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少年、ボッタクリ商店を訪れ悪漢につかまる

 都市の中央からやや離れた通りに『冒険者の友』と恥ずかしげも無く看板を出しているのがシグ曰く『ボッタクリ商店』だった。

 冒険に必要な道具を、客の足元を見た高値で売っているだけではなくて、迷宮から持ち出される様々な価値ある物をあくどく買いたたく事も行っている。

 客の三組に二組は「くたばれ!」と怒鳴りながら店を出て行くため、店の前の通りが『くたばれ通り』と呼ばれるほどに、ある意味では冒険者に寄り添っている店である。

 それでも、店が潰れないのは、店主が組合だか官僚だかに付け届けを怠らず、冒険者相手の雑貨商営業を新たに営もうとする商人に許可が降りないからだと、もっぱらの噂である。


 僕はそんなボッタクリ商店(正式な店名は『親切なコートンおじさんの便利なナンデモ取扱商店』というのだけど、長い上に気持ちが悪いので誰もその店名で呼ぶことはない)に入ると、壁からリュックサックがぶら下がっている一角に向かった。

 店の奥のカウンターでは酷く無愛想な中年がじっとこちらを見つめている。

 おそらく、あれが親切なコートンおじさんなのだろうけど、決して客から目線を切らない。まるで商品を盗みに来た泥棒を見るような目でこちらを見ているのだけど、これは別に僕が奴隷だからというわけではなくて、全ての客に対してそうなので、ある意味では公平な男だ。

 ちなみに客が増えると、奥からおかみさんをわざわざ呼びつけて、二人がかりで店内を睥睨する。居心地が悪いったらありゃしない。


 それでも、道具は大事だ。

 僕はリュックサックを適当に取って担いでみた。続いて次、また次と端から腕を通し、一番具合がいい物を探す。

 

「なあ、兄ちゃんは冒険者かい?」


 話しかけられて振り向くと、そこには僕と同じくらい小柄な青年が立っていた。

 とはいえ、僕よりもずっと逞しい。赤みがかった肌と髪は、ときどきやってくる隊商のメンバーに見える。しかし、よく日に焼けている。彼らは常にローブを身に纏っているので、通常、顔を除いた肌は日に焼けない。

 

「はい、冒険者ですよ」


「へえ、その外見は西方蛮族の出身だな?」


 ええと、確かに奴隷商が僕を売りに出すとき、そのような口上を述べていた気もする。


「……多分そうですけど」


 自信は無いが答えた。どうも気性の荒そうな人物だし、気に障って殴られたりするのは嫌だった。もし、揉め事になった場合に頼るのがコートンおじさんの親切心というのも心許ない。

 

「ちょうどよかった。ほら、俺って砂漠の民だからよそ者なんだよ。それでも冒険者ってヤツになれるのかな?」


 僕は冒険者組合の会則を思い出す。


「たしか、都市住民ではなくてもしかるべき者の推薦があればこれを承認する、という決まりがあるので、誰か後見人がいれば……」


 ちなみに、僕の後見人は当然ご主人であって、この辺は僕の意思とは無関係に勝手に設定されていた。なお、後見人には毎年謝礼を出すのが慣例だ、などと当のご主人は言っていた気がするが、残念ながら、僕はそのことをすっかり綺麗に忘れてしまっているので、謝礼が支払われることはないだろう。

 

「うぉっほん!」


 店主がわざとらしく咳払いをした。立ち話をするのなら出て行けと言いたいのだろう。

 僕は男に断って会計を済ませた。

 店を出ると、先ほどの男が僕を待っていた。


「よお、俺はガルダ。あっちの陰気くさいのが東洋蛮族のノラだ。よろしくな」


 ガルダと名乗った男が指さす通りの向こう側で黒髪の大柄な男がこちらを見ていた。

 

「あ、どうも」

 

 僕は面倒ごとに巻き込まれるのを避ける為に自分の名前を名乗らなかった。それに、そもそも名乗りたい名前でもない。


「悪いんだけどさ、もう少しだけ話を聞かせてくれよ」


 ガルダは先に歩いて行き、道ばたのベンチに腰掛けた。僕もその隣に腰を下ろす。

 ノラと呼ばれた大男は少し離れた場所に立って背を壁に預けている。

 腰に長刀を差しているので、剣士なのだろう。

 

「これ、知ってるか?」


 ガルダは僕に板きれを差し出した。

 それは、僕が初めて迷宮に入った日に酒場で見た東洋坊主の手配書きだった。


「実はさ、俺たちこの男を追っかけてここまで来たんだよ。そうしたら、こいつは例の迷宮に入っちまったって言うだろ。その上、大金が掛けられた賞金首になっている。だから俺たちも迷宮に入って行って、ぶっ殺してやろうかとも思ったんだけど、よく話を聞いたら無許可で迷宮に入ったらこいつを殺しても賞金は支払われないって言われてさ。それももったいないし……いや、もったいないって言うか、中は広いそうだし迷宮の中で入れ違いになってもコトだろう。だから、俺たちも正規のルートで迷宮に詳しい仲間を募ってよ、こいつを追いかけてやろうって思っているんだ。なに、どうせこの街に滞在していりゃ、万が一東洋坊主が出てきてもすぐわかるだろ!」


 なんというか、ガルダの言葉の半分は僕に、というよりも相棒のノラを納得させるため、という感じで発せられている。その為か妙に声量が大きい。

 多分、東洋坊主を追いかけて来たのはノラなのだろう。

 まあ、その辺りは僕には関係ない。


「なるほど。そろそろ組合も新規学生を募集する時期ですから、いいかもしれませんね」


「それはちょうどよかった。最近知り合った商人が良さそうなヤツでな、そいつに頼んでみよう。その後見人ってヤツは商人でもいいのかい?」


ガルダにはなにやらアテがありそうだった。

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