第26話 瑚沼崎の血
そして明後日となる。酒店ネリウム「ノゼイン」の会議室、流石にミントが最高級店というだけあり調度品は豪華絢爛でありながらも厭らしさがない。
三人娘のほか瑚沼崎そして緋色の死の5人がテーブルに着き、その他、数名のネリウムの娘が侍女のように立ち並んでいる
「それでは改めまして我々みつらぼしと共に天を飾るか否か、ご回答を、緋色の死の方々」
「一昨日にはもう知ってんだろと云いたいところだが、『改めて』緋色の死の全員、今後ともよろしくお願いするぜ」
瑚沼崎の問いにアイリーンが回答する。
「良かったなお、それでは緋色の死の皆には死んでもらうなお。といってもホントに死んでもらうのではないんだお。表の社会では死んだことになってもらうんだなお」
「その事についてはお詫び申し上げねばなりません。初期の案では緋色の死は帝国を侵略する諸国から救う救国の英雄となるはずだったのですが、その、それが
「おいちゃんと特に月跡がやりすぎて侵略どころではなくなったんだなお。どこもかしこも内乱の危機なんだなお」
「焼いたのか」
バーナードが問い尋ねる
「連合王国は焼いちゃいないぜ。通達送ったばかりだしな。ただ、連合王国に戦争を吹っ掛けた旧諸国連合と云えばいいのか、そっちは月跡が一人一人じっくり弱火でこんがり焼いた。死んだ後でも焼くと縮むから動くってのはホントなんだな」
こともなげにほたるが云う
「まあ、そんなわけで、皆さんの名誉のためにも、『みつらぼし』に反旗を返すものの刃届かず敗れたとしたいわけです。ああ、顔や名前を変える必要はありません。非道にも『みつらぼし』は緋色の死の全員を生ける屍として使っているとしますので問題ありません」
「でも、一つだけ、命令があるわ。拒否すれば本当の死よ」
「なんでしょうか」
アランが返事をする
「アランは既に瑚沼崎の血が混ざっているわ、他の者も同じく瑚沼崎の血を受け入れなさい」
「ええ、いいんですか!?」
パトリシアが食いつく。さもありなん、死者蘇生の力の一端を手に入れられるのだ。願ってもないことだろう。
「バーナード、パトリシア、あなた達はどうなの」
「正直、月跡お嬢様に名前を覚えてもらっているとは思ってもいなかったぜ。俺は構わんよ。生き返ってもアランはアランだったしな。」
「同じく人生最大の衝撃だったわ。それに比べたら大したことじゃないわ。ご命令、拝受するわ」
「アイリーンたん、名前を呼ばれなかったのは名前を覚えていなかったからではないなお。リーダーなら当然受けるものだと確信しているからなお。信頼の証なお。」
「いや、別に構わないが、まあ、アタシも血をもらう事に異論はない」
「私の血など大したものではありませんけどね。皆さんそれではワインか何かに混ぜて飲んでください。一晩立てば心身になじむでしょう」
そう言って瑚沼崎が瑚沼崎の血が入った小瓶をそれぞれに渡す。もちろん血の色は赤い色をしている。
「私にもですか?」
アランが多少戸惑いながら小瓶を受け取る。
「あ、それは俺の血が混ざってるやつ、おっさんの血でならした心身には行けるだろうってミントのやつが」
「ほたるさんの血ですか、ミントさんが大丈夫というなら大丈夫なのでしょう。頂きます」
「そうなお、皆、グイっと一瓶空けてみるなお。元気爆発なお」
ネリウムの娘たちが様々な飲み物、蒸留酒から果汁までを恭しく運んでくる。
「私は飲み物はいらないわ、このまま頂くわ」
云うが早いかパトリシアが小瓶に入った瑚沼崎の血を一気飲みする。
「瑚沼崎の旦那、噛り付かれないよう気をつけるんだな」
バーナードが呆れたように言いながら同じく血を飲み干した後、エールビールを勢いよく一杯飲んだ。
「なんつーか普通に血の味だったな」
「じゃあ私も貰おうかしら」
マーガレットは柑橘の果汁で薄めて血をのみ、口直しに別の果汁の一口飲み、パトリア達が飲んでる間にアランは無言で直飲みし、アイリーンは小瓶のふたを開け匂いを嗅ぐと
「蒸留酒の強いやつ頼むわ」
と血を飲み込んだあとゆっくりブランデーを一杯飲み干した。
「皆あっさり飲んだなおー。昔、ミントちゃんも同じような事があったけど、かなり悩んだなお。最後は涙を飲んで飲んだなお」
「そりゃ、ミントお嬢と違ってアタシら一応、大人だし、その上、傭兵まがいのことで食いつないでいたわけだ。なんて事はないさ」
「さて」と瑚沼崎云う
「元緋色の死の皆さん、明日には私の血が馴染むでしょう。そうすれば見た目を多少となりともアンデットのようにできるでしょう。そのアンデッドのような姿で仕事を一つお願いしたいのです」
「なんかあった。そんなの」
ホタルの問いに瑚沼崎が答える
「そもそもアラビリスと交易路だけ手に入れれば充分だったのですが、現在、アラビリス、聖地都市、まではともかく連合王国まで手に入れてしましました」
「要らないものは捨ててしまえばいいのよ」
「確かにその通りですが、交易路が死なぬようにするには帝国及び帝国に戦を吹っ掛けた諸国が和平を結び以前のように商いをできるようにしなければなりません」
「ふむふむなお、諸国にアンデット風のアイリーンちゃんたちをそれぞれ送って和平を結ぶものにみつらぼしは付くとするわけかなお」
「じゃあ、連合王国はどうすんだよ。やっぱ要らなくね」
「当初の計画にはなかったのですが、ネリウムの娘の方々を新たに徴募できぬものでしょうか。アラビリスの『深み』に連合王国も沈めることは『みつらぼし』の利にも叶うはず」
「捻切るわよ、と言いたいところね。けどまあ理にかなっているし、徴募する子たちも最小限で済むように取り計らうのでしょなおなお」
「でも何でそんなに連合王国にこだわるんだ?」
「交易路の拡大によるアラビリスの発展ですかね。当然、この連合王国にも聖地都市は複数ありますから。直接押さえたいのです。ゆくゆくはアラビリスを聖地都市にしたいと考えております」
「まあ、いいわ。瑚沼崎が私達に尽くしてくれているのはわかるわ。多少のことは好きにするといいわ」
「んで肝心要の帝国はどうすんだよ」
「当然私が受け持ちます。少々見た目が悪いですが瑚沼崎の血の開放を行います」
「おっさんの本気モードか、そりゃ楽しみだ」




