柏餅って『柏』じゃない!
讃良の母も蘊蓄好きという話です
青葉を吹き抜ける風、清々しい薫風の中を今日も珍妙な歌声が聞こえている。
「こしあ~ん♪つぶあ~ん♪みそあ~んとぉ♪ぜ~んぶぅ食べた~い♪柏~もぉちぃ♪ 」
(漉し餡・粒餡・味噌餡と全部食べたい柏餅)
歌っている少女は黒崎讃良で……って、あれ?月見里千尋が見当たらない?
「今日は5月5日の子どもの日で学校はお休み、ちーちゃんは家族と旅行中だヨん」
……誰に説明しているのかな?
昨日から突っ込み不在だった讃良はちょっと元気が出なかったのだが、午前中に合気道のお稽古を済ませて祖母からお土産に柏餅を貰ったので、ご機嫌で帰宅した。
「ただいまー、お祖母ちゃんから柏餅貰ったよ」
「お帰りなさい、良かったわね。 手洗い嗽が済んだらお昼御飯にしましょう」
お昼御飯を食べ終わって、宿題と予習に取りかかった。
二時間集中して勉強を終えると、母がお茶を淹れてくれたので一緒に柏餅を食べる事にした。
「柏餅って葉っぱは食べられないんだよねー」
食いしん坊の讃良らしいなぁと思って母は笑ってしまった。
「讃良ってば相変わらず色気より食い気なのねぇ。 そう言えば、中・四国地方の山間部では柏餅の葉っぱが違うの知ってた?」
讃良は柏餅を三種類とも食べ終わってお茶を飲みながら答えた。
「うん、去年広島から転校してきた子が言ってたよ。 丸くて肉厚な葉っぱだって。 それと、味噌餡もないんだって!味噌餡美味しいのにねぇ」
「そうなのよ、カタラの葉でサルトリイバラの事なんだけど、『山帰来』とも呼ばれていて縁起が良いからカタラの葉で包んだお餅をお祝い事で食べていたの」
味噌餡がない事は知らなかったと母は笑顔で頷いた。
漉し餡の柏餅を食べ終え、お茶を飲みながら母は話を続けた。
「それでね、全国的に広まった時に関東地方にはサルトリイバラが少なかったの。 だから沢山採れた柏の葉っぱで代用されたのよ」
讃良は驚いて目を丸くしているが、更に母の話は続けられた。
「それにね、『かしわ餅』の葉っぱに使われているのは本当は柏じゃあないのよ。 槲の葉なのよね」
そう言いながら母は槲の漢字を紙に書いて見せた。
「本当の柏の葉はギザギザがなくってコノテカシワなのよね。 柏餅に使われているのは槲の葉なのよ」
――『柏』餅じゃあないじゃん!と思いながらも美味しければ何でも良いか、と讃良は思った
柏餅の葉っぱと味噌餡に驚いたのは私です!