第23話 建国記アラビリス
日没後、仕事を終えた益男が『淀み』の一掃を報告とある提案をするためネリウムの執務室を訪れ、扉を開けると
「瑚沼崎、久しぶりね。活躍は帝都の深みにも届いているわ」
「月跡様、御久しゅうございます。今まで報告もせずに誠に申し訳ありませんでした」
「そんなに堅苦しくすることはなくてよ。ミントやほたると同じようにしてかまわないわ」
「そのミント様は今どこに?」
「瑚沼崎が拾ってきた5人を特訓中よ。この世界の人間には私たちで云う『本質』を持つものはほとんどいないみたいね」
「ではあの5人に『本質』は無かったと」
「そうね、アランと云ったかしら、瑚沼崎の血を入れた影響で『耐え得るものは無害』を得たようね。それ以外は『本質』持つものはいなかったわ」
「同じことを他の4人にも行えば『本質』を持つのかもしれないけど。今のところは考えていないわ」
「さて瑚沼崎、報告は?」
「順調です。古い『淀み』は最早、アラビリスにはおりません。提案をしても宜しいでしょうか?」
月跡は頷き促す。
「あおの5人のパーティは『緋色の死』と呼ばれ相当の知名度を誇ります。『淀み』の討伐を彼らの功績とし、都市政府を糾弾、革命を起こします。むろん『深み』が許せばの提案になりますが、交易都市アラビリスを完全に掌握することが目的となります」
「構わないわ。『深み』としてはアラビリスに『深み』があればそれ以上は望まないわ。それにここアラビリスの『深み』はとても深いのよ。ここの深みの底となったミントが許せばそれまでの話なの」
「問題となりそうなのはむしろアラビリスを手に入れてからになるわ。統治し続ける大義名分が必要になる。それはどうするの」
「『淀み』からの解放です。他の都市にも同じく『淀み』があります。それは『深み』をより隠すためと考えております。が、それでは余りにも地下経済が大きく政官財の腐敗も大きい。いずれは、他国に後れをとり、自滅するか侵略されるかのいずれかです」
「ネリウムの娘たち、即ち、ミント様の眷属が実権を握れば全てが効率化され、改善します。結果的に『深み』への利益、何より隠匿もより堅固になります」
「大義名分は『淀み』からの解放、民衆へは経済的利益、『深み』へはより深みへと考えております」
「では私達の利益は何かしら」
「月跡様達の目的は存じ上げませんが、この世界が目的地であることは知っています。表と裏、両面においてある程度の規模の勢力の実権を握ることは不利益にはならないはずと愚考します」
「そうね。ただでさえこの世界の制約を受けている以上、使える手勢が多いことは歓迎すべきことだわ。それと教えておくわ。この世界に探している人がいるのよ」
「ミントやほたるには私から説明するわ。瑚沼崎、革命を起こしなさい」
とはいうものの、さして特別に構えが必要なものはない。
既に交易都市アラビリスの『淀み』は益男の腹の中か、他の都市へ散ってしまった。
『淀み』には政官財等それなりの要職についていたものも多く、それらのものが一度に姿を消してしまった。
その『淀み』が行っていた偽還の儀の詳細、そして偽還の儀で呼ばれた「にゃんこちゃん」それを楽しんでいた民衆。自分が正義の立場に立ちたいならば簡単である。
『淀み』を斃した「緋色の死」に集う者が正しく「緋色の死」を支えたネリウムとの縁を結べたものが正しい。
政官財の機能不全はネリウムの娘たちが速やかに解消し、一部は後任が決まるまで、そのさらに一部はその職に留まる事となった。
「さて戦争だなお」
「戦争ですか。内戦ではないのですか」
「それもだなお、『深み』と『淀み』の内戦、結果起こる軍権を含む統治の揺らぎ。統治の揺らぎの自治区の蜂起、そして他国から民族解放のしんりゃくだなおー!!」
「楽しそうですね」
「そりゃそうだなお。なにも自分の家が燃えるわけじゃないからなお。むしろ自分家じゃ、できないあれやこれや何かもーって、落ち着かないと駄目だなお。超越変態には屈さないなお」
「いやーこれほど大事になるとは、然し、頃合いと云うことだったのでしょうね」
ミントは壁に掛けられた帝国の地図にグリグリと目印を付けてゆく。
1.深みと淀みの戦い(内戦)、統治に揺らぎ、離反者の発生
2.中央の分裂闘争による地方への統治の揺らぎ+離反者+自治区=反乱
3.帝国全土にわたる反乱これはもう帝国を侵略するしかないね
「いや壮観ですね。ですが、結局のところ、渡りに船なのでは?としか思えないのですが」
「難題山積の様だけど、どういうことかしら。瑚沼崎」
「いえ、ミント様が掲げられた問題点はこの帝国の問題点。アラビリスにも関係がないわけではありませんが、そうですね、必須なのは、聖地への交易路の確保。これだけですかね」
「アラビリスと交易路以外全部捨てるのなお?」
「ええ、他は必要になったときに『帝国領土の奪還』で構わないかと。といっても此処には人、物、金が集まる土地、欲しがる者は幾らでもいるででしょうが、渡しません」
「ああ、それと渡りに船といったのは、もし聖地都市の帰属が帝国でなくなる様なことがあった場合、奪い返せばアラビリスの帰属に出来ますし、それは交易都市として悲願ではないでしょうか」
月跡とミントの了承は得た残るは帝都の『深み』に潜る、ほたるだけだが、
「ほたるにはミントから連絡しているなお。『俺の仕事は全部無駄云々』云ってるが問題ないなお。しかしおいちゃんのプランはアレだなお『建国記アラビリス』といった感じなお」




