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 入れ換えながら戦闘を繰り返して二人ともどうにか亜人系の魔物にも昆虫系の魔物にも止めを刺す事ができた。

 そして、後ろから見続けて思ったのだけど、ひょっとするとベリコガよりもチャギの方が強いのではないだろうか。

 シグやギーに比べれば二人ともドングリの背比べなのだけど、固太りのチャギの方がベリコガよりも膂力に優れている。

 はじめは空回っていた立ち振舞いも、シグを手本にすることでどうにか魔物と向き合えるようになってきた。

 今も、骸骨戦士を長剣一撃で吹き散らした。

 対してベリコガは妙な剣術を捨てきれず、魔物に対して効率の悪い戦い方をしている。

 

「ねえ、ベリコガさんとチャギさんの武器はあれであってるのかな」


 休憩中、僕はこっそりとシグに相談してみた。

 毎回、ぐったり疲労している二人に比べればシグはほとんど消耗していない。

 

「そうだな。習った武術にもよるが、結局力が強ければある程度の武器が使えるはずだ」


「じゃあ、あの二人は?」


「チャギは使えていると思うが、ベリコガはイマイチだな。もう少し軽い武器の方がいいかもしれん」


 なるほど。シグが言うならそうなのだろう。


「ただ、戦い方を見るとチャギも重たい武器に持ち変えた方がいいかもしれないな」


 二人は自分の事を話されているとも知らず、重なる戦闘による疲労で座り込んでいた。

 武器については、専門外なのであまり知らないのだけど、軽い武器は安定したダメージを与え、重い武器は当てづらいものの、うまく当たれば高い威力を示すのだと言う。

 技巧派であろうとするベリコガにとっては長剣が重すぎ、全力で振り回すように戦うチャギにとっては軽すぎるのだ。

 シグの見立てで、二人に適した武器は長剣よりやや短めの剣と戦槌であることがわかった。

 だからといって、僕が進言したって誇り高き北方戦士たちが言うことを聞くとも思えないので、帰還したあとにシグから伝えてもらうことにした。


 ❇


 ストーンクラブに正面から打ち込んだベリコガは、当然のように剣を弾かれ、捕まった。

 巨大なハサミに捕獲された足首はメキメキと音をたて、ゆっくりと切断されていく。

 ベリコガは声にならない声で絶叫した。

 ギーは素早く動くと、ベリコガをつかんでいるストーンクラブの側面に回り込み、甲羅の隙間に槍を差し込む。

 ストーンクラブは痙攣し、そのまま絶命した。

 足首が半分切断されたベリコガは足を押さえて転がり回った。


『傷よ癒えよ』


 ステアの回復魔法ですぐに治癒するのだけど、強烈な激痛を体験してか、動きが鈍い。

 悪夢を見たような顔で、脂汗をびっしょりとかいている。

 シグの一撃はストーンクラブの固い外皮を貫く。

 最後の一体には僕が放った火炎球が命中し、無事に倒した。

 

「そろそろ帰るか」


 シグが皆を見回して言った。

 確かに戦闘も十分に繰り返して、二人とも動きが馴染んできた。

 一度帰って寝た方がいい。


「もう少し頼む」


 ベリコガが絞り出すような声で答えた。 

 よほど思い詰めているのだろう。


「ダメだ。帰還する」


 シグが堂々と帰還を指示し、結局はベリコガも折れた。

 僕らは休憩を終えると出口に向けて移動した。

 

 いくつかの角を曲がったところで、それを見つけた。

 

「人だ!」


 ベリコガに替わって前衛に上がっていたチャギが悲鳴を挙げる。

 今さら人間の死体を見て悲鳴を上げるな。

 シグの目がいまいましげにチャギを睨み付けていた。

 ギーとシグは油断なく前方を警戒し、僕とステアはいつでも魔法を唱えられるように身構える。

 死体は六つ。いずれも一刀で斬殺されていた。

 転がる首の一つと目があった。僕の知っている顔だ。

 一度、指導員を勤めたことがあるフィーコだった。

 よく見ると他の死体もそのときに指導した連中で、僕に代わって入った魔法使いは地下五階まで潜るようなパーティの構成員だった。

 それがなぜ、こんなところで息絶えているのか。

 前衛の戦士の中には恐らく斬撃を防ごうとした剣ごと真っ二つにされている者もいる。

 通常、地下一階にこんなことができる魔物は生息していない。

 帰還途中の上級冒険者が何らかの理由で混乱をしていたか、あるいは人獅子のように強力な魔物が深層から上がってきたのか。

 いずれにせよ血の乾き具合から見て、彼らが死んでからしばらく立っている事がわかる。

 僕らは警戒を解かず、迷宮の出口へと移動した。



 迷宮を出ると、衛士がいつも通りの顔をして立っていた。

 少なくとも、異常をきたした冒険者や魔物が飛び出したわけでは無さそうだ。

 

「じゃあベリコガさんとチャギさん、詰め所に報告に行きますから着いてきてください」


 二人はひどく疲れて眠そうだったものの、前回とは違い素直に着いてきてくれた。

 

 いつもの女性事務員は、定例的な報告の後に報告した見習い隊と指導員の全滅を聞いて頭を抱えていた。

 

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