背負うもの
『おめでとうございます!』
スマホに表示されているのは妹の親友にして、俺の後輩のつむつむからのメッセージ。
新人戦の登録メンバー発表後、つむつむに送ったメッセージの返事だ。
メッセージは2通。
お祝いのメッセージとよろこんでいるウサギのスタンプ。
簡素なメッセージだけどつむつむもよろこんでくれてることがわかる。
そして2通目
マリンブルーのユニフォームに《《少し大きい》》12の文字。
バレー部も今日メンバー発表だったんだな。うちの女子バレー部はホームが珍しいチェリーピンク、ビジターがマリンブルー。
リベロはその反対。
つむつむは希望通り、リベロとして選手登録されたみたいだ。
おめでとうとメッセージを送ろうとしたところにしょんぼりとしたウサギのスタンプが送られてきた。
「ニアミス、ですね」
そっか、つむつむはお揃いの番号が良かったんだな。
そして俺とお揃いの番号を背負うようになるのは……。
12番のユニフォームの写真を眺めてるところでまた、メッセージが送られてきた。
久しぶりに見た名前。
ブロックするの忘れてたなぁ。
不意にタップしてしまいメッセージを開いてしまった。
そこにはつむつむ同様、マリンブルーのユニフォーム。
違うのは……2と書かれた文字。
中学生の頃から恒例となっているメンバー発表後の報告メッセージだ。
送り主の名前は《《姫》》と表示されている。すぐに既読がついたことに気がついたのか、続けてメッセージが送られてきた。
『メンバー入りできた?』
これでメンバー落ちしてたら爆弾にしかならないメッセージだな。このまま既読スルーをしようとしたところ、また新規のメッセージがきた。
『新人戦が終わってからでいいから2人で話がしたいです』
いまさら?
何を話すことがあるのかという思いもあるが、いまだに俺の中にあるモヤモヤを取り去るいい機会かもしれない。
『ああ』
京極にはこの一言だけメッセージを返した。
♢♢♢♢♢
GWは練習に明け暮れた。
自分でも自覚できるくらいに浮かれており、休日に当てられた日にはフットサル場に行き個サルに参加した。
「練習のし過ぎはダメ、ですよ?」
恒例となった毎朝のつむつむとのランニングで珍しく注意されてしまう始末だ。
「あははは。まあ、個サルは気楽に———」
「できませんよ、ね? 『ボール追いかけると熱くなる』って、言ってましたよ、ね?」
「うっ、よく覚えてるな」
「先輩の言葉は、ちゃんと覚えてます」
ぷっくりと頬を膨らませ、かわいらしく不機嫌を装うつむつむ。こんな表情を見せられると静の言葉の信憑性が高まってしまう。
『つむつむ、男子と全くしゃべらないのに学年でもかわいいと評判だよ』
そりゃこの容姿のだからな。
控えめに言ってもかわいいとしか言いようがない。
本当はしっかりしてるのに、緊張からか話しかけられるとワタワタしてしまう。その様子がなんとも庇護欲をくすぐる。
それに直接しゃべらなくても、静たちと話しているのを見てればコロコロと変わる表情を見ることができるだろうからな。
女の子に免疫のないやつらなんかは一発で射抜かれてしまうだろうな。
「せ、先輩。その、私は先輩の話してくれたことは覚えていますけど、先輩は私の話を覚えてくれています、か?」
上目遣いで恐る恐る聞いてくるつむつむ。
「ん? ちゃんと覚えてるつもりだけど、……ひょっとしてメンバー入りのお祝いのこと?」
そんな前の話じゃないし、期待に溢れるつむつむの表情は印象深かったからな。
「は、はい! デートして、もらえますか?」
「ん。もちろん。でも、とりあえずは大会に集中したいから大会が終わってからな。どこか行きたいところはある?」
「えっと、先輩と一緒なら、どこでもうれしい、です」
うれしそうに呟くつむつむを見ると、思わず抱きしめたくなってしまう。
「近所の公園でも?」
「はい! それでもいいです、よ?」
躊躇いなく返事をされてしまい面食らってしまった。
「さすがに冗談だぞ? そうだな、つむつむとの初デートだし、相談しながら決めるか?」
「はい!」
男らしくと言うか、俺に着いてこい! みたいにしてもいいのだけど、どこかの喫茶店でコーヒーでも飲みながら、一緒に決めるのもいいだろう。
まあ、結果的には俺が決めることになりそうなんだけど、一緒にいることがうれしいと言ってくれるつむつむにとっては『特別』な時間に思ってもらえるのだろう。
『せ、静ちゃん! 先輩と、デートしてもらえることに、なったの!』
「あ〜、うん。おめでとう」
『だから、ね? 一緒に服選んでもらえないかな?』
「勝負下着? さすがにその辺の好みは知らないよ?」
『ち、ちがうもん! 普通の服だもん!』




