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第八話 小休憩

息抜きです。ただ飯食ってるだけです。

「…見つからない…」

 太陽が真上を過ぎた頃、卓也は意識を体に戻した。

 朝から今までずっと潜っていたのだ。

 さすがに卓也の顔に疲れが見え始めていた。

「とりあえず、なんか食べるか…」

 卓也はそう言うと、氷の上を引き返した。

―――――パチン―――――

 氷から降りると卓也は指を鳴らした。

 すると、みるみる氷が溶けていった。




「いただきます」

 卓也は、『祠』まで案内してくれた人がいる村まで戻り、そこにある唯一の旅館で遅い昼食を取った。

 

「あの…」

 卓也が食べ終わると、隣で給仕していた女性が話しかけた。

「何ですか?女将さん」

 卓也は人好きする顔で返事をした。

「いかがですか?調査の方。私たちのようなただの人間には何も出来ませんが、何かあれば何でも言って下さい…山神様のために…」

 女将は食器をテーブルから下げ、卓也に見えないように脇に置いた。

「ここの人たちは、本当に山神様が大切なんですね。他の土地では、『神』に守られていることも知らなかったり、『神』がいなくなったとしても、分からない人たちが多いんですけどね」

「私たちは、遥か昔から山神様を信仰していました。山の恵みは山神様からの贈り物…その贈り物のおかげで今日(こんにち)までこの村は生きてこられたんです…」

「…その贈り物が無くなった…」

「…はい。もう知っているとは思いますが、半年以上前の事です。突然山の様子がおかしくなったのです。花は狂い咲き、本来ならその季節に採れる山の恵みが一つも採れず…そして、一番ひどいのが、川の水が無くなってしまったことです」

「その川は、この村全ての方の支えであったんですね」

「はい。最初は山神様の具合でも悪いんじゃないか…記録では数百年に一度そんなことが起こるとありました…」

「しかし、かつての異変は数日、長くても一ヶ月程度で終わっていた」

「その通りです。しかし、一ヶ月たっても二ヶ月たっても変わらなかったのです…川の水が無くなり、井戸で生活をしておりましたが、その頃になると井戸水も乏しくなってきたのです…私たちはやっと、今までの異変とは違うのではないかと思うようになり、急いで他から水を引き、色々な方のツテを伝ってやっと『組織』の方々に連絡を取ることが出来ました…連絡がついたのは、異変から三ヶ月近くたった頃でした」

「そして『組織』の人間が調査に来て、山神様がいなくなった事が分かった」

「…その時来た方に、どうしてなのか、どうしたらいいのか、と訪ねても『調査中』の一言で片付けられてしまって…その後、何人もの『組織』の方が来て、木を切り倒したり、得体の知れない岩を置いていったり…」

「…山の変化は有ったのでしょう?」

「はい。ありました。狂い咲いた花は落ち着き、川の水は多少ですが流れ始めました…しかし…」

「以前と比べるとまだまだ?」

「はい。残念ながら…。この村も以前のように山の贈り物に頼りきっているわけではありません。生活しようと思えば出来るんです。いいえ、現にこうして生活しております…しかし、そうなると今まで培ってきたものが無くなってしまうような、自分の『根』が不安定になっているような気がして落ち着かないんです…この村は山神様が居てこその村なんです。『組織』の方にもそのように伝え…」

「私が来た、と?」

「はい。ですのでお願いします。山神様を御山に…お願いします」

 女将はそう言うと、卓也に頭を下げた。

「私は、私の持てる限りの力で皆さんの期待に応えたいと思っています。今は、この答えだけで満足していただけませんか?」

 卓也は身振りで女将に頭を上げさせると、しっかりとした口調で言った。

「十分です…十分です。どうぞ宜しくお願いします」

 女将は一度は上げた頭を再び下げた。




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