第34話 お時間を頂いてよろしいでしょうか
柔らかな陽射しが降り注ぐネノコリ草群生地、その新緑のように瑞々しい草を風がそよいでいる。その風景を見ているだけで心が澄んでいくようだ。
「この広さの草を全部ぬけって、依頼者は何考えてんだ。不可能じゃん。不可能じゃないけど」
呆れた様にほたるが云う。
「ざっと見、10acreはありますね。相当な人数でやるか、大型農業機械が必要ですね」
「まあ、だから魔法があるんだけどよ。一体どんだけヘロインを造る気なんだか」
「で、どうする。益男のおっさには不向きだけど多分俺出来ると思うんだよなーだって鎌だし、草刈りだし」
「草刈りもいいけど、ローラちゃん、『保護者』はいらないんじゃー通らなかったなお?」
「いえ、裏の表向きには『保護者』はいない約束です」
あえて念話を使わずに会話をするミントとローラ。
「草むしりが終わったら『さようなら』かしら。可愛らしいわね」
日傘をさした月跡が楽しそうに言う
「えー益男のおいちゃんのLV1500で登録しているなお。それに勝てるって少なくとも忌み枝並みなんだなお。でも忌み枝の反応無いんだなおイコール保護者とその保護者は阿保なんだなお」
「いや宮仕えってのもあるし、魔薬とやらに自信があるかも知れないぜ」
「その両方かもしれないです」
「やれやれと云いたいところです。鉄砲玉とは懐かしい」
ほたる、ローラ、瑚沼崎がそれぞれ云い放つ
「じゃ、俺、まず草刈りするわ。そんで後のことは後でするでいいんじゃね」
とほたるが『Ⅲ両刃双の大鎌』を大上段に構える。
「始めなさい」
と月跡が云い終わったとき、電子雲、原子核のみならず魔法陣が創り上げる永久尽界の複合体の意味すら切り裂く一閃が放たれる。結果、莫大な熱エネルギーが生成されるが返す刃で熱エネルギーのみならず、その熱エネルギーにより加速された物質から放射される熱放射にすら指向性を持たせ天へと向ける。それは天に届く長大な黒の塔として認識される。
「どやあ、いいところまで行ったんじゃないか俺」
自画自賛するほたる。確かに以前の「Ⅱ」より、より深くより精緻に切り裂いてみせた。
が、
「及第点は上げられないわ」
月跡にバッサリと切られる。
「何でよ!」
「指向性を1方向にしか出来なかったからよ。2方向の衝突パターンでエネルギー消失させることぐらい出来て及第点、さらに自信の永久尽界へエネルギーを情報として蓄積できる量になったら合格点。期待しているのよ。あなたも醉妖花様の眷属になったのだから」
「うむむむ…」
唸るほたるを見ながらローラが瑚沼崎に聞く
「醉妖花様ってどんな方なんです?」
「私もあったことはないが、月跡お嬢様の美しさと力の根源と聞けば、正直お会いすることが一生無い様に願っているよ」
「しかし、その前に、飛んでくる鉄砲玉元い保護者をどうにかしなくてはいけな
云い終わる前に草影から4つの影が飛び出し、一瞬の間もなく瑚沼崎の急所に大ぶりの黒いナイフを突き刺す。明らかに音速を超えているのにも関わらず、衝撃波がなく無音なのは大気を操っているためである。
致命傷であっても瑚沼崎にとっては致命傷の概念が通用しない、LP操作で幾らでもどうにでもなるからだ。致命傷であった4つの傷がもたらす死はそのまま相手に反射して終わりである。
そもそも大量のLPをもつ瑚沼崎にとって4つの致命傷など無視してかまわないものであったが、自己の拡大した能力を確認するためあえて能力を使用したまでである。
しかし、モスグリーンの戦闘服を着た4人は確かにそれぞれに致命傷が跳ね返されたにも関わらず二撃目の致命傷を放ってくる。瑚沼崎は先と同じく死を反射して終わりである。
数撃の後、致命傷だらけになった戦闘服の4人はオートリカバリーを使い、それぞれの複数の致命傷を全快させた。
「ますおのおいちゃん、手をかすかなお?」
「いえ、もう少々、お時間を頂いてよろしいでしょうか」
「OKなお」
「さて、それでは」
瑚沼崎が全身に力をこめゆっくりと腕を伸ばし手で時空を掴む。掴んだ時空を腰まで引き延ばし、正拳突きの構えをとる。この間も戦闘服の4人は間断なくナイフを突き立てようとするが、瑚沼崎を中心に時空が歪んでいるためにずれてしまう。それでも瑚沼崎に刃を突き立てるが全く徹らない。そのうちに
「正拳中段突き」
瑚沼崎の一撃が放たれる。局所的だが破滅的な振幅を持つ時空震が瑚沼崎を中心に発生する。結果、時空を失った物質は情報を保持できず消失する。真空状態になった直径30feetの空間に大気が一度に慣れこみ周囲の気温が下がるなか、瑚沼崎が消失した地面の縁から現れる。
「お時間いただき大変失礼いたしました」
「いえいえ、瑚沼崎のおいちゃんの次はミントの番なお~と云いたいけれど保護者はもう帰っちゃったなお。1-1 completeなお~」
「それにしても益男のおっさん、食べずに消し飛ばして良かったのか」
「ええ、どうやらLP燃焼系でしたしそれなら食べるより新しい能力の確認をしたかったのですよ」
「ふーん。じゃあ丁度良かったのか?でもこれからどうすんだ?カチコミか」
Ⅲ両刃双の大鎌を頭上で回転させながらほたるが益男に聞いてくる。
「いえ、普通に依頼の達成を報告しに行きます。ただ、以来の達成だけでなく、『正体不明の襲撃者』を撃退したことも報告します。報告しに行くのはミント様とローラさんのお二人です」
※明日は17:30に投稿予定です。




