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怪物少女

 動揺が僕の思考を絡めとる。

 偽物だ。そう直感でわかっているのに、感情がそれを否定する。

 本物であってくれたなら。

 でも、彼女が他の仲間を捨てて一人だけ生き残る人間ではないことも確信できる。

 支離滅裂な思考が脳内を膨らまして、どうしていいのか解らない僕を放り捨てて事態は進行していく。


「あ、お前は魔物だな。それも強力なヤツだ」


 ナフロイは獣のような笑みを浮かべると、問答無用で鉄槌を振り回した。

 今まで、大抵の敵は一振りで仕留めていたのだけど、今回は一息に七回も鉄槌を叩きつける。

 轟音が鳴り響いたが、彼女は素早く避けていた。

 

「ほら、これで間違いない。お前みたいな女が俺の攻撃をかわせるはずがねえんだよ。だから、お前は魔物だ」


 楽しそうに言うナフロイの陰からブラントが飛び出すと、閃光のような突きを放つ。

 

「おおっとっと」


 女はおどけた様な言動をとりながらヒラヒラと攻撃をよけ続ける。

 

「間違いないね。そして、多分こいつが件の吸血鬼だよ」


 二人は冒険者としての勘か、その女が異変の元凶であると決めつけて動き出している。

 ここは迷宮なのだ。怪しい奴は先に殺して、あとから考えるのが正しいのかもしれない。

 二人に引きずられるように、僕以外のメンバーはそれぞれ動き出した。

 小雨が一息に四個の石を投げつけたものの、これも当たらない。

 だけどそれはノラの一撃への布石として機能し、女が体勢を崩したところにノラの一撃が振り下ろされた。

 脳天を両断する寸前、女は信じられない速度で方向転換して刃を避けた。

 彼女にとって誤算だったのは、ノラもまた信じられない動きをすることだった。

 一撃必殺の勢いを利用したノラはそのまま大きく踏み込んで刀を横に薙ぐ。

 女は右腕を差し出して、それを切らせることで間一髪攻撃を避けた。

 

『雷光矢!』


 ウル師匠は僕の知らない魔法を唱えた。

 その指から紫がかった光の玉が飛び出し、女の左肩を弾きとばす。

 一瞬遅れて、ちぎれた左右の手が地面に落ちた。


「痛いわね、何するのよ!」


 女が場違いな気安さで抗議の声を上げる。

 両腕を失ったことについてもその程度の感想であるらしかった。

 いつの間にか女は随分と後ろに後退していた。

 それを追撃しようと前衛の三人が前に向かって飛ぶ。

 その瞬間、女の姿は掻き消え、同時に僕の眼前に現れていた。


「あなた、さっき私のことを変な名前で呼ばなかった?」


 そう言って女は僕の頬を撫でる。

 彼女は得体がしれない。

 ナフロイやブラントの攻撃を軽々とかわす異常な身のこなしも、失ったはずの腕が一瞬で再生したことも、瞬間的な移動も。

 それでも僕は彼女の問いに応えずにはいれない。


「テリオフレフ……」


「なにその変な名前。私には偉大なる父、バイロンにつけられた一号っていう名前があるのよ」


 小雨が死角から振りぬいた短刀の一撃は、一号と名乗る怪人にあっさりとかわされた。

 

『雷光矢!』


 ウル師匠の魔法は避けきれなかったようで、胸に大穴が開いたものの一号は平然としている。

 

「これじゃお話も出来ないわね」


 微笑むように言うと、一号は僕の服の襟を掴んだ。

 

「ちょっと一緒に来て」


 瞬間、視界が歪んだ。次いで思考も歪み、意識も歪む。



 気づいた時には、僕は床に転がされていた。


「あ、気づいた。やあ、死んじゃったかと思ったよ。なにせ移動に他の生き物を巻き込んだのが初めてだったし。手足も欠けなくてよかったね」


 一号は無邪気に笑う。

 上体を起こすと頭がクラクラする。彼女の外見が魅力的だからというわけではない。先ほどの移動に伴う症状だろう。

 

「ここはどこですか?」


 僕は座ったまま、できるだけ丁寧に尋ねた。

 あれだけ頼もしい仲間たちは見える範囲に一人もいない。

 僕はたった一人でとらえられてしまったらしい。

 

「ここは私の別邸。地下十五階ね」


 一号は事も無げに言う。

 なるほど、先ほどからの酩酊感は濃密すぎる魔力に僕は酔っているのかもしれない。

 なんだか帰れない深さまで来てしまったと知ると逆に心が落ち着いてきた。


 僕たちがいるのは迷宮内の小部屋らしい。

 壁や床を見るに、人工的に削られてできた部屋で、室内にはテーブルとイスなどの簡素な調度品がしつらえてあった。

 一号も、そうしたイスの一つに腰かけていた。

 そう言えば、ウル師匠に開けられた胸の穴はやはり消滅している。

 

「あなたお名前は?」


 問われたので、僕が名乗ると彼女は笑った。

 

「変な名前ね」


 一号に言われた筋合いはないぞ、なんて思いはしたけど当然口には出せない。


「ああ、心配しなくてもいいわよ。お話が済んだら元の場所に返してあげるから。それからあの強い仲間たちと一緒に全員を奴隷にしてあげる」


「あ、僕はすでに奴隷なんですよ」


 僕は何となく軽口を叩いた。

 今すぐ殺さない、といった直後だから大丈夫かも、といった程度の目論見で彼女をからかったのだけど果たして彼女は僕を殺さなかった。


「なによそれ。私が奴隷にするって言うのに他に主人を持っているわけ?」


 彼女は不服そうに足をパタパタと動かした。

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