表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「お母様は悪役令嬢」  作者: 輝く泥だんご
3/97

プロローグ


 赤色極超巨星の大きさを超える惑星の超大陸山塊すら飲み込む巨城が燃え夜空が赤く照らされている。


 解放軍がついに死都「精火京」へ踏み入り、彼らの英傑たちが巨城「紫星城」へ突入したのだ。


 その紫星城の建材は全て魔黒大理石が使われており、黒く光る城の内外に薔薇の蔦が赤く脈打ちながら這いずり回っている。

 その蔦は毒蛇のように城内へ突入した解放軍の英傑達に絡みつき、その体内を食い荒らし大輪の花を咲かせてゆく。


 城内は破滅の呪いに満ち満ちており、呪いに対抗するために、たった一人が、瞬き程の時間、命を保つためだけに数兆の贄の命を費やさねばならず、さらに一歩、前に歩みを進めるためにはその数千澗倍の贄の命が失われる。


 喰い潰される贄の命は膨大にして甚大、しかし解放軍の英雄たちは城の奥、より強い破滅の呪いが支配する玉座へと突き進む。


 ”骸薔薇を討つために”


 ”骸薔薇”、その令嬢は種を問わず恐怖と憎悪と共にそう呼ばれる。

 

 その名の通りむくろに咲く大輪の妖しき薔薇、その妖しき薔薇が求めるむくろとなるは、美しい、美しい子女達である。


 妊婦からは腹を裂き取り出した胎児の跳ねる心臓を満たした血の風呂、初潮を迎えぬ幼い少女からは生きたまま肉を裂き、骨を割り、取り出した骨髄をすり潰した上で蒸留しあらゆる魔法薬の材料に。


 初潮を迎えた処女からは、その腹を生きたまま裂き、引きずり出した内臓を家畜に食わせ、育てた家畜をまた処女に喰わせてまた腹を裂くこと繰り返し、酸鼻極めるをもってその処女の生肝をディナーの一皿に。


 他にも、その他にも、その々他にもあらゆる痛苦、血と涙の流れる全て、それこそが呪い、すなわちむくろとなりて”骸薔薇”は咲き誇る。


 さらに咲き誇るために、膨大な血と涙、すなわち、むくろを求め、そのむくろをまかなうため己が民を互い相食い合わせむくろとするのは自然な成り行きであった。


 そのむくろになるは人族のみならず、魔族のみならず、不死族すら”骸薔薇”の根からは逃れることかなわず。


 それ故に


 人族、魔族、不死族の将兵により解放軍は編成されている。

 兆を超える英傑、澗を超える兵、そして数多を超える数多の贄、天地覆う大軍勢であった。しかし、将兵の顔に緩みはなく、強いて言えば殉教者のそれであった。それは己の全ての消滅を受け入れ、なお、前に進むものたちの顔であった


 精火京を制圧し、紫星城を落城させんとあらゆる種族が大攻勢をかけ”骸薔薇”に一歩、一歩前進するものの、将達は絶望の一歩手前にいた。「贄が足りぬ」、「これでは骸薔薇にとどかぬ」、「これでは我らが”骸薔薇”への供物となる」と。

 

 このままでは朝には解放軍の敗北が決定的になる。


 この戦の勝敗においてなによりも「贄」の数が決定的である。”骸薔薇”の創るゴーレムが創るゴーレムが創るゴーレムが創る藁のゴーレムですら魔導鋼を超える強度・耐魔性を持つ。


 それらの理不尽を踏み越えるために「さらなる理不尽」を用いる。

 それが「贄の儀式」、人身御供をもって藁魔鋼のゴーレムの弱体を繰り返しただの藁のゴーレムに戻す。破滅の呪いを衰弱の呪いに弱める。人の柔い体を神金属に準ずるものへ、人の弱い膂力を大巨人に等しいものへと変える。


 その贄が明らかに足りぬ。


 ある者が軍略を変えることを進言する。「兵に回す贄全てを城に突入した英傑達へ」と「この戦いは”骸薔薇”を討つためのもの、英傑たちが城に突撃したことをもって兵の戦いは終わりました。将兵全て討ち死するとも”骸薔薇”を討てば、それすなわち我々の勝利」であると。


 その進言は了とされた。


 将達に進言した者は陣中を見渡すと


「では、私も最後の一中と参ります。---皆々様、私のようなものの言葉に全てを懸けて下さり、いかように感謝を表せば良いか、愚人ゆえ感謝を表す言葉が出ないことお許しいただければ幸いです」


 奇怪な形状のハルバードのみを持ち、革鎧どころか小手すらつけず、散歩にでも出かけるように軽く挨拶をし、己が向かうべきところ、”骸薔薇”の玉座へ歩みを進める。


 玉座の間では、破滅すら超えて終焉そのものが結晶化し、大輪の薔薇として咲いている。

 

 玉座におわすのは大輪の妖花”骸薔薇”。


 その髪は黒漆より深く黒く照り輝き、肌は真珠のように光を纏う。

 縦に裂けた瞳孔の包む瞳の片方は最も赤い鮮血のレッドダイヤよりさらに赤く輝き、もう片方の瞳は賢者の石により創造された金より輝く。


「大変お待たせしました。お嬢さま」


奇怪な形状のハルバードを持つ者、男が己の主人である”骸薔薇”に対し臣下の最敬礼をとる。

 お嬢様と呼ばれた骸薔薇はいかなる楽器も超えらねぬ美しい声で


「貴方との遊戯は楽しかったわ。次はもっと楽しいのよ。待ちきれないわ」


 その言葉が終わると同時に奇怪な形状のハルバードが玉座ごと”骸薔薇”の心臓を貫いた。


 これにて”骸薔薇”は打ち取られたものの、あるべきはずの”骸薔薇”の遺骸はどこにもなく、惑星の重力崩壊も起こらなかったものの、”骸薔薇”の纏う薔薇が枯れ落ちたこと、”骸薔薇”の贄の要求が行われることがなくなったことをもって解放軍は勝利を宣言した。


 そして、この戦も長き時が過ぎ、古き歴史となり、もはや僅かな者のみが知る神話の出来事となったはずであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ