第42話 探し人
「行きなさい。魔薬の製造基地よ」
月跡は、炎の雨の中、ミントとほたる、小沼崎に指示を出す。
月跡の指示に従い、魔薬の製造基地へと向かう。
その製造基地は、レイタニアの地下深くに築かれた巨大な要塞であった。要塞は、強固な魔法障壁で守られており、内部には、多数のLP強化兵と忌み枝が配置されていた。
「よし、ぶち破るぜ!」
16歳の姿になったほたるは、Ⅲ両刃双の大鎌を振りかざし、要塞の魔法障壁に斬りかかる。しかし、障壁は瞬時に再生する。
「ほたる、落ち着きなさい。障壁を破壊するには、もっと精密な攻撃が必要よ」
ミントは、ほたるを制止し、自身の永久尽界を展開する。
「永久尽界・浸潤」
ミントの永久尽界は、まるで砂にかけた水のように、要塞の魔法障壁に浸透していく。そして、障壁の内部から、その構造を破壊していく。
「よし、行けるぞ!」
障壁が弱まったのを感じ、ほたるは大鎌を振り下ろし、障壁を完全に破壊する。
「突入するぞ!」
ほたるを先頭に、ミントと瑚沼崎は要塞内部へと突入する。
要塞内部では、激しい戦闘が繰り広げられていた。LP強化兵と忌み枝は、必死に抵抗するが、ミントたち三人が優勢に戦いを進めていく。
「益尾さん、忌み枝は任せてください。あなたは、魔薬の製造施設を破壊してください」
「了解しました」
瑚沼崎は、ミントの指示に従い、魔薬の製造施設へと向かう。
瑚沼崎は魔薬の製造施設へと急ぐ。そこは、何重にも魔法障壁で守られた巨大な地下空間で、無数の釜が稼働し、ヘロインと汚物の匂いが充満していた。ときおり子供たちの笑い声が聞こえてくる。
「まるで村のようだ」
瑚沼崎は、その光景を見て呟き、懐かしさと嫌悪感を同時に覚えながら、釜を破壊する。
破壊した釜の穴からは魔薬の原料となった子どもたちの脳が黒紫色の液体とともに流れ出てくる。脳だけでは瑚沼崎のLP操作でも再生させることはできない。
瑚沼崎は、まだ加工前の子ども達を探すためさらに施設の奥へと進む。と
「無意味ですよ。LP感知をしてみなさい。既に、ここには私と貴方しかいませんよ」
黒い戦闘服に身を包んだ忌み枝が空間から滲む出るように現れる。
「忌み枝か」
「『真樹の苗木』ですよ。誇りある名です」
「その誇りに見合う行いとはとても思えませんが」
「最も幸福な方法ですよ。もちろん子ども達にとっても最も幸福な方法です。何も問題はありません」
「幸福論ですか。まあ興味はありますが、それよりもっと興味があるものがありまして、貴様の脳髄の味だよ」
瑚沼崎は忌み枝との距離を一気に詰め、時空断裂を伴った手刀で、忌み枝の左肩から心臓まで切り捨てようとする。
忌み枝は瑚沼崎の攻撃を紙一重で回避し、時空を歪ませながら後退する。
「流石は人食い鬼、鬼に人の道理は通じぬか、ならば退治すまで」
腰から2本のナイフを左右の手に持つと、時空の歪みを利用して小沼崎の身体を刻むため、ナイフを時空の歪みに触れさせる。
瑚沼崎は身体に忌み枝のナイフによる深い傷を負うものの、余裕すらあった。身体の傷はそれこそ身体を粉砕されるようなことがない限り無視できるものでしかない。またナイフに付与された数々の魔法も同じ事である。永久尽界に届くような攻撃ではない。
瑚沼崎は、忌み枝の攻撃を受けながらも忌み枝へと近づいていく。忌み枝は、時空の歪みを操り、瑚沼崎の攻撃をかわし続ける。しかし、瑚沼崎は、理外の力により、忌み枝の時空の歪みすらも支配下に置き始めていた。
瑚沼崎は、両腕で忌み枝の胴体を締め上げる。忌み枝は、苦痛に顔を歪めながらも、抵抗しようと、時空を歪ませ、瑚沼崎の腕をすり抜けようとする。が、瑚沼崎の腕は、まるで蛇のように、忌み枝の身体に絡みつき、時空を更に歪ませ、その動きを封じていく。
最後に瑚沼崎は忌み枝の頭蓋骨に噛み付いた。骨が砕ける音が地下空間に響き渡る。忌み枝は、苦痛に絶叫するが、瑚沼崎は容赦なく脳髄を貪り食う。
忌み枝を喰った事で更なる永久尽界の強化と『深き茂み』の情報を得た瑚沼崎は、それでも顔をしかめて独り言を言う。
「厄介なことになりました。探し人が『深き茂み』の奥底に捕らえられているとは」




