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少年、邪教徒に紛する


「あの、ガルダさん。僕あんまり戦ったりとかは……」


 我ながら情けない申し出だな、と思いながらガルダに告げる。


「馬鹿野郎、誰が先輩にそんなこと頼んだよ。何食わぬ顔して近づいていって、あいつらの注意を引くか、できなゃ眠らせてくれればいいんだよ」


 なるほど。確かに僕は邪教徒の服を着ているし、彼らがおそろいで持っている鉄の杖も持っている。


「だったらアタシが行くよ。不意を打ってアイツらをのしたらいいんだろ」


 ルガムが声をあげた。確かに、ルガムならバレて乱戦になっても邪教徒の杖で十分に戦える。服も、多少は寸が合わないかも知れないけど着られないこともないだろう。

 しかし、ガルダは首を横に振って否定した。


「ルガムのお姉ちゃん、あんた自分の体格をわかってる? そんなにゴツい女はなかなかいない。体格のいい人間というのは記憶に残りやすい。にも関わらず見覚えが無いあんたが行けばあいつらは警戒するだろう。叫び声さえ上げさせたらいけないんだぜ」


 シグがなにか言おうとしたのをガルダは手で制す。


「同様の理由でシガーフルも没。トカゲの旦那は論外。ステアのお嬢ちゃんも見た目が良すぎるのでダメ。そこ行くと先輩は小柄で貧弱、生っ白くて不健康そうな、それでいて印象の薄い顔。完璧だ。邪教徒になるために生まれた様な外見じゃないか」


 ひどい言われようだけど、確かにそうかも知れない。そうか、僕の外見は怪人向きだったのか。


「じゃあ、あんたでもいいじゃないの」


 ルガムがガルダを指さす。確かに、僕よりもガルダの方が腕力も身のこなしも上だ。適任と言えばそうかも知れない。口も立つので注意を引きつけて貰っている間に他のメンバーで近づくことも可能だろう。


「それはダメ。万が一でも俺が死んだら作戦が失敗する」


 ということは、僕が死んでも作戦に支障が無いと判断したのだろう。

 まあ、確かに今回の迷宮行は実質的にガルダが指揮を執っている。リーダーのシグもそれは認めているようで不満そうだけど口を挟まない。いま、このタイミングでガルダに死なれると作戦は上手くいかないだろう。


「先輩なら大丈夫さ、仲間の振りして歩いて行けばバレないって」

 

 ガルダが肩を組んできて頼もしく言う。

 この男にそう言われると、上手くいきそうな気がして困る。



「止まれ」


 松明に照らされた範囲に入ると、邪教徒達に止められた。

 男が四人、女が二人。明かりに照らされた顔は、普通の中年のそれで、とてもこんな迷宮に潜るようには見えない。

 緊張した面持ちで鉄の杖を各人が握りしめているのは、恐怖心の現れだろう。恐いのはお互い様だ。


「なぜ一人で歩いている。他の班員はどうした?」


 班のリーダーらしい中年男が一歩前に出て僕の行く手を塞ぐ。


「お腹が痛くて、用を足していたらはぐれちゃいました。探したんですけど、見つからなくて、階段のとこに来れば誰かいるかなって」


 僕は情けなく腹を押さえてみせる。


「あら、それは大変だったわね。恐かったでしょう」


 中年女が心配そうに話しかけてきた。

 豊かな暮らしの中で育った、人の良さそうな女だった。きっと、邪教を信仰していなければ普通の市民だったのかも知れない。

 他の連中も善良そうな顔をしている。こんなところに来てさえいなければ、誰もが平凡な人生が送れたのだろうけど。


「あれ、何かいますよ」


 僕は、自分が歩いて来た方と逆の方向に向かって指を差した。


「魔物か?」


 一同に緊張が走る。

 闇に向かって目をこらす六人の内、何人が僕にダマされたと気づいただろう。

 密かに近づいてきた仲間達の攻撃によって、邪教徒達は一瞬で打ち倒された。

 後ろから心臓を刺され、目を見開いたまま倒れている中年女の表情は、自分が死んだことさえ気づいていないようで、僕は少しだけ救われた気がした。自己満足でしかないのはわかっているけど。


「やるじゃねえか先輩、魔法も使わずに動きを止めるとは。悪党の資質があるぜ」


 何一つ嬉しくないガルダの褒め言葉を聞き流しながら、僕は痛くなるほど手を握りしめていた。迷宮の中の全てに対しては絶対に謝らないと決めていた。



 地下三階に降りて、すぐに僕たちは邪教徒と遭遇した。

 邪教徒達は僧侶服を着た七人の男女と、長剣を携えた八人の剣士という、総数十五人の大所帯だったのだけど、僕たちにとって幸いなことに、彼らは魔物との戦闘に忙しく、僕たちの存在に気づかなかった。

 魔物の方も大所帯で、以前遭遇した巨大カエルが八匹、地下一階でよく見かける大ネズミより更に二回りほど巨大なネズミが八匹いる。

 

 人間側は一度に三人しか前衛に並べないのに比べて、ネズミたちは一度に襲いかかるし、カエル達は後ろからでも長い舌を伸ばして、邪教徒達の自由を奪っていた。

 邪教の僧侶達も回復魔法で援護をするものの、不利は拭えずに、ついに剣士達が全滅し、次いで僧侶達も倒された。

 僕の脳裏には先ほど殺害した親切な中年女性の顔が浮かんだのだけど、何もかもが今更で、何一つどうにもならなかった。

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