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陰謀者論


「変わった人たちでしたね」


 少し歩いて、ステアが申し訳なさそうに口を開いた。


「本当にね」


 僕が答えると、ステアはごめんなさい、と謝った。

 そうじゃない。僕は別にステアに謝罪を求めた訳じゃない。


「なんであの人たちが派遣されたのか、気になったんだよ」


 僕の疑問にステアが首を捻る。

 

「技量抜群の名誉を持つ部下を領主が欲したと聞いていますが……」


「北方について知らないからよくわからないんだけど、あの三人が標準より優れた戦士なのかな」


 その言葉にステアが笑った。


「そう。そんな訳がないんだ。あんなのが普通なら、領土の維持もままならないだろうし」


「ええ。私も物心ついた頃から修道院に入っていたのであまり世間を知っている訳ではないのですけど、他国との国境を抱えていましたから、ある程度の戦力があったと思います」

 

 にもかかわらず、役立たずのボンクラを三人派遣してきた。それなりの金を使ってまで。

 緊迫して、他の戦士団員の手がとれないのだとしたら、そもそも派遣自体をしないだろう。


「多分、なにかあるんだと思うよ」


「なにかってなんですか?」


 推測を堂々と披露するのも恥ずかしいのだけど、いくつか思い付く筋を並べてみる。


「まずは、あの三人のトラブルに乗じて都市に何かの窓口を置くことかな」


「窓口、ですか?」


 都市には領主が君臨しており、領主府が行政機能を請け負っているのだけど、その支配地域内に他の領主府が出先機能を置くには協議と手続きが必要だろう。そこであの三人組が問題を起こせば彼らの救援を錦の御幡に、強引に乗り込んでくるかもしれない。その上で、事務所を構えて基地にし、工作を展開することは考えられる。


「他に、彼らを囮にして都市の監視の目を集めている間に別動班が目的を果たすとか」


 戦力と経済力において国内随一の規模を誇る都市からなにかの利権を自分に誘導するには、有力者を脅迫するなり買収するなりの手段があるけど、それだって重要な人物には護衛も監視もついている。派手なバカが情けなくのたうち回ればその対策や監視に人手が割かれてどこかに隙ができるかもしれない。


「でもやっぱり本命は、彼らを追放したかったのかな」


 例えば、彼らの内の誰かが巨大な財産を握っていたりすれば、遠くに追いやっているあいだにそれを奪うとか。


「あとはもっと過激に、彼らの内の誰かを亡きものにしたいとか」


 三文芝居でもないのだけど、誰かに門閥の継承権があり、後継者争いの一環で追いやられたとか。身内の暗殺だと外聞が悪いけど、悪意の迷宮での戦死ということにすれば聞こえも悪くない。この場合、遠隔地で死にさえすればあとはどうとでも話を合わせられる。


「よくそんなに考え付きますね」


 ステアが感心したように言う。


「僕は人より体が弱いからね。頭くらいは回さないとやっていけないよ」


 なんだか立派な物言いだけど、実際は他人の顔色をうかがったり不興を買わないよう立ち回ったりする姑息な人間だ。

 でも、お陰で生きている。故郷でもここでも自分より先に死ぬ人が大勢いたので間違ってはいないのかもしれない。

 いまさら、生き方を変えるなんて怖くてできない。


「正直にいえば、あの人たちがどんな目にあっても構わないんだけど、僕たちに余波が来るのは避けたいんだ」


 もし、彼らの暗殺を誰かが企んでいるとすれば、僕たち指導員を買収するのが一番早く確実で、その上に迷宮のなかでコトが行われれば、疑われることすらない。


「だからステア、約束してほしいんだけど、もし誰かにそんなようなことを依頼されたら、すぐに返事をしないで僕に教えてよ」


 他人の陰謀には関わらないのが一番いい。僕なら目標を消したあとに、関わった者も消す。情報を漏らさないためにはそちらの方が確実だし、支払いの約束も無かったことにできるからだ。

 ただし、この手の厄介事は向こうから持ちかけられた時点で内情を知ったとみなされ、断っても狙われることもあるだろう。

 だから、とにかく悩むふりをして時間を稼ぎつつ、反撃の準備をしなければいけない。

 そして、なぜこれをステアに話すのかというと、彼女が一番狙われるだろうからだ。

 指導員三人のなかで、リザードマンのギーは論外だ。大抵の人間はリザードマンを忌避する。南方が生息域のリザードマンに、北方の人間が近づく可能性は特に低い。

 そうなると僕かステアなのだけど、武装をしていなくても戦闘力がある魔法使いよりは、攻撃手段に乏しい僧侶を狙うだろう。

 しかも、ステアは地元が彼らの勢力圏なので、身内をネタに脅されやすい。

 また、彼女が女と言うだけでおぞましい手法がいくらでも使えるのだ。

 口には出さないのだけど、実のところステアを人質に取られるのが、僕は一番恐ろしかった。

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