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「お母様は悪役令嬢」  作者: 輝く泥だんご
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第29話 真樹の苗木

 大型の幌馬車の(藁ベッド付き)の荷台に月跡の大量の荷物がつまれその隙間にやっと入り込めた故沼崎が云う

「まあ、今思えばおかしかったんですよ。月跡様の本質は『焼き尽くす』なので正常な認識を焼き尽くすことができたはずなんですよ。結果として認識阻害を組み込んだ冒険者証を作ることができたわけんですが」

「どうしてご機嫌が悪いのでしょう」


「そりゃ簡単なんだなお。月跡の美しさは酔妖花さまから授かったものなお。それを誤魔化すことは酔妖花様への不敬で激おこぷんぷん丸なお」


「でもこれ良く出来ているよなー。個人認証の他にLv表示、完遂した以来の表示、さらには相手の情報の読込まで、まあ改ざんしているんだけど」

鉄の細いチェーンに魔石がついたネックレスのような冒険者証を見ながらホタルが云う。

「そんでlvは150か、まあ妥当じゃね。俺の見た目7歳ぐらいだし」


「ミントちゃん(⸝⸝•ᴗ•⸝⸝)੭⁾⁾はLv220だお」


「私はLv1500ですね。まあ、用心棒役ですから」


「それで、月跡のLvは8のままでいいのか?」


「本当にLv8ですし、本当は一番強いですし。本当に何も問題はないでしょう」


「で、これからどうすんのドキドキ学園編とかすんの?」


 軽い雑談をしながらも4人の目は前方の一点に向けられている。


「馬車襲撃イベントの方が先でしたね」


「馬車を停車なお」


 ミントが御者をしているネリウムの子達に指示を出す


 瑚沼崎が馬車の荷台から降りて馬車の間に立ち、視線の先にいる一人の仮面の男に声を掛けようとすると


「サヨウナラ、瑚沼崎サン」


 瑚沼崎がとっさに左腕で心臓を守ろうとしたが、男の拳が瑚沼崎の左腕を文字道理に打ち抜き、同中央左、心臓まで貫いた。衝撃が瑚沼崎の身体を走りぬけ、尤も心臓に近かった背中には衝撃波だけで生じた貫通痕が残った。

 瑚沼崎の膝が崩れ落ちる前に

「ふざけんな!オラッ」

ほたるがⅡ両刃双の大鎌で男を構成する原子の原子核を切り裂こうとするも、影に切りかかったように男には実体、つまり原子核がなく空振りに終わる。


「サヨウナラ、ほたるサン」

 ほたるが再度斬りつけようとした大鎌を男が素手で掴み、ほたるとⅡ両刃双の大鎌の永久尽界を男自身の永久尽界が侵食し食い尽くす。


「あー、仮面をとってもらって構いませんか、忌み枝さん」


 仮面の男は笑ったようだったが、その仮面を外した。その顔はノキ=シッソに本当によく似ていた。


「真樹の苗木、私たち『忌み枝』は自分たちをそうよんでいます」


「でも呼び名なんてそんなに意味はありませんよね。こんな時には」


「いえいえ、意外と大切ですよ」


 他愛ない会話をしながら、それぞれ相手を殺しきる術技を練る。ミントにとってはこの世に実体があろうとなかろうと永久尽界を砕き尽せばよい。逆に忌み枝にとってもそれは同じことだろう。

 ノキの阿保の言葉を思い出す。「城がまさに落ちるとき、その城に残っているのは武官ではなく文官なのですよ。文官の最後の戦いとは、ぺンで戦うものではなく、剣で戦うのもなのです」

 

「ま、いずれにしても、城は落ちないなお」

云うと同時にミントの永久尽界が忌み枝の永久尽界を圧殺せんと次元を降り落ちる。その余波がこの世界では熱となって忌み枝を襲う。余りの熱により時空が加熱された物質に引きずれて指数関数的膨張を引き起こし巨大な重力振を起こす。


ミントの命を使った一撃だ、並みの忌み枝に耐えられる物ではないが、しかし


「流石に『百薬』の一人ではありますね。あなたの本質がもっと戦闘向きであれば、あるいは、もっと成長していれば、死んでいたのは私でしたね」

地に伏したミントに向かって丁寧に話し続ける

「まあ、私の本質もさほど戦闘向きとはいいがたいのですがね」

しかしそれでもミントの「永久尽界・崩落」を全て耐え、崩れ切ったミントの永久尽界を完全に消し去った。

「さて、それでは、さようなら月跡お嬢様」


「奴隷は別に要らないわ。だから、そうね。焼き尽くすわ」

荷馬車の前に人背丈分宙に浮いた月跡が独り言のように静かに云う


「余裕ですね、月跡お嬢様」


「余裕よ、枯れ枝」

「さようなら、枯れ枝、油を撒かれた薪のように燃えなさい」


 忌み枝の手足の先に火が付きゆっくりと全身に回ってゆく.、一瞬、余裕の表情だった忌み枝だが、肘、膝より先を切断する。切断された手足は一気に燃え上がり、まだ火が回っていなかったはずの身体の切断面に火がつき燃え始める。


「何故、実体がここに、実体の永久尽界がここに!こんな!」


「許すのは燃える音だけよ」


 残った手足のみならず胴体、頭も激しく燃えてゆく、まさに油を撒かれた薪が燃えるようだ。


「さて、ネリウムの娘、何か言いたそうね」


「いえ、主人を守り戦い死ぬのは当然の事です」


宙に浮いた月跡を見上げながらネリウムの娘は云った。


「何か勘違いをしているようね。私たちの主人は醉妖花様、ミントが伝えてなかったかしら」


「それに、まだ世界は三人が死んだことを知らないわ。因果を焼いたから。三人が死んだのはまだここだけの話よ。だから何も起こってはいないの。ああ、でも、あの枯れ藁だけは死んだ事にしておかなくてはいけないわね」


「つまりミント様達が死んだことを無かったことにすると」


「それだけじゃないけど、まあ。それでいいわ」


「止まった時空は流れをはじめ、囲いの中にも因果が流れるわ。さあ、起きなさい」


「うう、やられたなお~?」


「Ⅱ両刃双の大鎌が折れちゃったー?」


「LPがもうありません。何人か食べなくてはでは無くて何か食べなくては?」


「あれ?」「折れてない?」「LPMAXですね?」


「まあ、こんなところよ。ネリウムの娘、私に嫌悪感を向ける度胸は認めるけどいささか軽率よ」


「月跡ちゃん、ローラちゃんをいじめないでほしいなお」


「分かったわ。それより緊急の問題が発生したわ皆、馬車に戻りなさい」

※次の投稿は一週間後の予定です。

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