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第三話 願い

 卓也は部屋を出た時点で、父親に手を取られ、歩き始めた。


 行き着いた先は、最初に入った部屋だ。


「卓也、座りなさい」

 父親は部屋に入りドアを完全に閉めると卓也の手を離した。

 

 部屋の中央にはテーブルを挟んでソファーが向かい合うように置かれていた。


 卓也は、近いほうのソファーに座った。

 父親は卓也の横に、白衣の男性は向かい側に座った。

「不快な思いをさせてすまない」

 ソファーに座ると白衣の男性は二人に頭を下げた。

「気にしないで下さい。卓也にも非はあります。卓也お前どうやってあの部屋に入ったんだ?」

「ドアが開いていました」

 卓也は父親を真っ直ぐ見上げてハッキリと言った。

「それは本当かい?それはこちらの落ち度だ。あの部屋は私を含めて五人しか入ってはいけない部屋なんだ。だから、戸締りは厳重にしなければならないのだが・・・」

「…あの部屋の人たちは僕やお父さんのことをあまり気にしていないようでしたが」

「それは…『科学者』と言われる連中は自分の研究以外気にしない輩が多いんだ。さっき部屋に居た連中はそれが強いんだ」

 白衣の男性は少し諦めた…そんな表情を浮かべた。


 ほんの少しの間部屋に沈黙がながれた。


「あの、マサカさん?聞きたいことがあります」

「おや。君には名乗っていなかったと思うが…あぁ、コレが読めたのか。賢いな…それでなんだい?」

 白衣の男性は少し頭をひねったが、自分の左胸に『真坂』と書かれたネームプレートが目に付いた。

「…習った字が読めたぐらいで賢いとは言いません。…えっと、聞きたい事というのは、あの部屋にいた女性のことです」

 卓也は事も無げに言ったが、父親が目線を向けて居るのに気が付くと、話題を変えた。

「あの子のことが気になるかい?」

「はい」

 真坂は卓也の返事を聞くとスッと席を立ち、卓也の横に膝をついた。

「あの子の事はあまり教えられないんだ。すまない。けど、さっき君にあの子の事を教えた人間の言葉は間違っていると、そこだけは教えよう」

 真坂は卓也の手を取り、目線を合わせた。

「あの子は人形じゃない。生まれ方は特殊だけど、ちゃんとした人間だと私は思っている。君はあの子が悲しそうだと言ったね。私たちには解らないけど、きっと君とあの子は波長が合って感じることが出来るんだと思う」

 真坂は慈しむ様にいった。

「あの子はもうすぐ『外』に出る。そして、十年ぐらい先になると思うが、あの子は『外の世界』に出て行く。勝手な願いだが、もしその時まであの子の事を覚えていてあの子を引き取れる()()に居たのなら、あの子に『心』を教えてほしい」

「『心』?」

「そうだよ。今までの子は『心』はあっても、その表し方が解らなかっただけだと思うんだ。だから、もし、覚えていたら出いいんだ、あの子に会ってくれるだけでいい。たのむ」

 真坂はそう言うと、卓也に向かって頭を下げた。

「なぜ、僕に頼むんですか?頭を下げるんですか?」

「君だけだから…あの子の事を気にかけてくれたのは。だから、たのむ」

 真坂は顔を上げると、やさしい顔で卓也を見た。

 卓也にとってこの話は理解しがたい事もあった。

 しかし、真坂に取られた手から真坂の『心』あの子を本当に思う『心』を感じ取った。

「今の僕には、ちゃんとした約束は出来ません。でも、いつかきっとあの人に会います。きっと」

 卓也は、真坂の目を真っ直ぐ見つめ言った。

「ありがとう。それで十分だ」

 真坂はそう言うと、卓也の手を離した。


「そろそろ会話に入ってもいいかな?」

 会話に区切りがついたと判断した父親が、沈黙を破った。

「お父さん。ごめんなさい」

「・・・すまん」

 二人はそれぞれ言った。

「別にかまわんさ。しかし、そろそろ時間なもんでね」

 父親はそう言うと、立ち上がり卓也もそれに続いた。

「わざわざ来てもらってすまない」

 真坂は二人のためにドアを開けた。

「たまには、友の顔を見るのもいいもんだ。気にするな」

「ありがとう」

「…いつかまた」

「あぁ」

「さようなら」

「さようなら」

 別れを告げると二人は部屋を建物を、そして、敷地から出て行った。




 その日の夜、卓也は真っ白な便箋にこう書いた。

 ――――――― いつかあの人に笑顔を ――――――――

 たった一行書かれた。

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