第10話 てへぺろ
「追撃、追打ちかな-、なお」
「怨霊の類は質量0でしかも虚体だから超光速も空間跳躍もやりたいほーだいから便利なお」
「物理しか攻撃方法がないミントちゃんにとって属性相性最悪なお。マッチング間違えたかな、なお」
「でもね」
ミントのZapatosが『タン』と音を刻む。その音は一度に数光年に響き渡る。
フラメンコのBailaoraとしてミントはBaileをBrazoやMano、Zapatosで刻むリズムでつくり上げ、ノキがCanteとToqueでミントのBaileを際立たせる。
スタンダードなSoleáである。それゆえに感じる。情熱的でありながらも確かに悲哀が感じられる。
死してなお、恨みを持つが故に怨霊として存在し、その恨みを利用され使役される怨霊達である。何もなければ何も感じなかったであろう。然しそうではなかった故に怨霊になり果て、なお使役される。
ノキのCanteとToqueが一段と情熱的にボルテージを上げる。Baileもさらに激しく情熱的になる。そして全怨霊が悲哀を感じ全怨霊が涙する。
涙を流した怨霊はもはや怨霊ではない。半径数光年に亘る巨大怨霊の大軍は全て六字名号を唱え成仏した。
その光景を見ながら月跡は
「根源原則を否定しているといえなくもないけれど、許されたのでしょうね。少なくともノキは許すと決断したのでしょう」
「それとも、ミントは『細かいことはいいんだなお』というかしら」
「さて、次は、ほたるの番だけれど、大丈夫、貴方はできる子よ」
Ⅱ両刃双の大鎌の柄の上に立ち尽くしたほたるは一言
「無理でしょ」
高度一万丈の高空にも海風が吹き、ほたるを通り過ぎてゆく。
「はー、でもやるしかないかー」
Ⅱ両刃双の大鎌を振り上げ魂真の魔力を注ぐ、大鎌は魔導超伝導体として、ほたるの魔力をロスレスで受け取る。
「まだ、本当に足りない」
『武具を操る』を拡大解釈し自身の身体を武具として操る。その次の段階として自身の魂を『武具として操る』、imageする自分の魂を燃やし魔力とすることを。
魔力と魂の無限ループの回路が発生し魂の爆縮が始まる。完全な崩壊が発生する直前、Ⅱ両刃双の大鎌の魔導体とほたるの魂が直結する。己が魂を武具とするならば、武具を己が魂とすることも出来る。魔導超伝導体で構築されたⅡ両刃双の大鎌とほたるの能力が為した極魔技である。
「死ねや、糞B〇A!!」
振り上げたⅡを振り下ろす。
空間もろとも高次元クラインの壺結界を切断し、B〇Aの永久尽界を粉塵まで切り裂く。 しかし、B〇Aは実体をこの自界におろすことで消滅を回避する、が、裂いた空間よりほたるがB〇Aの眼前に迫る。
「なるほど、安い、雑な、造花だ」
ほたるは言い捨てるが、充分以上に美しい花である。ただし、醉妖花を見たことがないならば。
逃げれば良いものを造花は反撃してくる。が、魔導超伝導体となった、ほたるの身体には魔力を伴った現象は一切の影響を与えられない。
「何を夢見たか、何をしたかは知らないが、お前は鐚銭の造花で終わりだよ」
横薙ぎにⅡを振るう。電子雲を切り裂き、原子核を切り裂き、切り裂けるものは全て切り裂く。
名乗ることすら与えられずビタ銭造花は跡形もなく破壊された。
その刻は、ミントが指定した四半刻丁度であった。
一方、 八十八重宇段大天幕の奥、三重宇段天幕。
「まったく相変わらずの美少女系美少年系美少女の完成形ですねー。我が主、かむなぎ、完全な翠玉、天中に咲く花よ」
醉妖花は薄っすらと目を開けて
「やあ、ノキ、夢を見ていたよ。とても美しい夢だった。母様にも見せたかったよ」
「なんとも喜ばしいことです。が、なりませぬ」
「醉妖花様は如何なる刻であっても、御身、御心以外を美しいと思し召すことなりませぬ」
「ここは私めが一木一草尽くまでただ一つの花のために造り上げた庭でごさいます。そこに咲く花々は全て天中に咲く一つの花を称えんがためのもの」
「一木一草へのご慈悲御座いますれば何卒、何卒、御身、御心以外を美しいと思し召すことなりませぬ」
深く跪拝をとる
「礼をするのはよろしくとも、その血塗れの姿は、首席補佐官といえどもいかがでありましょうか」
黒蝶女官長が云う。『それにー、と続ける
「かむなぎ様の御心を縛ることこそ、望みませぬ。それは庭の花として集められた、私を含めたもの全て。醉妖花様へお仕えする喜びと、咲いていたところからむしり取った首席補佐官への思いは別でありますよ」
ノキ首席補佐官は『てへぺろ』で対応するものの、女官長をはじめ女官達、近衛のものの表情は冷たい。
「あー、まあ、集めるのに暴力に糸目をつけなかったことは認めますがね。でも、まあ、いいじゃないですかというわけでここは一つ、GO!COM'ON!」
~東英記~
東英歴一万五千三年弥生十七日、一つの天中に咲く花は一つとなりて大乱は終わらずとも一つの乱は終わり新たな乱への静かな戦間期となる。不形の将軍の陣は2光年を覆い如何なるものを漏らさず。天部たる華命玉は虚空を恩徳をもって律する。隠形の鬼神は国を飲む。飲まれた国は滅する事なきも、山河は天中の花を称え、天中の花の命に己が身命を捧ぐ。
~東英記~




