表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/204

少年、暗殺者と対峙する

僕たちを見つけて動揺している斥候の三人組を押し退けるようにして暗殺者の三人組が前に出てきた。

 それぞれが短刀を引き抜き、ためらうことなく飛び掛かってくる。


 生き死にのかかった場面に躊躇なく飛び込めるのは強烈な使命感か、訓練の賜物なのだろうけど、その使命感も訓練も、空しく散った。

 シグも、ルガムも、ギーも操る武器は短刀よりも長く、相手よりも体格がよかった。

 おそらく、平時に暗殺という形で狙われれば危険極まりない相手なのだろうけど、ここは迷宮の直線部で、こちらも臨戦態勢を整えていた。

 純粋な戦闘力で勝る戦士に真っ向からぶつかれば粉砕される確率は高い。

 裏を返せば『恵みの果実教会』は虎の子の暗殺者達を、メリットの薄い通常戦闘に投入しなければいけないほどに追い詰められているのかもしれない。


 暗殺者達のあっさりとした死を受けて、後衛の盗賊達が浮足立つ。


「逃がすな!」


 ガルダの命令に従って発動した僕の魔法は、動揺した彼らをあっさり眠らせた。


「よくやった、仲間をよばれりゃ厄介だ。情報を喋らせてから殺す」


 ガルダはナイフを持って気絶した三人に向かって走って行った。



 こういうほめ方をするのはどうかと思うのだけど、ガルダが行った拷問の手管は悪魔のように素晴らしかった。

 僕たちが先日、邪教徒に行った拷問なんか素人の真似事だと思い知らされる。

 敵の斥候達は、自分の置かれた状況を理解させられ、絶望に浸り、希望をチラつかせたガルダにすべてを話した。

 必要なことを全て聞き終えたガルダは、暗殺者達が落とした短刀を拾うと、手近な斥候の足に小さな切り傷を付けた。切られた斥候は目を見開いて息絶える。


「恐いね、即死だ」


 ガルダは刀身を見つめる。

 僕も近くに落ちていた刀身を見たのだけど、粘っこい松ヤニのようなものが塗りつけられていた。暗殺者達が用いるのだから、暗殺用の猛毒なのだろう。


「話が違うじゃないか!」


 斥候の男がガルダを非難した。

 先ほど、助けると約束をした舌の根も乾かないうちに一人が殺されたのだ。


「人を嘘つきみたいに言うんじゃねえよ。こいつに毒が塗ってあるなんて知らなかったんだよ。もし毒が塗ってあるにしてもここまでの威力だと、普通は思わないだろ」


 ガルダは、そう言いながら自分を非難した男の腕を切りつけた。

 切られた男は、驚愕の表情で腕の傷を見つめながら絶命した。


「なるほど、服の上から二回切っても効果はバッチリ。全員気を付けろよ、ひっかき傷でも負ったら死ぬぞ。こいつらの武器には絶対に当たるな」


 ガルダは、震えながら泣いていた斥候の女に短刀を突きつけ、喉を掻き切った。

 シグは苦虫を嚙み潰したような顔をして一連の流れを見ていたのだけど、ガルダの手法も任務の達成に必要だと理解しているようで、口は挟まなかった。

 他の仲間達も、喋ってはいけないルールが出来たように黙ってしまった。

 ガルダは有能なんだろうけど、シグなんかとはあまりに方針が違いすぎる。今回のような特別な事情でもなければ、きっとこの二人は二度と組むことはないんだろう。

 個人的には、嫌いではないのだけど。



 斥候がもたらした情報に従って、僕たちは警戒が薄く、魔物も少ないだろうと思われるルートを進んだ。

 それはつまり、敵が支配下に置こうとして魔物掃討を行った範囲の外縁部になるのだけど、魔物の死体に混ざって、時々、邪教徒達の死体も転がっている。

 そもそも、膨大な量の魔物を抱える広大な迷宮を支配することなんてはじめから無理なことなのだ。

 確保した防衛線も、やがて魔物達に取り返されるだろう。

 いくら狂信的な集団だからって、せいぜいが嫌がらせにしかならない占拠の為に命を賭けるとは、馬鹿げている。

 なんて思っていると、明らかに魔物に殺されたのではない邪教徒の死体がいくつか捨てられていた。


 ガルダが罠を確認して、死体の検分をすると、滅多刺しに絞殺、焼死などそれぞれが惨たらしく殺されていた。


「見せしめの拷問だろうな」


「なんで?」


 ガルダの発言にルガムが聞いた。


「お姉ちゃんくらい力があれば理解できないだろうが、俺みたいなひ弱な男にはよくわかるぜ。仲間達と盛り上がった勢いでここまでやって来たものの、冷静になったら恐ろしくなったのさ。それで逃げようとしたんだろ。人間なんて追い詰められりゃ、やることはどこでも一緒さ。ケツ割って逃げる、そいつを捕まえて他のヤツを脅す。こりゃあ内部はいい具合にヒビ割れているかもな」


 そう言うガルダの表情は嬉しそうだった。報酬が変わらないのなら、こなす作業は楽な方がいい。そのような事を考えているのだろう。



 岩陰から覗くと地下三階に降りる階段の前には、六名の邪教徒達が松明を据えて陣取っていた。通行者を見張る簡易の検問所なのだろう。

 幸いに、他の用心棒は見当たらないけど、騒がれるとすぐに周囲から集まってくる。


「ほら、先輩。出番だぜ」


 ガルダは僕に向かって言った。

 ……出番?

 僕は呆けた顔でガルダを見返した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ