第五話 仕事
真夜中卓也は山の中にある『祠』の前にいた。
「本当に居ないんだな」
卓也はため息をつきながら呟いた。
「…あんの。わしの役目はここまでなんじゃが…」
卓也の背後に六十代ほどの男性が言った。
この男性はこの山の麓にある村の人間で、卓也を『祠』まで案内してきたのだ。
「あぁ。ありがとう。足元に気をつけて帰ってくれ」
卓也は男性を振り返りながら言った。
「はい。そうさせてもらいんます。…どうか、山神様のこと、おねげえします」
男性はそういいながら頭を下げ、山を降りていった。
「さて、まずは探すか」
卓也は男性が見えなくなると『祠』の周りを見て周り、さらに山奥へと入って行った。
「あなた、今回の仕事本当に卓也一人で大丈夫でしょうか」
「あれだけ鍛えたんだ、最悪生きて帰ってくるさ」
「ですが、今回は成功しなければ意味が無いのでしょう?万が一山神が無に還っていたりしたら…」
「…信じよう。俺たちの子を、我らが弟子を」
「それしか出来ることは無いのですね…」
「ここまでは『通った』後はあるんだけどな」
卓也は一晩中山を駆け回り、山を越えた海に出た。
浜辺の岩場に腰掛、ポケットから一枚紙を取り出した。
「どーすっかなー」
卓也は紙を見ながら呻きだした。
その紙には今回の仕事に関する事が書かれている。
簡単に今回の仕事を説明すれば要点は二つになる。
一つは、この土地を守護してきた山神が突如として行方不明になったので、その原因を調べる事。
もう一つは、山神を見つけ出し、もう居なくならないように結界を張る事。
今回の仕事は山神が存在しながら今、居ないことを前提で成り立っている。
もしも、悪しき者達が山神を無に還していた時、卓也はたとえその者達を捕らえても、山神を元の場所に戻せなかった責任を負わなければならない。
卓也はその理不尽な仕事内容には何も言わずにここまで来た。
「とりあえず、戻って潜ってみるか…」
卓也はそう呟くと『祠』方へ戻っていった。
「さて。はじめるか」
卓也は『祠』の前に座り込むと目を閉じた。
しばらくじっとしていると、卓也の体から霊気の光が迸った。
―――――さあ。行こう―――――
今回、考えていたネタを幾つかつなぎ合わせたら、長編になりそうな予感がしてきました…どうにか、まとめたいと思います。