第七話 海
「さて。まずは上から行ってみるか」
卓也は『祠』の前で完全に日が昇るのを待つと、海辺まで出てきた。
海辺には人影が無い。
卓也は靴を履いたまま、膝ほどまで海に入った。
「・・・・・・」
卓也は指先を海に触れさせると、波の音に掻き消えるほどの声で謡い始めた。
―――パキパキパキ―――
謡い終わると海が凍り始めた。
氷は、卓也が通った地下の流れの上に沿って凍っていった。
「よし」
卓也はそれを満足そうに見た。
「よっよっと…」
氷の上に乗ると滑る事に気をつけてか、ゆっくりと歩き出した。
「ここら辺かな…」
卓也は、しばらく歩くとピタリと止まった。
しばらく氷の上から下を覗き込むと、再び謡いだした。
卓也が謡い終わると再び海が凍った。
今度は、卓也が立っている場所を中心に人一人寝転がれるほどだ。
卓也は足を組み、座った。
遠くからでは分かり難かったことを見るために、卓也は再び気を潜らせた。
さあ、潜ろう…
再び…
光の中に…
ゆっくり…
慎重に…
今度は…
弾かれないように…
海の底…
地底深く…
気が…
命が…
流れている場所へ…
潜っていく…
気の流れを通り…
光へ…
ゆっくり…
そっと…
光の周りを回る…
大きい…
丸い…
丸い球体…
入れる場所を…
探してみよう…
大丈夫…
きっと見つかる…
強い力を持っている…
出入り口は…
鍵穴は…
どこにある…
落ち着いて…
ゆっくり…
慎重に…
大丈夫…
大丈夫…