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少年、野獣と戦い仲間を思いやる


 万が一、見逃した邪教徒達が仲間を呼んで戻ってくるとまずいので僕たちは急いで地下四階への階段を降りた。

 

 初めて降りる階段だ。いや、そんな事をいうのなら、地下三階への階段だって今回降りたのが初めてだった。

 地下二階くらいで迷宮順化を進めるべき僕たちは、ついに場違いの地下四階にたどり着いてしまった。


 周囲に誰もいないのを確認して、階段から離れる。基本的に邪教徒達は階段の上だけを守って下には誰も配備していない。

 人手不足なのだろうか。仲間割れも見たし、魔物に喰われているのも見た。僕たちもいくらか殺した。全体でどれくらいの人数がいるのかはわからないけど、ノラが完全に入り口を塞いでいればそのうち、組織的な行動を取れなくなるだろう。

 とはいえ、悠長に待ってもいられない。地下五階以下で右往左往する冒険者達が帰還できなければ結局僕たちの任務は失敗になるのだ。


 地下四階とはいえ、空気は上と変わらない。もしかしたら違うのかも知れないけど、僕にはその違いをかぎ分けられなかった。

 それでも、確実に地下三階よりも強い魔物が生息している。

 上で苦戦したような犬でさえ、生存競争圧が強くて地下四階には降りられないのだ。

 戦闘は極力避けなければ、あっさり全滅してしまう。


 なんて思っていると、すぐに魔物に遭遇した。

 シグと同じような体格の巨獣が四頭、いずれも深手を負って血まみれだった。

 その後ろに、なにかヒョコヒョコした小さいのが……。


「熊と首斬りウサギです!」


 判定に成功したステアが言った。

 首斬りウサギ。高く飛んだヘイモスの頭部が脳裏に浮かび、脂汗が噴き出した。

 避けられる戦闘なら避けたいが、魔物達は満身創痍で、総身に敵意を満たしている。

 魔物達が負っているのは刀傷なので、おそらく邪教徒の用心棒にでも追い散らされたのだろう。

 いくら邪教徒の目から見たら魔物も僕たちも変わりが無いとはいえ、その理屈が目の前の魔物達に通じるわけもなく、自分に傷を負わせた者と同種の生物としか判断しないだろう。


 敵も味方も正面から向き合い戦闘が始まった。

 

『眠れ!』


 戦闘の開始を宣言するように、僕の魔法は七匹いた後続のウサギたちを全て眠らせた。

 四頭の熊はどれも深手を負っているので、危険なのは多数のウサギに思えたのだけど、この判断は間違いだったかもしない。


 ドン、という重たい音を残してギーが吹っ飛んだ。

 熊の攻撃を受けた左腕が肩ごと押しつぶされている。初めて対面するような圧倒的な膂力。

 ギーはすぐさま自分で回復魔法を唱えたのだけど、全快にはほど遠い。


『治れ!』


 ステアの魔法によって、腕が復元したギーはようやく戦列に復帰した。


 結局、攻撃の重さには驚いたものの、既に瀕死だった熊たちは程なく倒れた。

 まだ眠っている首斬りウサギを一匹ずつ片付けて、地下四階最初の戦闘は終了した。


 *


 戦闘終了後の休憩時間、血にまみれた戦士達は座り込んで肩で息をしている。

 ルガムでさえへばっているので、今回の戦闘は相当つらかったのだろう。


「ギー、大丈夫?」


 座って荒い息をするギーに僕は歩み寄った。

 ギーは相変わらず無表情な目で僕を見返したけど、全体的な雰囲気に含まれる疲労はさすがに伝わった。

 ギーはなにかを言おうとするのだけど、声が出ないのかしばらく口をパクパクとやってから軽く咳払いをした。


「あちこち痛いが動ケル。腕も動クゾ」


 左手を開いたり閉じたりして、動かせて見せるのだけど、彼女の右腕がさりげなく胸を押さえているのが気になった。


「もしかして、胸が痛いの?」


 再び、口をパクパク動かすギー。これは声が出ないのではなくて、なんと答えるべきか迷っているのだろう。


「痛いのなら、回復魔法をもう一回受けておこうよ」


 そう言った僕に、ギーは首を振って答えた。


「ギーはもう魔法を使い切ったノダ」


 だから遠慮をする、というつもりらしい。だけど、そんな我慢を許すわけにはいかない。


「じゃあ、ステアに頼もう」


 近くで話を聞いていたステアも頷く。

 

「ギーはまだ動けルゾ。この先になにがあるかわからないのだカラ回復魔法は温存した方がいいのじゃなイカ?」


 そういう考え方もあるのだろうけど、万全に動けずに危険を呼び込む可能性と天秤に掛ければ、結局はその時の状況次第だ。


「ステア、回復魔法を頼むよ」


 ステアは頷いて、ギーに魔法を掛けた。


「いいノカ?」

 

 ギーは戸惑っているけど、なにが起こるかわからないからこそ万全にしておくべきなのだ。ダメージを負った状態で先ほどのような強烈な一撃を受けた場合、ギーはそのまま死んでしまう可能性がある。そうなると、穴を埋めるために後衛が前に出なければいけない。

 だとすれば遅かれ早かれ僕も死んでしまう。と、いうわけで僕の都合で彼女には死なれると困るのだ。

 というようなことをそのまま説明すると、ギーはキャーキャーと笑った。


「おまえのおかげで夜は暖かいかラナ。おまえのためにも、ギーは死なないように気を付けヨウ」


 シグが止めないので、多分僕の判断は間違っていないのだろう

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