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少年、仲間に問われて来歴を語る

「あんたは街の外から来たんでしょ。出身はどこ?」


 ルガムに聞かれて僕は言葉に詰まった。僕がどこ出身か、具体的にそれを語る言葉を僕がまったく持たないからだ。

 奴隷狩りに捕まるくらいなので僕が生まれ育った土地は辺境の山村だ。

 しかし、村の名前も、位置も知らない。村でひっそりと暮らすのにそういう物は必要が無かった。

 村にはきちんと親兄弟もいたが、豊かではなく、僕は物心ついた頃から貧しい食事で労働に明け暮れていた。

 たくさんいた兄弟達は病気や事故でよく死んだし、同世代の友人達の死も珍しくはなかった。


「場所はわからないけど、あんまりいいところじゃなかったよ」


 ちょっとだけ考えて僕はそう答えた。

 申し訳程度に採れる雑穀と粗末な野菜の切れ端で日々を過ごしていた。パンなんて年に一度しか食べられなかった。

 それが今ではご主人の店の売れ残りのパンを好きなだけ貰えるし、肉の入ったスープも飲ませて貰える。物置小屋とは言え、個人の部屋まである。

 食事面の話をすれば奴隷になってからの方が豪華になった。その他も全面的に生活水準は上がったと言える。


「ふうん、帰りたいとか思わないの?」


「全然、思わないよ」


 村人は粗食で総じて不健康に痩せていたが、その中でも僕は非力で、有り体に言えば邪魔者だった。

 おそらく村にいても遠からず死んでいただろう。

 そんなわけで郷愁の念とは無縁だ。


「へー、あたしは帰りたいけどな」


 ルガムはへへっと笑った。


「あたしの村はね、なだらかな丘の途中にあってさ、村全体で二〇〇頭も羊を飼ってるの。交代で番をしてさ。その順番があたしは好きだったな。いつも天気がよくて、風が強くて」


 そう言って照れくさそうにしている顔を、僕は不意に可愛いと思ってしまった。

 ルガムは女とは言っても戦士の適性が抜群だ。

 身長は僕より頭一つ高く、腕も足も太い。リーダーのシグにも体格で負けていない。そのうえ、パーティを組んでからの撃破数ではシグをわずかに上回っている烈女だ。

 彼女が振るう棍棒は、対象が固かろうが柔らかかろうが気にせずに相手を叩きつぶす。

 たとえ彼女が素手であっても僕を殺すのには一撃で十分だろう。

 だが、彼女の少年っぽい表情、自分で切ったという肩までの黒髪、厚い皮鎧の上からでも強烈に主張する胸が急に僕の視線を引きつけた。

 僧侶のステアも美人なのだが、そっちはどちらかと言えば芸術品としての美しさで、ルガムのそれはしなやかな獣が持つ神々しさに近い。

 暗闇の迷宮で美醜に価値があるかは難しい問題だけど、僕は急に彼女を女性として意識してしまった。

 気恥ずかしくて、彼女から無理に目線を逸らした。


「……村に帰りたいのなら帰ればいいのに。ルガムは奴隷じゃないんだし」


 僕はどうにかして会話を繋いだ。流れ者のルガムは戦士育成機関の授業料と装備品代、それから滞在費を組合からの借金で賄っていると言うが、それでも全部放って逃げてしまえばわざわざ追いかけては来ないだろう。その点、僕のような奴隷は制度の維持のためもあって、逃走奴隷の再捕獲には相応の費用と人手が掛けられるらしい。この数年、逃亡した奴隷が三日以上逃げ延びたことはない、と奴隷商が教育中に話していた。


「ダメなのよ」


 ルガムは急に渋い顔をした。


「なんで?」


「あたし、村で人を殺しちゃったから」


「へえ……」


 僕は相槌を打ったが、近くにいたステアが表情を曇らせる。

 へばっていたシグやヘイモスもギョッとした顔でこちらを見ている。


「それも沢山」


 彼女はそのまま、事件の経緯を語りはじめた。

同じ中世でも都市部と農村部で大きな文化的隔たりがありまして、農村部と山村部でもまた隔たりがあります。

生活水準は、田舎の小作よりも都会の下層市民の方が上のことが多かったようです。

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― 新着の感想 ―
冒険者しているほうが食事や生活水準がいいんかい! マッコイじいさんを思い出したぞ?
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