プロローグ
「異世界転生って、なんです?」
僕は女神、シャウロ・ロロア・マーシャロー様にたずねた。自分の羽が毛羽立っていないかどうか、確認しながらの質問だったので、ややぶっきらぼうな言い方になってしまったが、
「その名の通り、私たちのいる世界とは異なる、別の世界に転生してしまうことよ、クルエル」
女神様はいつも通り、優しく答えてくれた。
そんな優しい女神様が僕は大好きだ。
あたりに散らばっていた雲が女神様の元に集まり、ホワイトボードへと形を変える。
ところどころ色が変わり、文字や図形が現れる。
「あなたも知っている通り、私たちの世界は基本的に三つに分けられます。まず、今私たち天神がいる天界、そして地神たちが治める地界、最後に、人間たちが生きる現世。ここまではいいですね?」
僕は頷く。神や僕たち天使ならば当然知っていることだ。
「現世で良いことを沢山した人は死後天界に、悪いこと沢山した人は地界に送られ、定められた期間の後、また新たな命となって現世に生まれます。これが基本的な転生です。私たち神やあなたたち天使の仕事はこの管理ですね」
ですが、とシャウロ様がホワイトボードを叩く。
「なんと、驚くべきことに神の誰かが若くして死んだ魂たちを、別の世界に転生させてしまっているようなのです。しかも彼らはその世界でハーレムを築いて酒池肉林の限りを尽くしたり、その土地の生き物を沢山殺めるという残虐非道な行いをしているようなのです!」
なんて嘆かわしい……とシャウロ様は悲しそうだ。
だけど僕は、なんだがそれはすごく楽しそうだな、と思った。
「そのうえ、天界や地界に来るべき魂が来ないというのは、大変なことなのです。今でこそ数は少ないですが、このままでは異世界に魂が流出し、現世の魂の数がどんどん少なくなってしまいます。つまり天界や地界がドンドン過疎化してしまうのです!」
「そっかー」
あ、毛羽見っけ、と僕は自分の羽を一本抜いた。
そんな僕の方を女神様が向く。
「そこでですね、クルエル。あなたに異世界転生者の皆さんを私たちの天界まで連れてきてもらいたいのです」
「え」
僕は顔を上げた。
それまでは、正直どうでもいいなーと思っていたが、自分が関わってくるとなると話は別だ。
「連れてくる? ここに?」
「ええ、その通りです。誰が異世界を作ったのかはわかりませんが、先日、幸運にも異世界へと繋がるゲートを作ることに成功しました。他のお仕事があるので私が直接出向くことはできません。クルエル、私の天使であるあなたならば、彼らを確実かつ安らかに天界までお連れすることができるかと思います」
えっと──それはつまり、
「転生者の奴らを全員ぶっ殺すってことですか?」
「ち、違います! 安楽死! 安らかに命を終えてもらってここまでお連れするの!」
慌てる女神様は可愛いなーと思いながら、僕は内心、めんどくさいなー、と思っていた。
だって転生者だってきっとまとまったところにはいないだろう。それを一人一人探し出していちいち殺さなくちゃいけないなんて、考えただけで疲れる。
「なんで僕なんですか? 手が空いている天使は他にも沢山いるでしょう?」
「ええ、実は他の子たちにも頼んでみたのですが、みんな『かわいそう』『その方々にも生きる権利はある』と言って、聞いてくれなかったのです」
「あー」
あいつら言いそうだなー。
どいつもこいつも良い子ちゃんばかりだもんなー。
「なので、クルエル、どうかあなたに異世界まで行って欲しいのです!」
うーん、と僕は考える。
殺す云々はぶっちゃけなんでもないことだけど、その異世界とやらに行っている間は、シャウロ様に会うことはできない。それは嫌だ。
断ろうかなー、と思っていると──
「お願い、クルエル。あなただけが頼りなの。帰ってきたら、いっぱいヨシヨシしてあげるから」
「行きます」
ガバァ! と立ち上がる。
大好きなシャウロ様からヨシヨシされるなら、たとえ火の中水の中!
羽いじってる場合じゃねぇ!
「ありがとう! じゃあ早速お願いするわね!」
すると女神様がまた雲を集めて、丸い輪っかを作り出す。
空中に穴が空いて、向こうの空間が見えた。
「これが異世界のゲートです。ここを潜ればすぐに異世界に行くことができます。それから──」
女神様が僕に近づいてくる。
僕の頬に両手を添えて、女神様の顔が目の前まで迫ってくる。
「えっ、あっ、シャウロ様、僕まだ新米天使だし、ちょっとそういうのはまだ早いっていうか──」
僕が目を瞑ると、女神様は僕のおでこに自分のおでこをくっつけた。
「はい、これでよし」
え? 何が?
全然「よし」じゃないんですけど?
チューは? え? いってらっしゃいのチューは?
「調べたところによると、転生者の方々は『チート能力』というすごい力を持っていることが多いそうです。なので万が一、安楽死にご納得いかない方がいらっしゃって、反撃されてしまってはあなたが危険です。なので、私の力を分け与えた道具を沢山渡しておきます。きっと、あなたを守ってくれるでしょう」
女神様には悪いが、アイテムなんて、どうでもいい。
期待して、なんだかすごく損をした気分だ。
「それでは、クルエル。気をつけて行ってらっしゃい」
「はあ……行ってきます。女神様」
仕方なく僕はゲートを潜った。
何はともあれ、帰ってきたらヨシヨシしてもらえることに代わりはない。
さっさと異世界とやらに行って、早いところ、その転生者って奴らを全員見つけ出して、そして──
「僕と女神様が一緒にいられる時間を奪ったことを後悔させてやらなきゃなー」
全員この手でぶち殺してやるんだ☆
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