第39話 占い師
「おっとこのだなおー、因みにその理由はなお」
「『深き茂み』は純粋に自らが優位だと思っているでしょう。事実、3人合体が100体現れたら、月跡お嬢様でも厳しいのでは無いでしょうか」
「つまりこっちを舐めてるってーわけか」
面白そうにほたるが云う
「有難いことに少なくとも現時点ではそうです。油断大敵、最大のチャンスを活用すべきです」
「さらに一手間を掛けましょう。暁鐘統合元帥かノキ首席補佐官に『目的地を発見、至急、援軍を要請』と送ったことにしましょう。もちろん本当に送っても良いのですが」
「本陣の守りは固くなりますが、それ以外の戦力は前線に張り付く訳ですね」
「ローラさんの云うとおり本陣の守りは固くなりますが、元々固いでしょうし、それ以外は無人の野のごとしです」
「悪くないわ。ミント、ほたる、瑚沼崎、準備しなさい。ローラはネリウムの娘たちにいつも通りの仕事をするように伝えなさい」
月跡はそう言うと、青水晶水の入ったグラスを置いた。
「それにしても最初の一人が当たりらしいとは運がいいというか、ネリウムの子たちは優秀だな」
「今、一番、話題の人物でもありますから。リストから外すわけにも行かず、最上位に入れた訳なので優秀といわれると気恥ずかしいものがあります」
「占い師だっけか。胡散臭さ爆発だけど、魔法も奇跡もある世界だからなー。教祖とかいうよりかはマシか」
「非公式ですが彼を救世主と見做す教団の存在が複数あります」
「そのなかに深き茂みがいるってわけか。今度は思いっきりぶった切てやるぜ」
「ぶった切るのはいいなお。でも実力が足りないなお。というわけで修行回なお」
「それはいいですね。少なくとも三人合体を自分一人で倒せるようにはなりたいですね」
「でも修行って何をするんだ。筋トレじゃないだろ」
「永久尽界を眷属化と合体忌み枝の永久尽界の吸収で強化したのはいいけど使い方がまだまだなお。例えるなら神金属の武器だけ手に入れた初心者のようなものなお。達人にはほど遠いなお」
「なるほど分かったが、どうやって永久尽界の使い方を学べばいいんだ?」
「ばっちり強くてそこそこ手加減してくれるちょーどいいのがいるなお」
「つまり私が相手をするというわけね。分かったわ。鍛えなおしてあげます」
月跡が自身の永久尽界を押し広げる。
領事館の貴賓室は、月跡の永久尽界によって隔離された異界へと変貌していた。壁は深紅の薔薇の蔦で覆われ、床は漆黒の大理石で磨き上げられている。天井からは、無数の水晶がシャンデリアのように吊り下げられ、妖しく煌めく光が室内を満たしていた。
「では始めましょうか、ほたる」
月跡は静かにそう告げると、漆黒のドレスを翻し、空中に浮かび上がった。その姿はまさに「月花」、この世界の理を超越した存在感を放っていた。
「行くぜ!」
ほたるは意気揚々とⅢ両刃双の大鎌を構え、月跡へと突進する。しかし、その動きは月跡には遅すぎた。
月跡は軽く手を振るだけで、ほたるの攻撃を回避する。さらに、周囲の空間を歪ませ、ほたるの動きを封じていく。
「なんだよこれ!?」
身動きが取れないほたるに。月跡は静かに語りかける。
「永久尽界は、あなた自身の世界よ。その世界を完全に支配し、操ることが出来なければ、貴方の真の力を発揮することはできないわ」
「俺の世界を支配? どうすればいいんだよ」
ほたるの問いに、月跡は答えず、指先から青い炎を放つ。炎はほたるの周囲を囲み、徐々にその身を焼き尽くそうとしていた。
「熱い! ちょっと待て!」
必死に炎を避けようとするほたる。しかし、月跡の放つ炎は、ほたるの思考を読むかのように、その動きを先読みし、執拗に追いかけてくる。
「諦めるのはまだ早いわ。ほたる。あなた自身の永久尽界を認識し、支配するのよ」
月跡の声が、炎の熱さの中でも、ほたるの心に響く。ほたるは目を閉じ、自身の内側に意識を集中させる。
Ⅲ両刃双の大鎌、それはほたるの魂と共鳴する武具。その大鎌を通じて、ほたるは自身の永久尽界を認識しようとする。
最初は、ただノイズでしかなかった。しかし、徐々に、そのノイズは明確な形をとり、揺るがない形を表した。
「これが私の世界か」
ほたるは目を開くと、その瞳は力強い光を放っていた。周囲の炎は、ほたるの意思に従うかのように、消え去っていく。
「よく出来ましたわ、ほたる」
月跡は満足そうに微笑む。ほたるは、自身の永久尽界を支配できるようになったことを実感していた。
「でも、まだまだこれからよ。更なる修行が必要だわ」
「そうだな。もっと強くならなきゃな」
ほたるは、改めて決意を新たにする。
※明日も投稿予定です




