第40話 絆の勝利
瑚沼崎は、暁鐘統合元帥の眼球の力に苦悶していた。理外の力は、瑚沼崎の身体、精神、魂、永久尽界、その全てを侵食し、変容させようとしていた。
瑚沼崎は苦痛に顔を歪めながらも、その変化を冷静に観察する。彼の身体は、まるで別の意識を持った生物のように蠢き、変形していく。
しかし、瑚沼崎の表情に怯えはない。彼は、自らの本質「人喰い」を駆使し、自身の体を喰い尽くすことで理外の力を取り込み、自らの力へと変えていこうとしていた。
「これならばいける」
瑚沼崎は、苦痛の中でも確信したかのように云う。
ミントは2つの異なる力の統合に苦しみを感じていた。本来の力であるノキ首席補佐官の眷属としての「浸潤」の力と新たに得た暁鐘統合元帥の「理外」の力である。
自らの本質である「増殖」を最大限に使用して、器である永久尽界の大きさを拡大し、2つの異なる力を両立させようとするが、増殖による拡大が追いつかないうえ、2つの異なる力が反発しあう。
「ダメだ、このままでは永久尽界が崩壊する!」
ミントは苦痛に顔を歪め、身体を震わせる。異なる二つの力が、彼女の内部で激しく衝突し、永久尽界を破壊しようとしていた。
「落ち着きなさい、ミント」
月跡はミントに静かに語りかける。
「異なる力を無理やり一つにしようとするから、反発しあうのよ。それぞれの力を認め、共存させる道を探しなさい」
「共存させる? そんなことが出来るのでしょうか」
ミントは半信半疑ながらも、月跡の言葉にわずかな希望を見出す。
「あなた自身の永久尽界よ。あなた自身が、その世界の法則を定めることができるはずだわ」
月跡の言葉に促され、ミントは再び意識を集中する。異なる二つの力を感じ、その本質を見極めようとする。
「ノキ首席補佐官の力は、世界の理に浸潤し、その法則を書き換える力。暁鐘統合元帥の力は、世界の理を超越し、法則を創造する力」
二つの力の性質を理解したミントは、ゆっくりと自身の永久尽界を変化させていく。
「世界の理を変える部分と、理を超越する部分。二つの領域を、私の意志で統べる」
ミントの永久尽界は、二つの異なる色に染め分けられていく。一つは、ノキ首席補佐官の浸潤の力の色。もう一つは、暁鐘統合元帥の理外の力の色。二つの色が混ざり合うことなく、互いの領域を尊重しながら、一つの永久尽界を形成していく。
「出来た!」
ミントは、安堵の息を吐く。苦痛は消え去り、新たな力が漲ってくる。
「よく出来ましたわ、ミント」
月跡は満足そうに微笑む。ミントは、二つの異なる力を共存させることに成功し、以前よりもさらに強大な力を手に入れた。
異界となっていた貴賓室は元の通りとなり、3人は一瞬のうちの出来事であったことを知る。
戸惑いながらローラが
「私の能力が大幅に跳ね上がっているのですけれど何があったんですか」
と問いかける。
「あなたの主人であるミントの永久尽界の格が跳ね上がったのよ。あなたはミントの眷属だからその影響ね」
「やっぱりなんかもうローラちゃんの全身の美人度がアップしている。これやっぱりズルくない?」
「なにおいうなお。これこそミントちゃんとネリウムの子たちの絆の勝利なお。見た目だけじゃないなお。強さだって、まっとうな忌み枝は無理だけどザコい忌み枝ならシバキ倒せるくらい強くなったんだなお。もちろん永久尽界の覚醒済みなお」
「マジか」
「マジなお」
「俺も眷属を作りたいなー。ダメ?」
ほたるが月跡に聞く。
「酔妖花様の眷属としてふさわしいものであれば私は何も云わないわ」
「うーん基準が厳しいです」
「それよりほたる、あなた、酔妖花様の眷属として一人前になる方が先でしょう」
「むむむ、そう言われると反論できん」
「さて」
瑚沼崎が発言する。
「私達は格段に強くなりましたが、やはり個別行動は控えましょう」
「こっちが強くなったことを隠匿するなお?」
「ええ、一回切りの切り札です。深き茂みの本陣とやり合うまでは秘匿しておきたいです。彼らも無策、無力ではない。対策を取られる前に勝負をつけたいところです」
「ネリウムの子たちはどうするかなお?」
「自陣を固める方針でよいのではないかと思います。まだ新アラビリス帝国は脆弱性を抱えています。ネリウムの娘たちにはそれこそ『深み』から対外的情報戦までしてもらわなくてはならないのですから、ミント様の眷属として強くなったとしても今は留まるところとでしょう」
「で、今更な話だけど魔薬組織はどうするんだ」
「それは月跡お嬢様に潰してもらいましょう。彼ら『深き茂み』も疑問には持たないはず。それにこちらに援軍が来るとの情報を持ち帰ってもらわなければなりません」
「結構調整が難しいな。とりあえず、えーとなんていったか、あの変態スケベおやじ」
「イシュトビ・ノヴァ―ドです」
ローラがほたるの疑問に答える。
「そーそれ、ミントも来るか。俺尋問なんてできないし、あ、おっさんでもいいや。喰っちまえばいいもんな」
「ほたるちゃん単独行動は禁止っておいちゃんが云ってたでしょ。三人で行くんだなお」
※明日も投稿予定です。




