厄介者達
秘伝の剣術が云々、戦場での覚悟と名誉がどうとかこうとか。
彼らは確かに、迷宮に入る前に大言壮語を吐いていた。
まさかそのご立派な剣士様達が三人も並んで二体の骸骨戦士ごときに後れを取るとは思わなかった。
骸骨戦士なんて名前で呼ぶと仰々しいけど、その実態はコボルトやゴブリンみたいな小亜人系魔物の白骨死体に雑霊が取り憑いたものに過ぎない。
微かな魔力でどうにか駆動しているので、少し攻撃を受ければ雑霊が逃げ去ってただの死体に戻ってしまう。力のある僧侶なら、祈り一つで雑霊を消滅させる事も出来る。
およそ迷宮にあって最弱の座を争い続けるそんな魔物である。
冒険者にとって、最初に遭遇するのが骸骨戦士なら幸先がいい。そう言われている。
でも、彼らは知らないのだ。迷宮の基本的な事柄を説明する座学を受講していないので。
骸骨戦士を見つけては腰を抜かし、骸骨戦士が短剣を振りかざせば悲鳴を上げて身をすくめる。
せめて逃げればいいのに、殺して欲しいとばかりに固まっているのは僕たちへの当てつけなのだろうか。確かに、たった二体の骸骨戦士相手に死者を出してしまえば、間抜け以外の評価を今後付けられないだろう。
『消えなさい』
僕の魔法に先んじてステアが宣言をした。
神の御威光を言葉に乗せて放つだけで、魔法でもない。ただ単に神に祈り念じるだけで骸骨戦士は二体とも崩れて落ちる。
剣士達は目を閉じて震えていたものだから、危機が去ったことを悟るまでたっぷり時間を要した。
やがて、目を開けるとバツが悪そうに立ち上がって尻などに着いた泥を払う。三人とも同じタイミングで。
彼らの所属する戦士団では照れ隠しにも形式が定められているのかと思うほど、みごとに一致した動きで、最後は咳払いも三つが重なる。
踊り子か喜劇役者なら向いているんじゃなかろうか。
あまりの滑稽さに、さっきまで強烈に抱いていたはずの殺意が消えつつある。
なんだこいつらは。
少なくとも、僕が普段見かける冒険者にはこんな人間はいない。しいて言うのなら僕のご主人が少し似ているかも知れない。
「骸骨戦士くらいにひるムナ」
ギーの表情はいつも通りだけど、内心は落胆で一杯なのかもしれない。
彼らは自分で鳴り物を鳴らしながらやって来た。人間性は最低でも喧伝する能力の半分でも実際に備わっているのなら、短期間で卒業が出来たかもしれない。
実際、都市に集まりつつある腕自慢達は元々の技術を頼みに、早い者で五日、遅くても一月で技術十分の認定を受けるのだという。
だけどこいつらはダメだ。
素直に学科を受講して、と言うよりも戦いの場に出ることさえ止めた方がいい。
短期間で彼らを卒業させて金貨を受け取れば割がいいと思っていた自分の見積の甘さを恨みたくなる。
半月で全員が卒業すれば金貨六十枚だけど、誰も前倒し卒業が出来なければ二ヶ月かけて報酬は金貨四十五枚。さらに一人殺せば十枚減って三十五枚。それを三人で割るのなら僕は借金の利息さえ捻出できない。
「いや、俺たちの剣術は秘伝で、あんまり人前では振るえないって言うか……」
トーウェが精一杯の強がりを言う。
骸骨戦士ぐらいに秘伝の剣術は要らない。武器を強く打ち当てればそれでいいし、それで敵を倒せなければ前衛は勤まらない。
「あの、つかぬ事を聞きますけど、その剣術で敵と戦ったことはあるんですか?」
僕の問いにベリコガが手を挙げた。
「盗賊退治でぶった斬ってやったさ」
胸を張って言うのだけど、どうも怪しい。山野に潜む盗賊の全部が骸骨戦士より強いとは思わないけど、貴族が配下の戦士を動員してまで討伐したい山賊はそれなりに手練れだろう。
「それは武器を持った相手と向かい合って斬ったんですか?」
その問いには答えず、ベリコガは横を向いた。
その態度から察するに、武器を持っていない盗賊を切ったか、女子供の非戦闘員を切ったか。それならばまだいいのだけど、もしかして彼は生き物を切ったことがないのではないだろうか。
後ろの後輩二名に大ボラを吹いていて、今更正直に言えないと言うのが最悪の状況である。
「そちらのお二人は?」
「自分は人を斬ったことはないっす」
チャギが答えた。先ほど燃やしたのが効いたのか、ずいぶん腰が低くなっている。
トーウェは黙ったままだけど、似た様なものだろう。
と言う事は、三人とも戦闘自体が初めてなのだ。だから異常に怯える。もしかすると横柄な態度や飲酒も恐怖を誤魔化す為だったのだろうか。
「失礼ですけど、剣術の方は本当にやっていたんですよね」
ここが嘘だと何もかもが崩れる。逆に、剣術の腕は本当に立つのであれば、経験次第で戦闘をこなせるようになるだろう。
「馬鹿にするもんじゃないっすよ。伝統あるノクトー剣術のベリコガさんは総帥、トーウェさんは師範、そして自分は主席門下生っす」
「他に門下生は?」
「それはいないっすけど」
僕とチャギのやりとりを聞いて、ステアも顔を押さえている。
ただ鬱陶しい三人組が体よく所払いされて来ただけのような気さえしてきた。




