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少年、暗殺者より妹を預かる


 僕たちの帰路は、地下五階への階段を守っていた八人の内、戦士二人と魔法使い二人が護衛してくれることになった。

 暗殺者と僧侶は元から教団員であるので、他の信徒たちと行く末をともにするそうだ。

 ちなみに、シグは教団が運び込んだ荷物の中から好きなものをくれると言われて剣を選んでいるし、ガルダもめぼしいものがないかと物資の山を漁っている。

 女性陣は連れていく子供たちの為に名簿を作ったり、服を集めていたりと忙しそうだ。

 

 その他、用心棒達は並んで最後の給金を受け取っている。


「あなたたちにも幾らかお支払いできたらよかったんだけど」


 テリオフレフは困ったように笑った。

 僕と彼女はホールの隅っこであわただしい準備を見ながら、ドラゴンであるリフィックの尻尾に座っていた。ごつごつしていて、座り心地は欠片もよくないものの、ドラゴンに座る経験は得難いものだから、とテリオフレフに誘われたのだ。


「お金はいいよ。……欲しいけど」


「ふふ、どっちよ」


 テリオフレフが笑う。

 子供たちのことを考えても、金はあった方がいい。でも、今の僕はそんなことよりも大事なことがあった。


「……ねえ、本当に一緒には行けないの?」


 僕は未練がましい。こんな質問をしても彼女を困らせるだけだとわかっているのに聞かずにはいられない。


「それは無理よ」


 にべもなく彼女は答える。


「私が教団に生まれて無ければ、そういう考えもあったんでしょうけど。ねえ、こんな場所じゃなくてどこか別の場所で会えていたらもっと楽しかったのかな?」


「そうしたら、僕なんて相手にされていないよ」


「それもそうね」


 言って彼女は笑った。僕は少しだけ泣いた。



 いよいよ出発になり、一行はホールの出口付近で隊列を整えた。

 もはや冒険者パーティというよりも砂漠を進む隊商の様相で三十名近くが連なって歩く。真ん中に子供たちが配置され、周囲を僕たちと地上に戻る用心棒達で囲むことになる。

 腕利きは混じっているものの、スムーズな戦闘はとてもできない。腹を空かした魔物に出会わないことを祈るだけだ。


「じゃあね、気を付けてください」


 見送りはテリオフレフとリフィックを含めて、ごく一部の者だけだった

 子供たちの親は、子供が戻ってくるのが怖くて顔を見せられないのかもしれない。


 テリオフレフは子供たちと、用心棒達に言葉を送りながら握手を交わしていく。

 シグやガルダやルガムや、ギーの手まで取って子供達を頼むと念を押した。

 そして、ステア。


「お気を付けくださいね、神に仕えるお嬢さん。『恵みの果実教会』がなくなれば次に王国が目をつけるのは『荒野の家教会』でしょうから」


 瞬間、ステアはテリオフレフのビンタを張った。パン、と乾いた音がしてあたりが静まる。


「神聖なる主に仕える私たちを、邪悪な魔神に仕える邪教徒なんかと一緒にしないでください。不愉快です」


「……まあ、いいでしょう。『荒野の家教会』から投げつけられた石の中では小さな物です。受け取っておきます」


 唸り声をあげて威嚇するリフィックをテリオフレフは手で抑える。


 テリオフレフはそのまま横に歩いて、僕の前に立った。

 一行の中では僕が最後のはずだ。

 と、彼女は手を広げて僕を抱きしめた。彼女の甘い匂いが鼻腔に広がる。


「本当は死にたくないの。着いていきたい」


 耳元で囁かれた、僕にだけ聞こえる小さな声。

 しばらく抱きしめた後、彼女の手は僕の頭を両側から抱え込み、僕の唇に自分の唇を重ねた。

 視界の隅にルガムが見えたけど、彼女は突然の成り行きにどうしていいのかわからず、口を開けて立っている。

 たっぷり一呼吸、合わせた口を放すと、互いに目を見つめる。


「私は邪教徒ですから、あなたに一生消えない呪いを掛けました。あなたは私のことをずっと忘れられないでしょう」


 いたずらっぽく笑って、再度口づけ。

 ここに至ってようやく正気を取り戻したルガムが間に入った。


「なんだっていうんだよ、どいつもこいつも!」


 ルガムは怒鳴ってシグに出発を急かす。

 その間に、テリオフレフはいつもの表情に戻って元の位置まで下がっている。

 テリオフレフの態度を見ていると先ほど囁いた言葉が嘘であるか、僕の聞き間違いのように思える。


「待て。待ってくれよ!」


 顔を布で隠した暗殺者が走り寄ってきた。

 聞き覚えのある声。このホールの入り口を守っていた暗殺者だった。


「妹を探しに来たんだろ。連れて行けよ」


 暗殺者の後ろには、彼に腕を引かれた十歳くらいの少女が立っていた。

 

「その子は僕の妹じゃ……」


 僕の否定にも構わず、暗殺者は少女をこちらに押しやった。


「ちょ……お兄ちゃん、やめてよ。私も残るって!」


 少女は暗殺者に向かって抗議をするのだけど、彼は構わずその腕を僕に掴ませた。


「誰がお兄ちゃんだ。お前の兄貴はそのなまっちろい兄ちゃんだろ?」


 泣きわめきながら暗殺者の元に戻ろうとする少女の腕を僕は離さなかった。

 半狂乱になった少女が叩いたり、引っかいたりしたけど、絶対に離さなかった。


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暗殺者いいひと・・・
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