスクロディア連邦王国ってのはやっぱり文字通りの『深き茂み』ってわけ。ちょっと家に帰りたくなってきたなー」
「宮仕えに終わりはないなお、家に帰るときは棺桶に張ってからなお」
「いずれにしても笑えませんね。いかがいたします」
瑚沼崎が自分の隣、御者席の隣でふよふよと空中を飛んでいる月跡に指示を仰ぐ。
「街全体が忌み枝の永久尽界に覆われているわ。まずはこれをどうにかしないと」
「こちらの行動が全て筒抜けと云う訳でですか」
「うー変態の所業だな、ローラもそう思うだろってかローラも永久尽界持ってるよな?」
「ええ、新しい感覚がありますが、これが皆様が云う永久尽界なのかは分かりません」
「ローラちゃんそれが永久尽界で間違いないなお。ミントが保証するなお。使い方は追々手解きするなお」
「この感じ澱んだ沼に沈んでいくような感覚ですね」
ローラは、目を閉じ、自身の永久尽界で周囲を探っていた。街全体を覆う忌み枝の永久尽界は、彼女の感覚を鈍らせ、視界を遮る濃霧のようだった。視覚的な異変は無い。ただ、感覚だけが、この街が異質であることを告げていた。
「確かにこの永久尽界、ノキ首席補佐官の様な、不快な圧力だわ」
「まるで、この世界そのものが、忌み枝に侵食されているみたいだなお」
ミントも、顔をしかめながら言った。ミント自身の永久尽界は、この異質な力に押さえつけられ、思うように力を発揮できない。
「益男のおいちゃん、何か分かんないかなお?」
「いえ、私の力では、この永久尽界の正体を見極めることはできません」
瑚沼崎は、険しい表情で答えた。彼の本質によるLP操作は、生体・生命に対する力であり、この街を覆う永久尽界のような、世界そのものに干渉する力に対しては、まだ効果が薄い。
「って云うかさ、この気色の悪さベルギア=シッソの永久尽界じゃねーの?変態ノキ首席補佐官の永久尽界にそっくりだしー。忌み枝は強い程、超越変態セクハラ首席補佐官に似てるんだろ、間違いないって」
「考えたくないけれど、その可能性は高いわね。少なくとも『深き茂み』にはノキ首席補佐官に匹敵する忌み枝がいる。厄介だわ」
「むむむ、こちらの戦力不足は否めないなお。仕方ないから、ご飯食べて、それから今日泊まるところを探すなお」
「そうですね。観光マップによると、いやはや観光マップですか、ま、さておきマップによると肉料理がおすすめとありますね。牛、豚、羊、鶏、大抵のものは自信ありとありますよ。畜産が盛んなのですね」
「畜産業にいそしむ忌み枝、世界は広いなお」
「人も家畜も同じってことだろ。むしろ忌み枝らしいと思うぜ。まあ、今からそれを食いに行くんだが」
「そういわれればそうなお。この街の忌み枝だらけの様子を見るに、忌み枝が育てて、忌み枝が調理し、忌み枝が給仕する食事になるのは確定なお」
「刺激的ですね」
ローラが云う
「なんとも、今更ながら、巻き込んでしまい申し訳ありません。ここまで危険度が跳ね上がってしまうとは、今からでも遅くはありません。アラビリスへと戻られては
「いいえ、私はネリウムの娘。それにドゥスクロディア連邦王国の内実を知った以上、何処にいても危険度は変わりません。ならば皆様に直接お仕えするのみです。もちろん足手まといになるようでしたら
「ハイ、ストップなおー。そんな心配いらないなお。おいちゃんもローラちゃんも充分強いなお。これから行くのは只の食事で最後の晩餐ではないんだなお」
「そうね。食事するのに覚悟はいらないわ。別に私たち美食家ではないんだし。マナーなんて知ったことか。ぐらいでちょうどいいのよ」
「じゃあ、この店行こうぜ」
ほたるが観光マップのおすすめ店を選ぶ。
「流石に予約がいるんじゃないかなお」
「大丈夫だって。それぐらい忌み枝連中に対応させろって、出来なきゃ使えねー連中だって云ってやるぜ」




