第四話 時は過ぎ去り
あの日から幾年過ぎた。
卓也は、あれから修行にのめり込むようになり、十三歳のときに初仕事を勤め上げるほどになった。
十歳を過ぎる頃になると、父親は術者としての仕事や『組織』でそれなりの役職についている為にある、雑務などに追われ始め、卓也の修行は父親からの宿題と人手が無い時のみ借り出される母親に見てもらっていた。
あの日から卓也は変わった。
それまでは全てに諦め、修行をただ機械的にこなしていたが、あの日から卓也は強くなりたいと、目標を持つようになった。
幼かった卓也には真坂が言っていたことは、理解しがたいものであったが、卓也は成長し、その『言葉』が解ったとき、『力』はあった方がいいと判断した。
仕事は最初の頃は、簡単な除霊や封印程度のものであったが、次第に父親や母親の監視の元、鎮めや退魔などをやるようになった。
忙しさのあまりか、卓也は真坂の『言葉』も『筒』の中に居た女性のことも十五歳を数える頃には忘れてしまっていた。
今、卓也にあるのは『強くなりたい』という思いだけだった。
「卓也、今度の仕事は気を引き締めてやりなさい」
卓也の十六歳の誕生日を目前にしたある日、父親は今度の仕事の資料と共に言った。
「そんなに難しい仕事なんですか?」
卓也は資料を見ながら父親に聞いた。
「それもあるが、今回はサポートが居ないんだ」
「父さんや母さんがついて来ないと言うことですか?」
「そうだ。それによって失敗した時は、誰かの助力を『組織』に申請できるがそれなりのペナルティーがある」
「術者を続けられないほどの…?」
「失敗の度合いによっては、記憶と力を封印され一般人として生きていくことになる。今回の仕事に成功したらお前は一本立ちすることになる」
「一本立ちをしたら責任は自分で取らなくてはいけない…」
「そうだ。本来なら二十歳前後で一本立ちなんだが、お前は物心つく前から俺が教えていたからな…」
卓也は資料を見ながら淡々と、父親はそんな息子を見ながら少し寂しそうに話した。
「確かに今回の仕事は山神、少しでも気を抜けば死にますね」
「そうだ。心してかかれよ」
「分かりました。明朝出発します」
「…見送りはしない。帰って来い」
「分かりました」
卓也はそう言うと、部屋を出て行った。
「しっかりやれよ、わが息子…いつの日か、アノ約束を思い出すまで…」