第14話 ちょっとやりすぎかなとかなんとか思ったり
「今突然思ったなお、月跡も眷属なんだから、月跡がこの世界を食べてしまえばよかったんじゃないかなお?」
「冗談、秘花であらせられるかむなぎ様の御姿を見世物にするなんて、そう冗談よね?」
「はいなお。ちょっと場をわきまえなかったブラックジョークだったなお。どうも酔いが完全に抜けたいなかったなお」
「それよりさっさと次行こうぜ、次、もう此処に用はないんだからよ。おっさんもそうおもうだろ?」
「そうですね。特に未練はありません。ご一緒いたしますよ」
醉妖花のいる世界、その五大宗教の一つGoldenRaspberry教極超巨大聖都の宗都にあるエルドラド大聖堂に馬令上人は茶飲み話に来た。
「・・・というわけで一炊の夢となるわけですなあ。時流というものを読み誤れば、栄華も儚いものです。」
「上人様のお言葉をよくよくこの心に刻み申し上げました。」
「さてもうこのような時間、上人様にはお休みどころを用意させていただきました。よろしければご案内致します」
申し出忝く誠に感謝申し上げます。と馬令上人は答える。『肉、酒、女、全てOK』の馬令上人である。心行くまで持成を楽しむであろう。
さて、馬令上人が退席した後の話である。
秘匿暗号念話で馬令上との会話は既に全金飾枢機卿が知るところであり合議も既に終わり、もっとも大事な、なんとなくの雑談に入っている。
そこかしこで行われているものの話題はみな同じ『どうやって儲けるかあるいは我らの死』である。
GoldenRaspberry教は五大宗教の内でも最も世俗的な宗教であり、また一方で、大衆が受け入れやすい、それなりの倫理観を持ち、事に契約や金勘定には厳格な倫理を求める物であった。
馬令上人曰く『どのような才と計りを持って儲けてもよい。ただ醉妖花様を崇めたまえ』
ある金飾枢機卿A
「骸薔薇は今の天中の花に満たされているとは、それを真実と思うか?」
ある金飾枢機卿B
「信じがたいことではあるが、骸薔薇は美しさを何よりも求めた。故に」
ある金飾枢機卿C
「今、咲いている天中の花が、骸薔薇に美しさを与えるのならば、あるい は美しさを保証するならばありえない話ではない」
~以下略~
との雑談が秘匿暗号念話上のあちらこちらで行われ、結局は『どうやって儲けるかあるいは我らの死』となる。
死ぬのはまっぴらごめん。生きるのならば儲けよう。
雑談は概ねその様な流れとなり三々五々と念話が終わってゆく。後ほど行われる正式な金飾会議でも同じ流れと結論になるだろう。
最期に残った金飾枢機卿は
「塔道築は遵いそうだが、さて他の連中はどうしたものか」
他の金飾枢機卿も思ったことであろうこと、但し口にしなかったことを云い。その場を去った。
馬令上人の工作は滞りなく済んだ。
醉妖花様の存在を最も受け入れることができそうなゴールデンラズベリー教を取り込む。また、GR教と比較的融和的な塔道築教に醉妖花様を知らしめる。塔道築は己が教義の達成のため、水面下では協力するだろう。
さて、問題児ならぬ問題おっさんことノキ=シッソ首席補佐官である。が、今はまじめに事務仕事をしている。魔法紙の書類束が空を覆う程、大量にかつ極超音速で流してゆく。もちろん、全ての情報を読み取り、魔法紙に魔力を注ぎ決裁のサインをしてゆく。
「早く、もっと上等な魔法紙を大量生産できるようにしないと。真面に経済の運営もできません。」
その言葉を聞いた『百薬』のサフラン(もちろん幼女)は書類の転送をしながら
「首席補佐官、それは無理というものですね。ただでさえ、帝国内で使用する契約書書類、はては帳簿の類まで魔法紙に替えている最中です。現状、魔法紙の生産ですらままなりません」
「サフランを非難するわけではありません。が、現状に危機感を持っていただかないといけません。『なんかあったらノキの変態に投げればいいや』では組織としての根本的な意義が問われかねません。私がいないときがあっても、少なくとも、事務処理は『太平なり』としなくては」
「でもそれって組織運営の予算をつけてるからですよね」
「予算分の仕事をしろって黒蝶女官長ににらまれてるからですよね」
「事務次官とか首席補佐官の肩書が欲しいいからとりあえず組織を作ってカッコつけたいから予算をとったんですよね」
サフランの「よねよねよね」攻撃の直撃を喰らいながらも、ノキ=シッソの事務処理能力は衰えないが、急に遠い目をしだした。
「若いころはそれでもいいんです。でも年を取ると色々、思うことがあるんですよ」
「無茶すると無茶な結果になるんですよ」
「骸薔薇様に仕えていたころの話ですよね?当時の内政を一手に処理していたそうですね」
「まあ、色々あります。さて、暁鐘統合元帥と華命玉天がお戻りになります。お迎えとご相談がありますので
と首席補佐官は席を外した。
八十八重宇段大天幕の奥、六重宇段天幕で天議が開かれている
「要は人買いをしろということか」
暁鐘は嫌そうな顔をして云う
「そう嫌そうな顔をするな暁鐘、人は掃いて捨てられている程いる。問題は、此処にはいないというだけだよ」
「あの、移民を募るだけの話ですが。御二方、何か誤解をしていらっしゃいませんか」
存在自体が誤解を招きそうなノキが云う
「土地、資源は幾らでもあります。かむなぎ様が創造してくださいますので本当に幾らでも、ただ、人までやるとちょっとやりすぎかなとかなんとか思ったり致しますので」
「そこで、華命玉天の云う通り、人が溢れているところでは、人を奴隷として人でなくしたり、棄民政策が行われたり、まあ色々としていますが、彼らを移民として受け入れるのは悪くない話です。むろんお金を支払うことにはなるでしょうが」
「これから、まさに今、彼ら自身らに行われていることより、天中に咲く花を仰ぐこととは比べ物にならぬか。」
「そのとおりで御座います」
「既に馬令上人がGoldenRaspberry教に話を通しに、塔道築教にはGoldenRaspberry教を通じて水面下で、五大宗教のうち二つとは和議を結ぶことができるでしょう」
またこの二大宗教との和議と、かむなぎ様の威光あれば残り三つとは冷戦に持ち込むのは容易いでしょうとノキは云う。
「故に、この天幕へ自分も華命玉天も帰れたわけか」
「それで、ノキは私と暁鐘に何をさせたいのか」
「大したことではないのですが、重要な事です。天中の花、醉妖花は秘花でございます故、代わりの草木、そう盆栽が必要、ご理解いただけるものと確信しております」




